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「ニコラウス、脚の具合はどう?」
「君が来てくれたからもう全快だ、と言いたいが正直まだまだ痛いよ。痛み止めをもっと欲しい所だが、医者から止められててね。鍛練は暫く休むしかないな」
「全快したら、またベアナックルで戦う貴方を見たいわ。指の方はどうなの?もう平気そうだけど……」
「添え木が邪魔なぐらいさ。私としてはもう治ってるんだが、何度聞いても“勝手に外さないでください”の一点張りと来た。あの医者め、私があのベアナックルで現役選手すら倒した男だと分かっていないらしい」
「仕方無いわよ、今回の医者は実際に貴方のあの、闘技場での勇猛な戦いを見ていないんだもの」
「あぁアマンダ、やっぱり君は私の一番の理解者だよ。それより君も大変だっただろう?まさかレイヴンがその…………知人だったなんて。君も殴られたんだろう?痣になったりしなかったかい?」
「平気よ、まるで平気。少し鼻が痛かったぐらいで、何とも無いわ。それに知人と言ったって、向こうがしつこく付きまとって来ただけで私としては知人どころか、“しつこい奴”程度の認識でしかないわ」
「いやはや驚いたね、私の妻は美しいだけでなくレイヴンにも屈しない女性だったとは…………記者達の取材はどうだい?失礼な奴等が多いから、心配してるんだが」
「何て事無いわ。私の話を勝手に膨らませる以外は只の根性無しよ、失礼な奴も居たけど強く言い返せば帰っていくし」
「その記者の名前は?」
「ふふ、気にしないでニコラウス、本当に大丈夫よ。だからそんな顔しないで、脚の傷に障るわよ」
「すまない、つい。でも分かってくれよ、“運命の女性”に失礼な態度を取る奴が居たら、男なら許せる訳が無いだろう?しかし、まさかあの“狂人ブロウズ”がな…………私の妻にまで手を上げるとは、次会ったら只ではおかん。考えるだけで腹が煮える、全く」
「どうせもう来ないわよ、大丈夫。貴方が来る前に思い切り言い負かしてやったもの、むしろ此方から蹴り飛ばしに行ってもいいぐらいよ」
「ははは、敵わないな。何て言ってやったんだ?」
「…………別に大した話じゃないわ、昔の事を少しね。ブロウズは何故か“子供の事”に酷く怯えるのよ、ちょっとつついたら明らかに動揺してたわ。今頃逃げ延びたカビ臭い地下室で、枕でも抱えて泣いてるんじゃない?」
「結局は、穢らわしい亜人に顎で使われる程度の小物よ」