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「見たか?隊長の様子」
「あぁ。あの人があんなに熱の入った眼で動いてるなんて、浄化戦争以来だ」
「訓練にしても仕事にしても、明らかに以前と空気が違う。分かりにくいが、間違いない」
「大口の仕事が入った訳でも無いのに、何で上機嫌なんだ?そもそもあの人、この世界に楽しみがあったのか?」
「酒の時も煙草の時も、残業みたいな顔してるしな」
「口を慎め。隊長は、俺達と根本から違うんだ。“印”を持つお方だぞ、俺達の様に分け与えられた印とは訳が違う」
「分かってるさ。でも今回の件、明らかに隊長は日頃より熱が入ってる。酒でも煙草でも、黒魔術でも眉一つ動かさない様な人がだぞ?気になるだろうよ」
「………思っている以上に、今回の件は深刻なのかも知れないな。少なくとも、あの人がそこまで関心を寄せるなら決して浅い問題じゃ無い筈だ」
「たかがレイヴンにか?そりゃ他の連中に比べたら手は掛かるだろうが、それにしたって隊長が眼を付ける程じゃ無いだろうに」
「だが、現に隊長は今回の件にかなり関心を寄せているんだ。あの人は理由無く執着する様な人じゃない」
「ここ最近だろう?あの人があんなにレイヴン達や黒魔術に執着し始めたのは」
「あぁ。黒魔術を使っている事が判明した時も多少優先順位は上がったが、それでもここまで深い関心は示さなかったからな」
「分からねぇなぁ、ウルグスの黒魔術………“印”に執着し始めるってんなら、まだ話は分かる。だが、印にしたってもう少し前から知ってた筈だ」
「そこなんだ。レイヴン駆除も、ウルグスの黒魔術を扱っているという噂も、何も今出た話じゃない。前からその情報は揃っていたんだ。なのに、隊長が眼に見えて関心を示し始めたのはここ最近の話だからな」
「元々、レイヴン程度で今更騒ぐ様な人でも無いしな…………何があったんだ?」
「分からない、としか言えないだろうな。亜人達が大きく動いているのが気に食わない、て事も無いか。あの人だからな」
「亜人が黒魔術を振りかざしているのが気に食わない、て線は?」
「無いだろう。それなら以前の仕事で、虚無の切れ端を使って黒魔術を扱っていた亜人を始末する仕事、あの時に同じ様な反応を見せていた筈だからな」
「皆言ってるが、例の新聞記事を見てから変わったって線はどうなんだ?」
「考えたさ。だが新聞記事を見ても何一つ、隊長が関心………執着を見せる様な記事には見えない。今更、帝国が騒ぎ立てた程度の記事なんて大した情報でも無いだろうに」
「新聞記事、か。ルークワギー議事堂の件だろ?」
「ルークワギー議事堂の件や、オイレンブルクの下らないインタビューが載ってる、下らない記事だ」
「だけどあの記事を読んでから隊長は、レイヴン駆除や“印”探しに集中し始めた、って皆が言ってるぜ?客観的な事実は覆し様が無いだろ」
「確かにそれはそうか…………何か、言ってたんだよな?隊長は。覚えているか?」
「言ってたって?」
「隊長が、新聞記事を読んで幾らか呟いてたって仲間内で少し話題になったろ。俺はその時居なかったんだよ」
「あぁ、その事か。確かに何か言ってたな、何だったか………別の奴が良く覚えてたんだが、あんまり覚えてないな」
「隊長は何て言ってたんだよ?」
「何だったかな、聞いた話だが………“鳴る程な”とか“そういう事か”とか、“あのクソフクロウめ”とか言ってたらしい」
「その上、少し笑ってたとか何とか」




