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「そう言えばラシェル聞いた?もうすぐ灯火管制が終わる、って話」
「んー?」
「ほら言ってたじゃない、灯火管制も後ちょっとで終わるだろうからー、みたいな話よ」
「あぁ言ってたわね、周りが辛気臭い事を除けば別に私は嫌いじゃないわよ、灯火管制」
「嘘、最初に灯火管制が発令された時は一日中文句言ってたじゃない」
「そうだったかしら?」
「そうよ。あんなに言ってたのに忘れたの?」
「忘れたわ。別に今は気にしていないし。それに、ねぇ?」
「何よ?」
「マリーは暗い方が好きでしょ?灯り消したら喜んでたじゃない」
「バカ、怒るわよ。灯火管制なんて私だって好きじゃないわ」
「はいはい、明るいと素直じゃないんだから。それで?灯火管制が何?」
「その灯火管制の理由よ。ほら、あの男。帝国から追い出されたあの男の事」
「…………あぁ、あのブロウズね。あいつがどうかした?」
「どうかしたも何も、あのブロウズが原因で今回の灯火管制が発令されたって話じゃない?」
「そんな話もあったわね。あの“悪魔の使い”が自分の惚れた女を殺せなかったから身元が割れて、今回の騒動になったんでしょ。“グロングス”もヤキが回ったわね。それとも殺すのを躊躇う程、よっぽど“味の良い”女だったのかしら」
「もう。その話なんだけど、今日ブロウズの後輩から話し掛けられたの。その事について、少し話を聞いて欲しいって」
「ブロウズの後輩?あいつに“後輩”なんて居たの?“先輩”なら其処ら中に居るでしょうけど。誰?どこのどいつよ、あんなのの“後輩”なんて名乗る物好きは?」
「ロニー君よ。ほら、あのラシェルが“若ヤギ(カプリット)”って呼んでたじゃない。あの子よ」
「………………あぁー、あの見るからに童貞の、ブロンド坊主のレイヴン志願者ね。あいつ、ブロウズの後輩になったの?」
「もう、すぐそんな風に言わないの。それにもうロニー君は最終選抜に合格したから一応、正式なレイヴンよ」
「そんなの知らないわよ、何回も私の胸見ては顔背ける様な青臭いガキなんだから。あれでバレてないと思ってる様なガキなんて、カプリットで充分よ」
「そんなに大きいからでしょ、あからさまに見つめないだけ誉めてあげなさいよ。とにかく、その自称“後輩”のカプリット君が今日、色んな人にブロウズの事を説明してたのよ」
「あいつの事を説明?何を説明するってのよ、皆説明されるまでもなく“悪魔の使い”には詳しいでしょうに。今更聞きたい奴なんて居るの?クソの回数でも知りたいのかしら」
「素性じゃないわ、今回の件よ。ほら、今回の灯火管制も厳戒態勢も、ブロウズの不始末じゃない?その弁解だか弁明だかをする為にわざわざ、私達の所にまで来たんだって」
「………惚れた女を殺せなかった、て話じゃないの?」
「一応、厳密には違うそうよ。あくまでカプリット君と………クルーガーの話によればね」
「あら、“悪魔の使い”の弁解にクルーガーまで居たの?随分な話ね。それで?あいつの後輩はどんな言い訳をしてたの?」
「あくまで聞いた話だけど、ブロウズは元々惚れた恋人でも殺すつもりだったそうなのよ。それはそれ、これはこれってね」
「へぇ、見直したわね。肩にカラスが留まるだけあるわ、惚れた女でも見境無しとはやるじゃないの」
「そんな怖い顔しないの、その顔やめて。ほら、やめなさい」
「分かったわよ、それで?じゃあ何で殺せなかったの?タマでも蹴飛ばされたの?あれだけ散々殺しておいて、昔ナニを握られた女には敵わなかったって事?」
「何でも、その女に妊娠してるって言われて咄嗟に殺せなかったらしいわよ。“赤子まで殺す事になる”って。私はてっきり赤子でも、“大人より楽だ”って真顔で踏み殺す様な奴かと思ってたけど。浄化戦争であれだけ殺しておいて、何が今更気になるのかしらね」
「…………………どれだけ殺しても妊婦は殺せなかった、か」
「ラシェル?」
「マリー、火貸してくれる?」
「え?良いわよ、はい」
「ありがと。それで?ブロウズはどうなったの?」
「え?あぁ、もうすぐ処刑なり追放なりされるんじゃないかって話よ。殺気立った連中が“ブロウズを処刑するべき”って署名まで集めてるしね」
「………そう。悪名高き“グロングス”もいよいよおしまいかもね」
「それで、カプリット君とクルーガーが今回みたいに弁明して回って、ブロウズの処分に反対する連中、要するに味方を集めて回ってるそうよ」
「へぇ、“味方”ね。…………ブロウズに味方する物好きは、どのぐらい集まってるの?」
「え?えっとそうね、カプリット君曰く、後もう少し署名を集めればブロウズの処分を免れるかも知れない、って言ってたわ」
「じゃあ私達、此処等の女団員の間でブロウズの味方として署名してる奴は居た?」
「署名?えっとそうね、確か…………マルジョレーヌは署名してたわ。ほら、あの子は幼子を亡くしたから………きっと、思う所があったんでしょうね。後、似た様な境遇のが何人か。逆にシャルリーヌは、散々言い返した挙げ句に唾吐いて帰ったけど。グロングスなんて、殺す方に署名してやるとまで言ってたわよ」
「………ねぇ、マリー」
「何よ?」
「そのクソ童貞のカプリットは、何でそんなにブロウズの肩を持つんだと思う?元々団に居たなら、それこそシャルリーヌみたいに唾吐くのが当たり前なのに」
「さぁ、知らないわ。“妊婦を殺さなかったのが答えだ”とか、“ウィスパーだって動き出したろ”とか何とかシャルリーヌと言い合ってたわよ。最後にはクルーガーが仲裁に入ってたけどね。“あいつが居なきゃ団は勝てない”とか叫んでたし、それこそカプリット君は“黒魔術”でも掛けられたんじゃない?」
「ウィスパー、か。確かにそうよね」
「ラシェル?」
「黒魔術が使える奴が、味方に越した事は無い……………」
「どうしたの?灰が落ちるわよ」
「……………はーぁ、ったく、しょうがないわね」
「何よ?」
「そのクソ童貞のカプリット、今何処に居るか分かる?」




