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ヨミガラスとフカクジラ  作者: ジャバウォック
126/294

124

 レイヴンマスクが顔に押し付けられ、風切り音が耳朶を打ち続けている。





 鳥類の翼ともまた違う、昆虫類にも似た羽根が残像を引きながら俺の真横で忙しなく羽ばたいていた。


 駆動機関が唸りを上げているのが、手を触れるまでもなく機体から伝わってくる。


 だが、逆に言えば唸りが伝わってくるのは機体からの振動だけだ。耳に栓をされたかの様に、この耳には風切り音しか聞こえない。


 加えて言えば、予め分かっていたとしても駆動機関の動力だけを頼りに大空を飛翔すると言うのは、想像以上に肝が冷える経験だ。


 何せ、この新型航空機“ウィスパー”には、気嚢が無いのだ。よく飛行船を風船に例える者が居るが、その風船すら付いていない。


 紙細工がつむじ風に乗って舞い上がっている様な、不思議な感覚。


 飛行船にも駆動機関はあるし、プロペラもある。だが、少なくとも気嚢に異常が無ければ直ぐ様落下、という事は無い。


 クラウドラインだって少なくともレールに吊られているし、レールを辿れば気嚢や都市に繋がっている。


 だが、ウィスパーは縄も紐も繋がっていない。


 駆動機関が羽根を羽ばたかせているだけで、何一つ確かな物が無い。言ってしまえば、この羽根の動きが鈍くなり、不具合が起きれば最早それだけで俺達は空の底に消えてしまう。


 たった、それだけでだ。


 言われるまでもなく、ウィスパーに限らず航空機も飛行船も同じぐらい、不具合が起きる事は分かっている。


 だが、だがそれでも、万が一の時に気嚢にぶら下がる事すら出来ないと思うと、肝が冷えるのは否定出来なかった。


 クラウドラインの時もそうだが、理屈ではどうしようもない感覚という物はある。


 しかし、俺が後部座席で各種ベルトを締めて肝を冷やしているのに対し、前部座席のラシェルは一歩間違えば駆動機関が停止し、今すぐ空の底まで一直線に落ちると言うのに、見るからに落ち着いて操縦していた。


 慣れている、と言われたら最早それまでだが、よくもまぁあんなにも落ち着いて操縦出来るものだ。


 前述した危険性もさる事ながら、正面に風防があるとは言え俺達は屋根の無い航空機から顔を出している上、速度計を見る限り現在のウィスパーは時速60マイルは出ていると言うのに。


 そんな事を考えていると後部座席に取り付けられた計器の一つ、前後通信機が明滅する。


 前後通信機とは言うものの、やっている事は伝声管に近い。


 グリップについてるボタンを押せば、押している間だけ相手の信号表示器の蓋がスライドして、指の爪程の小さなディロジウム灯が現れる。そして、ボタンを離せば蓋が戻る。


 この明滅で、今の様なまともに音が聞こえない状態に前後の二人は意志疎通を行う訳だ。


 少しの呼び掛けの後、此方が応答を返すと信号が来た。


 “もうじき着く”


 そんなラシェルの信号に改めて顔を上げ、目を凝らすと雲と霧で霞んだ先に目標らしき飛行船が小さく、だが確かに見える。


 “確認した”


 此方もグリップを握ってボタンを押し、明滅で向こうに信号を送る。


 いよいよか。


 風切り音の中、レイヴンマスクの下で小さく息を吸った。


 ダニール・ヤンコフスキーが演説しているであろう“セオドア・フォークス”は、この距離からでも分かる通り、決して小さな飛行船ではない。


 遊覧飛行船たるセオドア・フォークスは元々が乗員数に余裕のある中型客船である事に加え、本来なら少数の筈の憲兵を最近の情勢を鑑みて大幅に増員するのみならず、航空機に襲撃された際の対応として対航空機用の兵器まで搭載した上で今回の講演を行っている。


 確かに今回の目標ダニール・ヤンコフスキーはラグラス人の奴隷だが、高名な奴隷促進派の議員が所有しているともなればレガリスで虐げられている他の奴隷と違い、万が一にも“手違い”が起きては困るのだろう。


 何せ、ただの奴隷では無いどころか、世にも珍しい“周りにも奴隷を広めてくれる奴隷”なのだから。


 よってそんな“敬虔なる贖罪者”を乗せた飛行船、セオドア・フォークスは近年の上流階級の遊覧船にも引けを取らない程の、正しく万全の警護と言えた。


 あの後、会議室でも「航空戦で何とか出来ないのか」とアキムと少しばかり話したが、黒羽の団が保有する現在の航空戦力では真正面からあの飛行船と戦闘する事は、可能ではあるが得策では無いらしい。


 調査資料から見ても恐らくは航空戦に踏み切れば向こうのみならず此方も損害を負う事は違いなく、その上セオドア・フォークスには憲兵や帝国軍とは無関係の奴隷の主人、罪無きキセリア人達、加えてラグラス人の奴隷や貧困層労働者も無視出来ない人数が搭乗している。


 航空戦で勝利したとしても、そうなると飛行船を撃墜する可能性が非常に高くなる。

 そうなれば、それだけの無実の人々を空の底まで叩き落とす事と同義になってしまう。


 かといって無傷で占拠する様な事もまず難しいだろう。不可能では無いだろうが、航行不能にしつつ墜落させず、かつ自船を隣接させて敵の飛行船に乗り込むと言うのは、想像以上に難しい仕事だ。


 不可能ではないから可能、という訳にも行かないのが世の常でもある。


 そうして、撃墜する訳にも行かず、撃墜せずに占拠する様な真似も難しい、堅い警備と戦力の飛行船セオドア・フォークスに対し、我等が黒羽の団が取った作戦は“少数精鋭たるレイヴンを殆ど単身で突入させ、目当ての首を切り飛ばして脱出させる”という、此方が死線を潜る事を前提とした危険な作戦だった訳だ。


 勿論ながら、先述の理由もあって真正面からウィスパーでセオドア・フォークスの鼻先に突っ込む訳にも行かない。


 目標の飛行船が他の航路より下層空域に近い低高度、この霧深い航路を航行するこの日を選んだ最たる理由は、そこにある。


 黒羽の団本拠地のカラマック島及び、この空域一帯を長年レガリスの帝国軍から覆い隠してくれている、不気味とも幻想的とも言える深い霧。


 その霧にウィスパーを紛れさせる形で、俺達はその瞬間まで気取られる事なくセオドア・フォークスに忍び寄るのだ。


 この大空の中、黒革の防護服を着込んだレイヴンが深い霧の中から突如現れ、飛行船へと飛び込んできては目当ての首を斬り飛ばし、再び深い霧の中へと潜る様に消えていく。


 こうして言葉にしてみると本意では無いにしろ、“悪魔”と呼ばれるのも仕方ない所業ではあるか。


 そんな自嘲染みた感慨に耽っていると、再び計器の傍の前後通信機が明滅した。


 “更に降下する”


 何だって?


 ラシェルから送られてきた明滅の信号に、目元が険しくなる。


 “再送”


 確認の意味を込めてラシェルにそう信号を送るも、少しの間の後に同じ信号が明滅した。


 “更に、降下する”


 先程よりも信号がゆっくり、明確なのは気のせいではないだろう。


 これは冗談でも見間違いでもない、とラシェルは言いたいのだ。


 前部座席に目をやるもレイヴン装備に身を包んだ、そんなラシェルの後ろ姿はこの空に駆け出した時と何も変わらない様に見える。


 通常なら、高度を下げる事に対してここまで動揺する事も無いだろうが…………


 今回の作戦はカラマック島の高度からも分かる様に、人類の基本生息圏たる中層空域の中でも下層空域こと、瘴気に近い高度を航行する作戦だ。


 例え健康に直接的な害は無い高度だと分かっていても、瘴気が心配だ、下層に近づくだけで気分が悪い、と言う者は居る。


 まぁ、そういう者達はまずカラマック島を探さないだろうから、好都合ではあるのだが。


 何にせよ、それ程までに瘴気は恐ろしいものという事だ。


 下層空域に充満している、濃霧にも似た“瘴気”の有毒性により人類は未だ、この空の底に何があるか突き止められずに居る。


 濃密な、見通しの悪い日の様な霧。それが積み重なり、雲が日射しを遮ってしまう様に下層空域の殆どを覆い隠してしまっている。


 勿論、人類がそう簡単に諦める事は無い。

 ただの濃霧ごときで諦めるなら、人類が空中都市を建造する訳が無い。


 勿論、下層空域に滞留している瘴気を直に吸えば只では済まない。


 瘴気を吸ってしまえば喉が詰まった様に息が苦しくなり、すぐに防毒マスクを付けなければ目眩も始まり、1分もする頃には間違いなく昏倒。数分もすれば心停止だ。


 それでも、人類は諦めなかった。


 防毒マスクを発明し、気密性を備えた特殊飛行船、潜瘴挺や潜瘴艦を開発し空の底を探査すべく瘴気の中へと潜っていった。


 結果、綿が巻き付いた様な濃霧で見通しが悪く、帰ってきたのが半分。まるで帰ってこなかったのが、半分。


 理由は分からない。


 単に濃霧で見通しが悪く、船体を大陸に衝突させて墜落したという意見もある。


 だが下層空域で大陸よりも信じられているのは、空魚だった。


 鳥類や人類が瘴気に脅かされている中、特殊な臓器“浮臓”を持っている影響か、空魚類だけは瘴気の影響を受けずに中層から下層にかけて、瘴気の毒を体内に溜める事もなく自由に空を泳ぎ回る事が出来たからだ。


 もし空魚類が瘴気の毒を僅かなりとも体内に溜める様に進化していたら、少なくともここまで人間に狙われる事だけは無かっただろう。


 太古から現在まで、瘴気の中は人類も鳥類も手が届かない空魚のテリトリーとなっている。


 結果、王国の様になった瘴気の中には時折、目を疑う程巨大な空魚が確認されているらしい。


 サメやクジラもさる事ながら、その瘴気の王国でも取り分け気性が荒く、獰猛な空魚の代表かつ食物連鎖の頂点こそが、かのフカクジラという訳だ。


 よって見通しの悪い濃霧の中、潜瘴挺を嗅ぎ付けたフカクジラ、もしくはそれに準ずるクジラ類及びサメ類が潜瘴挺を墜落させた、と専門家の間では推測されている。


 現に瘴気内の中型空魚、サメ類に何度も衝突された上にしつこく追跡され、傷だらけの船体で命からがら帰ってきた潜瘴挺の記録もある。


 とどのつまり、そんな瘴気に近付くのは相当な専門家か、相当な命知らずだと言う訳だ。


 そして、俺達はどう考えても前者ではない。


 個人的に後者こそ俺達は避けるべきだと思うのだが、どうやらラシェルは違うらしい。


 “瘴気に、近すぎる”


 明瞭に伝わる様に丁寧に間隔を開け、明滅信号を前部座席に送った。


 だが、再び信号が返ってくる。


 “もっと深く、霧に潜った方が良い”


 胸中で悪態を吐いた。ああ、この様子じゃ何を言ってもまず意見を曲げる気は無さそうだ。


 こうしてウィスパーに搭乗していようと後部座席に居る俺は実質、前部座席で操縦桿や各種スロットルを握っているラシェルに進路や操縦、その他命運諸々を託すしかない。


 俺が幾ら抗議しようと、言ってしまえば結局は進路も退路もラシェル次第なのだから。


 ウィスパーの機体が僅かに前傾し始める。どうあっても、やるつもりらしい。


 酸素ではなく、意思を取り込む為に息を吸った。


 勿論、ラシェルの判断がまるきり意味不明という訳では無い。


 この空域において現在の高度は確かに霧深くはあるが、霧の中からでも俺達が遠目にセオドア・フォークスを見つけている様に、万が一が無いとは限らない。


 ウィスパーと中型飛行船ではサイズが余りにも違いすぎる事は置いておくにしても、この段階から万が一にもウィスパーが見付かれば、飛行船に乗り込んで目標を暗殺するなど夢のまた夢と言わざるを得ない。


 よって、この霧深い空域から更に高度を下げ、本来の濃霧のみならず瘴気の濃霧を利用して、更にウィスパーの姿を潜ませようというのだ。


 確かに、元からレイヴンマスクには数種類の有毒性ガスに対する防毒効果が組み込まれている。幸いにも、俺自身が効果を実感した事はまだ無いが。


 そして今回の任務に置いて、このレイヴンマスクには瘴気層に近い高度、もしくは瘴気層そのものに逃げ込む羽目になった際に対応出来る様、元々の防毒効果に加え専用の特別なフィルターが組み込まれていた。


 結果、このレイヴンマスクは今回の任務に限り、瘴気に対しては専用の防毒マスクに準ずる程の高い防毒効果を発揮できる様になっている。


 勿論レイヴンマスクをベースにしている関係上、その為だけに作られた専用防毒マスクには流石に及ばない上に、重量の増加等の無視出来ないトレードオフもあるのだが。


 何にせよ、確かに今回に限っては俺とラシェルの2人は瘴気に対して、高い耐性を持っている事になる。


 更にウィスパーが前傾し、いよいよ高度が下がり始める。無意識に、グリップを握る手に力が入った。


 勿論、幾らマスクに高い防毒効果があるからと言っても、気軽に“防毒マスクもあるし死ぬかもしれない瘴気に潜ってみるか”となる訳が無い。


 瘴気に潜ったとして、もし防毒マスクに異常や故障があれば、比喩抜きで命に関わるのだ。


 取り分け今はウィスパーを操縦している最中であり、もしラシェルが瘴気吸入によって目眩や昏倒でも起こそうものなら、直ぐ様俺達は空の底に跡形もなく消えてしまう事になる。


 手元の計器類の一つ、高度計の針が目に見えて下がっていき、危険域として赤く塗られた数値に針が近付いていく。


 赤く塗られた域が何を示すのかは言うまでもない。


 しっかり着けている、とは分かっていても思わずレイヴンマスクが正しく装着出来ているかを確かめた。


「頼むぞ」


 吠え続ける風切り音に耳を塞がれたまま、自身でも聞き逃しそうな程小さな声が口から漏れる。


 遠くに見える飛行船“セオドア・フォークス”の連中は、今頃どんな想いでこの空を航行しているのだろうか。


 少なくとも瘴気の溢れる下層空域、その境目を這う様に航行している“ハチドリ”に襲撃されるかも、など夢にも思っていないのだけは間違いない。


 少なくとも瘴気のリスクを引き換えに、任務に対しての“確実”を取った事だけは確かだ。


 元々この空域に漂っていた霧に加え、折り重なった霞の様な瘴気の層が段々と下方向から俺達の機体に迫ってくる。


 俺達が降下している筈なのに、まるで霧に追い立てられているかの様だ。


 底の見えない不気味とも幻想的とも言える濃霧が機体を包み、遠く見えていた飛行船すら見えなくなった辺りで漸くウィスパーの降下が止まり、少しの揺れと共に前傾していた機体が持ち直される。


 瘴気と言っても見た目はただの霧であり、濃霧とは言ってもインク壺の様にその先を塗り潰す程の濃さは無い。


 きっとこの濃霧たる瘴気に指や腕を伸ばせば、霧は絡まるまでもなく散るだろう。手を伸ばした途端に指や腕が塗り潰され、まるで見えなくなる様な事は無い。


 ただ、その濃霧が下へ下へと数え切れない程折り重なり、空の底を覆い隠している。


 まるで見えない訳では無い。少し深く進めば、更に先が見える。行き先は見えずとも、先に進む事は出来る。


 だが、どれほど深いのかはまるで分からない。それが、恐ろしい所だと個人的には思っていた。


 四方を濃霧に包まれ、目標物の飛行船すら見えない状態でウィスパーを航行する事については、ラシェルの感覚を信じるしかない。


 任務前にも説明されたがラシェル曰く航行速度と航行時間、ディロジウム燃料の消費と自身の培った方向感覚から割り出せば、目標地点から大きく外れる事は無いそうだ。


 勿論異議は唱えたが、過去の任務実績からも実証済みだと言うのだから此方は返す言葉も無い。


 瘴気層間近、危険域まで降下した甲斐あって、先程よりも更に濃密な霧の中をウィスパーが突き進んでいく。


 吠え続ける風切り音に、機体から伝わってくる駆動機関の振動。


 降下する前と何も変わらない光景と感覚が、かえって奇妙に思える。


 息苦しさは、今の所無い。つまり、瘴気を吸い込む程の層に来ていないか、マスクの防毒性に問題は無い。


 いや、瘴気層には到達している筈なのだから、既に瘴気は俺達の周りに渦巻いていてマスクの防毒性に問題が無い、と見るべきだ。


 問題ないと分かっては居ても、改めて脳内で一つ一つ事実を確かめていく。


 どうしようも無い動悸や不安を抑える為には、自分の命綱を確かめる様に確実な事実や理屈を、一つ一つ確かめるのが効果的だと経験から学んでいた。


 運航するクラウドラインにぶら下がって肝の冷える思いをしていた時も、何度も自身がぶら下がっている金具を確かめ、これを外さない限りまず落ちる事は無い、と自分に言い聞かせたものだ。


 マスクも正しく装着出来ている、今感じる僅かな閉塞感や動悸も瘴気ではなく、精神的な動揺に寄るものと判断していい。


 ゆっくりとマスクから息を吸った。


 穏やかで居られる様に努めていると、ふと前後通信機が明滅する。


 呼び掛けの長い点灯に此方も長い点灯で返答すると、少しの間の後に“空魚が居る”と信号が来た。


 空魚?


 そんな信号に今や生命線となったレイヴンマスクの下で眉を潜めるも、ラシェルが伝えたい事を直ぐに理解する。


 俺達の周囲を取り巻く霧の向こう、所々に目を凝らしそうになる様な影を映しながら、空魚の群れと思われる影が幾つか見えたからだ。


 流石にウィスパーには寄ってこない上に霧の向こうに群れが幾らか見えるだけだが、思った以上に下層空域は空魚のテリトリーらしい。


 瘴気に近付いたりするからだろう、と一瞬考えそうになるが、別に中層空域にも空魚は居る。


 何も、下層空域まで来たから空魚が居る訳では無い。


 最初は、空魚が進行ルートに何か影響を及ぼすのだろうか、と注意深く気を配っていたし、もしもの時には威嚇なり撃退なりを考えなければと思っていたが、少しして今見える空魚の群れはどうやっても今の任務に関係無い事に気が付いた。


 小さな溜め息が、風切り音に掻き消される。


 “集中しろ”


 前後通信で信号を送る。使い古された言葉ではあるが、観光に来た訳では無いのだから。


 下層空域、それも瘴気間際を観光する程俺達は、少なくとも自分は物好きではない。


 空魚にまで気が配れる視野の広さは長所だろうが、今は一歩操作を間違えれば空の底まで転落する、ウィスパー操縦の真っ最中なのだから操縦にもう少し専念してもらいたい、というのが本音だ。


 単一の文字を示す信号が幾つか明滅し、少し意味を考えたが、少しして“笑える”と信号を打っている事が分かり、眉を潜める。


 まぁ、言うだけ無駄か。


 音も聞こえず、前部座席に見えるラシェルの背中は微動だにしないが、それでも笑っているのが分かる。


 きっと、聞こえないのを良い事に大声で笑いながら操縦しているんだろうな。


 操縦している張本人、しかもこの後レイヴンとして敵の中に飛び込んでいくというのに、この余裕は肝が据わっているとしか言い様が無い。


 相変わらずの風切り音の中、幾つもの空魚の影が霧の向こうに見え、直ぐ様消えていく。追い抜いていく、と言っても良かった。


 ウィスパーの航行速度を考えれば当然ではあるのだが、例え同一方向に泳いでいたとしても尾の方から追い抜いて行く事が殆どであり、相対する方向に泳いでいればそれこそ一瞬に満たない程の時間しか、眼で捉える事は出来ない。


 思った以上に悠々と霧の中を泳いでいる空魚達に面食らうが、本来瘴気に踏み込んでいる我々こそが部外者なのだから当たり前と言えば当たり前の話だった。


 そんな事を考えていると、前後通信機が明滅する。


 “空魚が居る”


 目を細めて首を伸ばし、少し前部座席を覗き込んだ。


 他人のみならず自身にさえも「気負いすぎるな」と言い聞かせる事は良くあるが、今回に至ってはむしろ、もう少し気を張り詰めて欲しいものだ。


 これでも俺達は一歩間違えれば死ぬ任務に赴いている上、今だって防毒マスク無しでは生きて居られない瘴気の中を航行しているのだから。


 いい加減にしろ、と信号を打ってやろうと前後通信機のグリップに手を触れた辺りで、通信機が再び明滅した。


 信号は、簡潔だった。


 “真剣”


 グリップから手を離し、辺りに気を配る。


 直ぐ様頭の中で、意味を組み立てた。


 空魚が居る。真剣。


 先程の様なのんびりした意味で無い事は、まず間違いない。


 つまり任務に影響が出かねない、もしくは俺達に危険が及ぶ可能性があると言う事。


 そして手が考える前に旋回砲へと伸びた辺りで、視界の端に霧以外の“何か”がちらつく。


 息を、呑んだ。


 俺達のウィスパーと同等、いやそれ以上に巨大な影が俺達の隣から並走する様に、距離を詰める様に近付いてくる。


 60マイルは出ている俺達に並走していると言う事は、この巨大な影も同じ速度で並走していると言う事。


 距離が詰まるにつれ、影が霧の中から滲み出る様にその姿を表す。


 サメだ。


 大型かつ俊敏な事で広く知られているサメ類、クロヒレザメが霧の中から優雅にさえ見える動きで現れた。


 耳を風切り音に塞がれたまま、呼吸と動悸が自覚出来る程荒く、高まっていく。


 非常に、まずい。


 興味を持って少し近寄っている程度ならまだ問題ない。だが、もしこのサメが此方を攻撃しようと狙っているのなら、本当にまずい事になる。


 時速60マイルの速度が出ている筈なのに、まるで此方が緩慢かと錯覚する様な優雅な動きでクロヒレザメがウィスパーと並走する。


 あんな余裕のある優雅な動きで60マイルに並走出来るのは、やはり空力を使わない浮力や推力を生み出す“浮臓”のお陰か。


 優雅さを捨てたら、どれだけの速度が出るかなど、考えたくも無い。


 “加速で逃げ切れるか?”


 呼吸と動悸を意図的に抑える様に努めながら、前後通信機を明滅させる。


 少しの間の後に、信号が返ってくる。


 “無理、距離感覚が狂う。消費燃料も変化するから、残燃料による推定も難しくなる”


 レイヴンマスクの下で歯噛みした。


 目標物が無い状態で濃霧の中を航行している今、ウィスパー操縦席に備えられている姿勢指示機、人工水平機とも呼ばれる計器を除けばウィスパーの移動及び方向は、ラシェルの培った感覚のみにかかっているのだ。


 急加速により燃料消費と速度が大きく変動すれば、感覚頼りのラシェルが目標の飛行船との距離を推し測るのは非常に難しくなる。


 燃料消費で距離を割り出そうにも、急な加速で燃料消費が増大すれば、その割り出しさえも不確定要素が強くなってしまう。


 サメとの遭遇を考えれば、瘴気に潜るべきでは無かったか。


 反射的にそんな後悔が頭を掠めるが、いや、と思い直した。


 下層空域に近い領域を航行する時点で、多少は空魚との遭遇も想定されていた筈だ。


 それに瘴気に潜み、確実に飛行船に接近するラシェルの判断は瘴気のリスクはあっても、取り分け間違った判断では無い。


 あのまま瘴気に潜らず、ただの濃霧を航行したとしても下層に近い事や中層空域にもサメが居る事を考えれば、サメに遭遇する可能性は殆ど同程度と見て良い。


 単純な、運の話だ。


 ラシェルの運が悪かったのか、俺の運が悪かったのか、あるいは“ツキの無いバカ2人”なのかは分からないが。


 ウィスパーの機体がどれほどの衝撃に耐えられるか詳しい訳では無いが、少なくとも羽ばたいている最中の羽根に興奮したクロヒレザメが衝突でもしようものなら、無事で済まない事は間違いない。


 “刺激しないで”


 再び、前後通信機が明滅する。


 自身の脈が、胸から聞こえる様な気がした。


 意識的に抑えていた呼吸と動悸が、再び荒くなり始める。


 万が一、サメがこのウィスパーの機体に攻撃する様子を見せてきたら、急加速で逃走するか、旋回砲で応戦するかを選ばなくてはならない。


 旋回砲で砲撃すれば確かにサメを討伐、もしくは撃退出来るだろうが、まず間違いなく任務に支障が出る。


 現在、セオドア・フォークスと何れ程の距離が開いているかは分からないが、ここで砲撃でもしようものなら高確率で目標の飛行船は警戒するだろう。


 聞き逃す可能性も無くは無い。だが、目標の飛行船に忍び寄る段階でディロジウム旋回砲でサメを砲撃する時点で、かなり任務の内容や方向性を限定する事になる。


 任務前の時点で、隠密性を捨て去る行為に他ならないからだ。


 よって、このサメが攻撃してきた場合、回避する方法は消去法の結果ウィスパー自体の急加速しか無い訳だが、勿論その方法も大きな問題があるのは言うまでも無い。


 もし急加速により今、濃霧の中で航行するにあたって頼りにしているラシェルの感覚が狂えば、まず予定していた座標に浮上出来ない可能性が高い。


 そして、無関係の場所に霧の中から浮上した場合、場所によっては目標のセオドア・フォークス自体に捕捉される可能性がある。


 今回の作戦で目標の飛行船に、突入前から捕捉される事は先述した理由も含め、非常にまずい事になってしまう。


 そもそも急加速したとして、必ずこのサメから逃げ切れる保証がある訳では無い。


 執拗に追跡される可能性も当然ながら、ある。


 風切り音が吠え続ける中、緊迫感などまるで感じさせない動きでクロヒレザメが、ゆっくりと身体を波打たせた。


 時速60マイルで航行するウィスパーに、並走しながら。


 幻想的な濃霧に包まれながら、優雅な動きを見せるサメを引き連れて、遊覧の様な飛行が続く。


 きっとこれが瘴気の中ではなく、ウィスパー以外の小型航空機で、隣に並走するのがサメでなければ、さぞ美麗な思い出になっただろう。


 風切り音に耳を塞がれたまま、動悸と機体の振動を身体に感じながら何事も起きていないかの如く、ウィスパーの航行が続く。


 前部座席のラシェルは、何も変わらず操縦を続けている様に見えるが恐らくは俺と同じか、俺以上に気が気では無い筈だ。


 隣に並走しているサメが“気紛れ”を起こすだけで、俺達の命懸けの任務そのものが崩壊しかねないのだから。


 回転が可能な座席をゆっくりと回転させ、後部座席の旋回砲へ静かに手をかける。


 非常時、突如の応戦に備えて旋回砲には既に弾が装填されていた。


 今の弾薬は、散弾。


 一度砲撃すれば、間違いなく立て続けに砲撃した方が良い。半端に刺激して、そのまま機体に噛み付かれたら最悪だ。


 旋回砲に指を掛けたまま、濾過された空気をレイヴンマスクから吸い込んだ。


 頭の中では直ぐにでも旋回砲を構え、クロヒレザメ目掛けて散弾を砲撃する動きが組み立てられている。


 クロヒレザメが、構え直す様に身を捩った。


 旋回砲のグリップを握り締める。


 引き金に指を掛けるべきか、という所で少し顔を上げた。


 身を捩ったサメは構え直して向かってくるのではなく、優雅とも表現出来る緩慢な動きで身をくねらせながら、瘴気の濃霧の中に消えて行ったからだ。


 数秒。


 サメが濃霧に消えて、自分達が隠密性を保ったまま危機を抜け出した事を数秒かけて理解した途端、緩く、長い息が口からほどける様に零れていった。


 取り敢えずは問題なし、か。そんな事を胸中で呟いていると前後通信機が明滅する。


 定型文を示す信号だ。


 “万事順調 問題なし”


 肝が太いというのは、こういう事を言うんだろうな。


 途中はどうなる事かと思ったが、結果だけ見れば俺達はリスクを取って瘴気の中に飛び込み、瘴気渦巻く濃霧で敵の眼を欺いて順調に忍び寄っている訳だ。


 あわやサメに襲われるかも知れない、という事態にはなったが、過ぎてみれば俺達は急加速も砲撃もせず平穏に切り抜けている。


 結果論にはなるが、今回の判断についてはラシェルが正しかったと言わざるを得ない。そう、結果論ではあるが。


 まぁ自分自身も必要なリスクは取る主義だ、肝が冷える分には何の損失も無いのだから。


 しかしウィスパーでも空魚に本格的な対策を取るべきかも知れない、というのは頭に留めておいた方が良いかも知れない。


 何も捕鯨飛行船や捕鮫船の様な、縄付き銛を打ち出すバリスタやディロジウム砲の様な“捕漁兵器”まで搭載しろとは言わないが、対人とは違う空魚用の装備も搭載するべきか。


 搭載量から考えても従来の装備と換装する事になるだろうが、少なくとも選択肢の幅が広がる意味でも悪くない提案にはなる筈だ。


 旋回砲でも対応出来る、と事前には聞いていたし自身も納得していたが実際に野生のクロヒレザメに並走された身としては、とても「旋回砲があるからどうという事は無い」なんて言い切れない。


 そんな事を考えていると前後通信機が明滅し、顔を上げる。


 “目標の下方域に侵入 上昇し 霧から抜ける”


 濃霧で無駄だと分かっていても、上を見上げた。


 目標物が見えないまま操縦してきたラシェルの距離感覚と方向感覚を信じるなら、いよいよ瘴気に潜ってまで忍び寄った飛行船が間近に迫っている。


 “下方域に侵入 間違いないのか”


 念の為、そんな信号を前部座席に送るが“すぐ分かる”と信号が明滅し、緩やかな慣性を感じた。


 速度系の針が少しずつ下がり始めている事からも、機体自体の速度が下がり始めている事は明確だろう。


 どうやらラシェルは飛行船の下方に到着したと確信しているらしく、少しずつウィスパーを高速航行から垂直上昇へと移行させている。


 ラシェルの感覚が正しいかどうかは、上昇するまで分からない。どちらにしろ、確かめる方法はそれ以外には無い。


 信じるしか無い、か。


 緩やかに下がり続ける速度計の針を視界の端で捉えつつ、レイヴンマスクに濾過された空気を深く吸った。


 当然ながら、本番はここからだ。


 遊覧飛行船セオドア・フォークスは上甲板の殆どが露天甲板となっており、船頭にはスピーチ用の演説台も設置されている。


 今回の目標、ダニール・ヤンコフスキーがそこで演説する事も確認が取れている。少なくとも、飛行船内を探し回る必要は無い。


 そして、そんな特性からも敵の接近及び攻撃が警戒されているのは、飛行船の側面及び上方。


 下方からの接近は、空域の環境を考えても備えは希薄と言って良いだろう。


 だからこそ、今回の作戦は濃霧に紛れて飛行船の下方域に侵入し、そこから垂直に上昇して飛行船に忍び寄る計画となっている。


 慣性を感じさせながら緩やかに速度を落としていたウィスパーが、少しの制動と共に濃霧の中で完全に宙に停滞した。


 耳を塞いでいた風切り音が止み、代わりに機体から伝わってきていた振動に色を塗るかの如く、駆動機関の駆動音が新たに耳朶を打ち始める。


 少しの揺れと共に、濃霧の中で後部座席に座ったまま辺りを見回すも、やはり複数の羽根の羽ばたきだけで何一つ無い空中に機体を支えているウィスパーというのは、妙な感覚だった。


 風切り音から一転して駆動音ばかりが聞こえる中、前後通信機が明滅する。


 “上昇する 準備して”


 いよいよか。


 了解の信号を通信機の明滅で返し、上を見上げた。


 腕のガントレットに装備された自動連発クロスボウ“スパンデュール”を見つめ、黒革の防護服の一部、革手袋も確かめる様に拳を握る。


 視界の端で高度計の針が少しずつ振れていく。体感的には分かりにくいが、もう上昇し始めているらしい。


 そのまま、腰に下げたリッパーの柄にも触れる。


 フカクジラのヴァネル刀は、今回の任務にはとても間に合わなかった。


 ゼレーニナ曰く、フカクジラの骨の調達及び、骨の硬化処理は急げば間に合う様な物では無いらしく、今回の任務から無事に帰ってから細かい話を詰めていく手筈になっている。


 どのみち、俺が生きて帰らない事には始まらない。俺が死んで空の底に消えた後にフカクジラの剣だけが届いても、話にならないのだから。


 駆動音と共に、ウィスパーを取り巻いていた濃霧が少しずつ晴れていく。


 高度計を見やり、改めて頭上を見上げた。


 当たり前の様に上昇しているが、これでラシェルの感覚が間違っていればウィスパー及び俺達は関係ない所で、霧の中から頭を出す様な事態に陥る。


 前部座席で垂直にウィスパーを上昇させている最中のラシェルの背中を見やり、後部座席に座り直した。


 濃霧が晴れていく、というよりは次第に薄まり霧の先が見え始める。


 これでラシェルの感覚が外れていたら、直ぐ様信号を打ってラシェルに機体を降下する様に提案しなければ。


 高度計の針が赤く塗られた瘴気層から遠く離れた事を示し、辺りを取り囲んでいる霧が瘴気の有毒な霧ではなく、通常の濃霧に移行した事を指し示す。


 針が振れ続け、遂に頭上の濃霧が薄まる。


 薄まった濃霧の先、ほぼ真上の方角に飛行船セオドア・フォークスの姿が見えた時、自身でも分かる程に深い安堵が広がっていった。


 一応、ラシェルもあれだけ剛胆な行動に釣り合うだけの実力は持ち合わせていたらしい。


 “もうじき濃霧から抜ける”


 風切り音ではなく、駆動音とウィスパーの羽根の羽ばたく音を聞きながら、そんな通信機の明滅に此方もグリップを握ってボタンを押す。


 “機を見計らって、ウィスパーの静穏機構を作動させろ”


 前部のラシェルにそう信号を送ると、振り向かないままのラシェルが静かに上を見上げた。


 瘴気の濃霧を利用していた時程では無いにしろ、それでも霧深い空の中ウィスパーが下方から飛行船へと忍び寄っていく。


 上方に見える飛行船が徐々に大きくなっていき、推し測るまでもなくウィスパーとの距離が縮まっていくのが分かった。


 先程までの瘴気やクロヒレザメに追われていた緊張とは違う、いよいよ敵地へと乗り込むのだという、張り詰める様な緊張感が身体中に広がっていく。


 そんな中、少しの合図の後ラシェルがバルブを捻って圧力を解放しつつ、レバーを握り込んだまま強く引いた。


 その瞬間、金属音の混じった作動音と共に、ウィスパーの静穏駆動機関が稼働する。


 途端に駆動機関の駆動音が布を覆い被せた様に小さくなり、更に布を重ねていくかの如く、時間と共に駆動音が抑えられていく。


 少し経つ頃には、気嚢も無い小型航空機が滞空しているとは思えない程、駆動音は静かになっていた。


 その駆動音は、まるで巨大な獣がいつまでも囁いている様な、不思議とも不気味とも言える駆動音を漏らす程度にまで抑えられている。


 ウィスパーが“囁く”を意味する“ウィスパー”という名を冠された理由は、正にこの静穏駆動機構にあった。


 内燃式ディロジウム駆動機関を駆動させながら充填した特殊な圧力を使い、駆動機関の出力を抑えながらも圧力を一時的に高める事で、駆動機関の駆動音を半分以下に大きく抑えながら通常時と同程度の出力を維持する事が出来る、新開発の機構がウィスパー独自の“静穏駆動機構”だ。


 この特殊な静穏駆動機構により、ウィスパーは内燃式駆動機関を幹としながらもその性質とは正反対の“静穏”という性質を併せ持つ事に成功し、限定的ながらも隠密任務や偵察任務に高い適性を発揮する事となった。


 勿論、今までラシェルが静穏駆動機構を作動させなかった事からも分かる様に、この機構は常用出来る様な機構ではない。


 第一に下げた駆動機関の出力をバルブにより解放される圧力で補う為、当然ながら静穏駆動機構が作動させられるのは圧力が尽きるまで、という事になる。


 それに加え、補助圧力で駆動機関の出力を補い、かつ通常駆動の出力を発揮するのは各部品に無視できない負荷をかける事となる。例えバルブ解放の圧力が続いたとしても、延々と機構を作動させていれば元から駆動機関の方が磨耗し限界を迎えてしまう。


 よってウィスパーの特色とも言える静穏駆動機構の稼働は、短時間に留めるべきと厳命されていた。


 そんな静穏機構を作動させ、驚く程駆動音が抑えられた状態のウィスパーが、航行している飛行船の下方、セオドア・フォークス下部に向かって静かに距離を詰めていく。


 前部通信機で明滅されるまでもなく、この為に用意された特殊なクロスボウを手に取った。


 そのクロスボウにはグラップリングフックを鏃とした、短い銛の様な太いボルトが装填されている。


 そしてそのボルトに繋がったワイヤーの先は、今回の為だけに換装したウィスパーの装備、自動ウィンチに繋がっていた。


 奇妙に思える程に静かな駆動音を伴いながら、ウィスパーが飛行船の下部へと迫っていく。






 ラシェルが、首の骨を鳴らした。

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