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ある戦闘員の報告記録より抜粋
1827年
落雪の月、28日。
珍しい事もあるもんだ。
俺もこの団で戦闘員に任命されてから暫く経つが、あんな奴は初めて見た。
最近リドゴニアから来たあの余所者、7フィートはあるサメみたいなラグラス人。
変な訛りで喋っては周りから聞き返されてる、妙な雰囲気の大男。
ユーリと呼ばれているその大男が、あのメニシコフ教官から信じられない程に気に入られている。
冗談でも無いし、皮肉でもない。本当の意味で、メニシコフ教官が気に入っているのだ。
近年、レガリスとの戦争間近で益々険しい顔をしている、あのメニシコフ教官が。
まぁ変わり者ではあるが、ユーリが優秀なのは否定しようが無い。
レイヴン訓練課程と認定試験において信じられない程の好成績を残し、周りからの評判も悪くない。
模擬戦闘訓練では、刃が付いていないとは言え訓練用の斧を握ったユーリを、誰しもが避けようとする。
腕に覚えのある何人かは良い勝負をしたが、それだけだ。
訓練の内に加減を間違えたのか、思い切りあの岩石みたいな拳で腹を殴られ、嘔吐してしまった者も居た。
その癖、そう言った強さをやたらと自慢する様な事も無く、かと言って変に嫌味な所も無く、頼りになるのは間違いない。
妙な訛りがあったり酒と煙草の一切を断ったりと、変わり者なのも事実だが。
しかしそれにしたって、あのメニシコフ教官があそこまで気に入るとは、随分と驚いたものだ。
あの人があれだけ気に入るとなると、レイヴンどころか例の懐中時計まで授与されるかも知れないな。
いや、確実にされるだろう。
またメニシコフ教官が気に入っているだけでなく、ユーリ自身も随分と忠実に従っている。
勿論他の奴が従わない訳じゃない、メニシコフ教官の周りに居付いている連中で教官の言う事を聞かない奴など居る訳が無い。
なのにわざわざ、“忠実”と言うのには勿論訳がある。
俺達みたいに階級や恐縮故の忠実さじゃなく、奴は本当に敬意からメニシコフ教官に従っているらしく、教官も見抜いたからこそ気に入っているらしい。
先日、メニシコフ教官がユーリを酒に誘ったのも驚いたが、それを真顔で「酒と煙草は遠慮しているんです」と断ったユーリには、正直胃が飛び出るかと思った。
もう少しでユーリを取り押さえて言う事を聞かせる所だったが、教官が笑いながら「なら酒と煙草は抜きで飯でも食うか」と誘い、ユーリも「それなら」と頷いたもんだから、夢でも見てた様な気分だ。
最後の方は何やら、サメの肉がどうのと盛り上がっていた。
サメ肉は俺達も食うし、ペラセロトツカやリドゴニアでは郷土料理にも良く出てくる。
現に俺だってサメ肉のシチューは食うし、ソテーだってステーキだって大好きだ。
それは、分かるんだが。
何でサメ肉の料理だけで、あの2人はあんなに盛り上がれるんだ?




