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「幾ら念を入れるにしても、些か多すぎませんか?」
冗談交じりにも聞こえるオイレンブルクの言葉に、ウィンウッドが冷めた目で振り返る。
「話は通っているだろう」
緊急総会が行われる議事堂前にて、護衛に付き添われながら議事堂本館に向かう2人の周りには、オイレンブルクの言う通り随分な数の兵士が行き来していた。
クランクライフルやサーベルを手にしている兵士や、軽量合金の鎧を着込んだ上級衛兵こと装甲兵。
帝国軍が表だって警護している事を踏まえても、随分な兵力が集まっている。
「まぁ念を入れるに越した事はありませんが………それにしても総会の直前で、随分と増員したものですね」
半ば呆れている様にさえ見えるオイレンブルクに、ウィンウッドが冷めきった目のまま言葉を返す。
「手を抜いて良い仕事とそうでない仕事ぐらい区別した方が良い。今回の緊急総会を前者だと思うのなら、次回からは別の者に担当させる」
切り捨てる様な言葉にオイレンブルクが微かに焦りを滲ませた様子で、言葉を紡いだ。
「いえ、念を入れる事については勿論賛同していますよ。これだけ鉄壁の警護などそう見れる物ではありませんので、少し驚きましてね」
そんなオイレンブルクの様子を見て、護衛に付き添われつつウィンウッドは僅かに眉を潜める。
この警護総責任者は、今回限りにした方が良さそうだな。
余りにも、危機感が無さすぎる。
胸中でそんな評価をオイレンブルクに下していると、そのオイレンブルクがふとウィンウッドの腰に目を留めた。
腰に下がっている剣は、直線的なサーベル。
上流階級にありがちな華美な装飾も無く、叩き上げの士官から借りた様な武骨なデザインをしている。
「これだけの“念の入った”警護の中で、自身も剣を下げて会議室に入るのですか?」
態度にこそ出さないものの、オイレンブルクのその眼は明らかに不服そうな色を醸していた。
そんな様子を見て、ウィンウッドが露骨に嫌な顔を見せる。
表沙汰に出来ない過去とは言え、実際に現場で人を切り捨てて血塗れになって殴り合い、幾度となく生命の危機を感じて尚生き延びてきたウィンウッドに取って、目の前の現場をまともに経験した事も無い能天気な上流階級の小僧は、勘に障る存在だった。
「万が一に備える、と予め説明した筈だが」
この警護責任者に全て任せなかったのは、正解だったな。そんな事を考えながら冷淡にウィンウッドが返す。
当のオイレンブルクは、酒場にでも向かっている様な軽快さで笑みを溢しつつ、鼻唄でも歌いそうな調子で返した。
「剣で議会を制する時代はとうに過ぎましたよ」
そんなオイレンブルクの軽口に、分かりやすくウィンウッドが眉を潜める。
他の部下の様に、殴れる立場なら手早く指導出来たろうに。
間違いない。話にならない程こいつは弛んでいる、レイヴンなど来る訳が無いと信じきっている。
呆れが混じった感情のまま、ウィンウッドが少し空を見上げた。
こんな能天気な小僧は当てにならない、実際にレイヴンに対峙したら鼻か腕を折られて弾除けにされるのが関の山だろう。
そんな事を思われているとは知らないオイレンブルクが、わざと仰々しい仕草と共に腰の剣に手を掛ける。
「万が一レイヴンが現れたら自分が直々に叩きのめして見せましょう。亜人どもにそんな度胸があるなら、むしろその勇気を讃えて茶会に誘っても良いぐらいですがね」
顔をしかめたまま、ウィンウッドが扉を潜った。




