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「聞いた?タビサの件」
「あぁ、もう年末なのに何やってんのかしらね、ほんと」
「笑っちゃうわよね。男の間で噂になるぐらいタビサのケツが安いのは皆知ってるけど、そのタビサを“使う”どころかファビアンの奴、男の癖にケツ蹴飛ばされて追い払われたんでしょ?」
「幾ら娼婦紛いの女だからって、実際タビサは娼婦でも何でも無いのにね。あの女を無理矢理抱こうとして断られた上に、ケツ蹴られるなんて落ちる所まで落ちたわね」
「最近、ブロウズを追い出そうとして署名がどうのー、って走り回った挙げ句に却下されて無様晒して、笑い者にされてたのが相当堪えてたんでしょうね。“そんなにケツが寂しいならお仲間に耕してもらえ”って追い払われたんだとか」
「最悪ね。酔っ払いのイラリオンの件と言い、今回ブロウズを追い出そうと署名を集めていた連中はもうおしまいね」
「確かにイラリオンもファビアンもクソ以下のクズに落ちたけど、皆が皆じゃないわ。“ブロウズに負けるな”クラブの連中はまだ全然残ってるらしいわよ」
「そうなの?どんな顔して歩いてるのか、それはそれで見物ね。というか、“カワセミ”は?荒事ならラシェルでしょうに。それこそファビアンを“耕して”るかも知れないじゃない、ラシェルなら。ついでに歯も折ってくれるんじゃない?」
「ラシェルに頼むまでも無かったんでしょ、あの様子なら。タビサが自分から動いたんだから、クズな上に大した男でも無かったみたいだし。娼婦扱いしようとした女に追い払われるなんて良い気味ね」
「…………ラシェルと言えば、ラシェルがあのブロウズの追放反対に署名したって本当なの?」
「その話する?」
「何よ良いじゃない、まずいの?」
「まぁ、別に何かまずい訳じゃないから良いけど。本当らしいわよ、何のつもりかしらね」
「あのラシェルがねぇ………案外、ブロウズ云々も捨てたもんじゃないのかしらね」
「ちょっと、正気?」
「別にタビサみたいにケツ振ろうってんじゃないわよ、ラシェルは見境無しだけどバカじゃないでしょ?」
「…………まぁ、其処らのアホよりはよっぽどマシなのは確かね。でもあのブロウズよ?浄化戦争の……」
「言われなくても分かってるわよ、奴隷制度存続の為に散々ラグラス人を殺したクソ野郎ってんでしょ?だけど、この団がそのクソ野郎のお陰で持ち直し始めたのは事実じゃない」
「ちょっと、やめてよ」
「気に入らないのは分かるわよ、でもそうでしょ?あいつが来た半年前………だっけ、あの時からウィスパーだって動き始めたし暫く落ち目だったブラックマーケットだって、復興したじゃない」
「……ほら、ライターあるわよ」
「ありがと。…………シャルリーヌだってそうだったじゃない?今回の件でブロウズは処刑するべきだ、と色々文句は付けてたけど、あのシャルリーヌが散々飲んでるあのウィスキーだって、団が復興したからこそ浴びれる程に仕入れられたのよ?」
「あくまでブロウズのお陰で復興した、とするならね。団が持ち直し始めた頃に丁度目に付く奴が入ってきていた、ってだけの話でしょうに。大体あのロニーだって確かに団じゃ人気者かも知れないけど、ガキには変わり無いわ。カラスの黒魔術がカッコいいと思ってるだけなんじゃないの?」
「それならクルーガーは?まさかクルーガーまでカラスがカッコいいだけで味方してるだけ、とでも言うの?」
「………あーもう分かった、分かったわよ。でも、一つだけ言っておくわよ。ラシェルだって、何もかも正しい訳じゃないのよ?あの青いガキに影響されちゃっただけの可能性だって、十分にあるんだから」
「カラスに耳啄まれる様になってから後悔しても遅いからね。それだけは、言っておくわよ」