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「アキム、本当に他のレイヴンじゃダメなのか?」
「他のレイヴンには同時に進行してもらう任務がある。団員がレガリスへと行き来する日程、“セオドア・フォークス”の日程から考えても今回はこの組み合わせしか無いさ」
「アキムの言う通りだクロヴィス。俺個人としちゃ癪だが、今回ばかりはこの組み合わせ以上の編成はねぇ。目標の規模とレイヴンの能力から考えてもな」
「…………ヴィタリーがそう言うなら、私にはもう何も言えないな。念の為に確認するがアキム、奴の主人“アーヴィン・フィッツクラレンス議員”ではなく奴の奴隷であり配下、ヤンコフスキーを狙うのは確定なんだな?」
「あぁ、フィッツクラレンスを狙う予定だったが……最近は目に見えて警護を厳重にしている。言うまでもなく、“心当たり”があるんだろう。それに最近は、自律駆動兵に守られていてもレイヴンの刃からは逃れられない、と証明したばかりだからな」
「奴隷制度の廃止に反対しているどころか、奴隷制度の厳格化を促しているクソ野郎だぞアキム、それこそ“心当たり”は数え切れない程あるだろうさ。何せ、最近可決された焼き印制度……奴隷として商品管理する為に、奴隷の肩に商品として焼き印を押す法律を発案したのはフィッツクラレンスだからな。今頃、便器からレイヴンが顔を出さねぇか怯えてるんじゃねぇか?」
「…………こう言っては何だがアキム、ヴィタリー、本当にヤンコフスキーを抹殺するのか?我々黒羽の団が、現政権と奴隷制度撤廃を掲げている我々が、大物とは言えラグラス人の奴隷を抹殺するのか?」
「どっちも殺した方が平等だろ?どの道、アキムの言う通り人種を理由に見逃す方がよっぽど“差別的”だしな。だろ、アキム?」
「勿論だ。我々はキセリア人だから殺している訳では無いからな、言うまでもなくラグラス人だから見逃す様な理由も無い」
「……分かった、続けてくれアキム」
「資料にある通り、ラグラス人であるヤンコフスキーが自主的に隷属する事を呼び掛けた結果…………“我々は生まれながらにして罪人なのだから、奴隷で然るべき”と自らに言い聞かせるラグラス人が大勢生まれてしまった。言うまでもなく、おぞましい事だ」
「俺に言わせりゃ反吐が出る。ラグラス人が、ラグラス人達に奴隷になる様に呼び掛けて、それでいて奴隷として家畜みたいに扱われている人々が“私達の道を見出だしてくれた”と感謝しているんだからな。だろ?クロヴィス」
「“靴を舐める靴磨き”か……ヴィタリーの言う通り自分一人が卑屈になるならまだしも、“我々の血筋は卑しいのだから皆で靴を舐めよう”と先導するなど、キセリア人の私から見ても明らかに異常だな。まぁ、この世界で間違っている事など珍しくも無いが」
「異常どころじゃねぇ、俺に言わせりゃ“卑屈”も“臆病”も立派な疫病だ。はっきり言うが、そんな“靴舐めクラブ”なんぞ広めるヤンコフスキーは“病巣”だ。膿んでるなら、膿は早めに出すに限る」
「今回の講演会で、主人のフィッツクラレンスが反対票を集めるのを阻止する目的もあるが…………ヴィタリーの言う通り、こんな疫病の様な“贖罪信仰”でこれ以上、レガリスで生きているラグラス人達を汚染させる訳には行かない」
「……それで、このヤンコフスキーを始末するという訳か。まぁ分かっているとは思うが、幾ら上流階級の手先とはいえ“黒羽の団”が奴隷のラグラス人を殺すんだ。相当な波紋を呼ぶ事になるぞヴィタリー、悪い意味でもな」
「今更だろクロヴィス、リスクを切ってでもまずは群衆が目覚めなきゃ話にならねぇ。俺達が折角立ち上がろうとしても、当の連中が“自分には奴隷として生きるのが相応しいので結構です”なんて言われたら話にならねぇよ」
「資料にもある通り、ヤンコフスキーは“贖罪信仰”を疫病の如く広めているだけでなく、間接的に“贖罪信仰”の奴隷達を通じてフィッツクラレンス議員の宣伝、票操作にも尽力している。“主人に投票すればこれからも、こんな生活が続けられますよ”とな。……クロヴィスもヴィタリーも分かっているとは思うが、結局の所、ヤンコフスキーは始末するしか無い」
「…………“自分が一生奴隷で居られる様に、御主人様もフィッツクラレンス議員に投票してください”ってんだからな。踏みつけられてる当の奴隷が言ってんだから、信じられねぇよ。悪夢みてぇな話だ」
「………ヴィタリー、話を切って済まないが一つ良いか?」
「おう、どうしたクロヴィス」
「この操縦士…………先月も問題を起こしたと書いてあるが、大丈夫なのか?団員の一人を一方的に殴り倒したとか」
「あぁ、その件か。話に寄るとどうやら仲間の為にやったらしい、浮気がどうこうの痴話喧嘩だとか。そいつ、ウィスパー操縦の腕は確かなんだが、気性がちょっとな」
「…………ちょっと待てヴィタリー、まさかこの操縦士、あのトラブルメーカーで有名なあの……“カワセミ”じゃないか?」
「あぁ、そいつで合ってるよ。相手が団員でも構わずに気絶するまで殴り倒す、あの“血塗れのカワセミ”だ」
「ヴィタリー、パズルピースじゃないんだ、癖の強い連中を絡めても丸くなる訳じゃないぞ。別の隊員は居ないのか?」
「そのウィスパー操縦士を選んだのは私だクロヴィス。何もピースを嵌めようとしているんじゃない、突出した隊員を組み合わせたら自然とそうなっただけだ。デイヴィッドと相性は悪いだろうが……絶対に失敗出来ない任務に、出来る限り“しぶとい”連中を選んだ結果だ」
「“カワセミ”なら簡単に死にはしねぇだろ。何なら、飛行船ごと沈めてくるかもな」
「ヴィタリー」
「冗談だよ、そんな顔するなクロヴィス」
「それより、結局の問題はアイツだ。クロヴィスの言う通り、最悪“カワセミ”と殴り合いの末に殺し合うかも知れないぞ。アキム、その辺りの勝算はあるのかよ?勿論、俺としてはアイツが“カワセミ”に歯をへし折られて生意気な口を聞けない様にされても、何ら構わないがな」
「……ヴィタリーに賛同する訳じゃ無いが、同意見だ。アキム、本当にデイヴは大丈夫なのか?」
「衝突は避けられないだろうが、何とかするだろう。幸い、デイヴィッドは今の所は聞き分けが良い。“カワセミ”の相手をするなら痣だらけにはなるだろうが、デイヴィッドが上手く折れるなら殺し合いにはならないだろう」
「おい、そんな顔は止めてくれよ。二人からは冷たく見えるだろうが、これが私なりの信頼なんだ」




