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「そう言えばよ、ワグナー・ホーキンスだっけか。あの英雄サマはこんなレイヴン騒ぎの時に何やってんだ?」
「さぁな。もう生涯に渡って、美味い飯食ってクソしてるだけで、夢に出るぐらいの金貨が雪崩れ込んでくる立場になったんだ。今更レガリスどうこうには興味無いんだろ」
「浄化戦争の英雄なんだろ?レイヴンだの亜人だのを駆除するのがバラクシアで一番上手い人間じゃねぇか。今こそ、活躍するべきだと思うんだがな」
「駄目だろうな。英雄になって立場が約束された途端、ワグナーは帝王の薦めで退役したらしいぜ。“もう一生分の功績と武勇を立てた、ここで殺されでもしたら帝国の損失だ”って」
「退役?」
「公式には怪我による後遺症で已む無く退役、て事になってるが実際には五体満足で悠々と退役したらしい。あくまで噂だが」
「…………退役、か」
「ワグナーは今や帝王様のお気に入りだ。よく勘違いされがちだが隠密部隊出身で、ワグナー自身もあの狂人のブロウズに負けず劣らず、街が出来るぐらいの亜人どもを殺してきてる。ブロウズも本来はその立場に居ただろうに、バカな事をしたもんだ」
「狂人のブロウズ、か。今頃、ブロウズは後悔してもしきれねぇだろうな。それで、その立場になったワグナーは悠々と過ごしてる訳か?」
「あれだけの武功と実績を立てて、帝王の茶会に呼ばれる程にワグナーは気に入られたんだ。奴自身も奴の家系も、未来永劫“飯と栄光と女”には困らないだろう。まぁ、ワグナーは天涯孤独の身らしいが」
「想像も付かねぇな、同僚から賭けの負け分をネタにウィスキー奢らせてる自分がバカらしくなってきやがる」
「比べる相手が悪いさ、それを言い出したら俺達に踏まれる事を生業にしてる奴等なんか、今すぐ死にたい程に惨めだろうよ」
「………ワグナーは、これからどうすんだろうな。もう二度と俺達と会わない事だけは確実だろうが」
「これから死ぬまで、ケツを使用人に拭かせても釣りが来る人生なんだ。これからは小さな島かデカい宮殿でも買って、高い酒のついでにグース・ガーデンから毎日女を買う毎日だろう。“身に余る栄光”を賜った男ってのは、大体がそうなる」
「流石は、英雄サマか。だが、まぁそれなら今更呼び戻しても役に立たないと思った方が良さそうだな」
「あぁ、もう浄化戦争終結から何年も経つからな…………」
「幾ら英雄サマだろうと、もう腐り切ってるだろうよ」