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冗談


次の日


僕は株式会社トンデモブラックに到着した。

この会社は都内から少し離れた駅に立地する。

「ご来社のかたですね。お名前をお伺いいたします」

「MHCAホワイティの塚本です。11時より営業の香取様と……」

「はい、かしこまりました。ご案内いたします」

受付の身なりの整った女性が丁寧に会議室まで案内してくれた。

「緑茶とコーヒー、どちらがよろしいでしょうか?」

「えっと……水でお願いできるかな?」

「水ですね、それではこのミネラルウォーターをどうぞ」

「ありがとう」

「それでは少々お待ちください」

そういうと女性はぺこりと頭を下げて会議室から退出した。


そうだ。これがトンデモブッラクの実態だ。

事務所は白をモチーフにしたシンプルなデザイン。

きれいに整っており事務の女性はすごくきれいな人間だ。

なんでこんなにきれいかって?

だってここは来社する人専用の事務所なんだから。

こんなにきれいな場所だったら入社したいって思っちゃうよね。


僕は頂いた水を口に含むと、働いていた時のことを思い出す。



◇◇◇

【回想】

ここは駅地下4分のオフィスビルの3Fにあるが、実際には別の場所に作業部屋を借りている。

駅から徒歩12分、小さなボロテナントへ毎日出社していた。作業部屋には時計がおかれていない。

カーテンが閉め切られている。


「作業開始」


上司の一言で作業は始まる。その後上司はきれいな来社用事務所へ向かう。

そして15時を過ぎて戻ってきた上司は


「休憩」

と一言だけ言ってまた来社用事務所へ向かう


ちなみにノルマが終わらないと帰れないことを知っているから、上司がいてもいなくても仕事をする必要があった。

もし仮にゆっくりとランチをするのであれば終電は間に合わないくらいの量がそのあとの僕らを襲う。


【企画書100p1つ提出】の日はまだ楽だった。

たまに4つ提出の時は泡を吹くかと思った。無事に終了したのが朝の6時だったなぁ。


◇◇◇


つまるところで実際の作業場所と来社用事務所はそれだけ異なるのだ。


「ああ!! 塚本様! 本日はご来社いただきありがとうございます!」

元瀬川の時の上司香取が会議室に入室してきた。なんて優しそうなおじさんに見えるんだろう。

頭をヘコヘコしており作業場所での彼とは人が変わってしまったのかと疑うほどだ。しかし騙されてはいけない。彼の本当の顔を。

彼が何人にも罵声を浴びさせ続けたのを僕は忘れない。震える手を反対の手で抑え込む。

「いえいえ、この前いただいた企画書が少し気になってね。詳しく聞きたいなって思って」

(僕は今お前の会社より上の大企業なんだ。自信をもってはなせ。うろたえるな)

自分自身に鼓舞させて香取と商談をすすめる。



「ふむふむ……これは面白い企画ですね」

「光栄にございます。考えたのは私でして……」

(私? いやいやお前なわけないでしょう。この企画は以前僕がが考えていたものだ。それをよくも堂々と自分の手柄のように……)

◇回想◇

『あ? この企画? 通るわけないだろ! 却下だ却下』


『そ、そんな……朝までかかってつくった資料なんですよ』


『仕事が遅いからそうなるんだろこの馬鹿! まあお前の全責任ってことで先方に投げてやるよ。そんで先方から怒られるんだな』


『せ、せめてどこが悪いのかだけ教えてくだされば、修正いたしますので!』


『ははーん。おまえは震えて眠れ。ご苦労様でした。もし契約とれなかったらサービス労働を1日2時間、1カ月間プレゼントするからな』


◇◇◇


(悪魔だ。こいつは今ヘコヘコしているが実際はひとを人と思わない悪魔だ。これはもう鬼退治するしかない)


「あ、この点についてはどう思いますか?」

まがりなりにも僕は元瀬川として一度この企画書を作った人間だ。

企画について知らないはずがない。


「あ……、れはこの後確認しますね」


(いまだ!)

「え?」

僕はつぶやいた

「ど、どうかされました?」


「だってここ、超基本的な、根本ですよね? どうして考えた張本人がわからないんですか?」


「いえ、ここはドワスレしてしまってて……ははは」


「そんなことあるわけない! あなた、本当にこの企画考えたんですか!?」

「あ、いや、その……」

「このことに詳しい人を今すぐ呼んでください!」


「は、はいいいいいい」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そのあと僕は香取に会社ブランドの力を使って詳しい人間を呼んでもらうようにお願いした。


10分後


「あ……瀬川と申します。よろしくお願いします」

ついに元自分にご対面。なんということだろう。すごく痩せこけて疲労している感じが凄い。

髪もめちゃくちゃ強いワックスで固めてる。香取に無理やりつけさせられたのだろう。

「君が企画したんだね。すごいじゃないか! よろしく、ここなんだが……」


「ここはこうこうこうで……って香取さんが考えてました」


「ここなんだが……」


「ここはこうこうこうで……って香取さんが考えてました」


「ここなんだが……」


「ここはこうこうこうで……って香取さんが考えてました」


どんどん香取の顔が青くなる

「へーすごい、ありがとね。香取さんすごいね。すごい。でも香取さんが作ったということはわかったから最後の香取さん~は省略してくれて大丈夫だよ」


「は、はい!」


そして会議は非常に円滑に続いた。といってもこの企画は僕もよく知っていた。

香取は全くの蚊帳の外、いてもいなくても構わないくらい机の隅で縮こまっていた。


「それじゃあ商談成立で! 瀬川さん! これからよろしくお願いします!」

「私の企画が御社にとって良いものであるように全力を尽くします」

二人は握手をした。



「あ、あの私は?」

「香取さん、あなたは知識もないのに愛想だけで、信用ができません。あなたが考えたなんて嘘でしょう。あなたが担当になるならホワイティは契約いたしません!」


(元上司にバシっといえるのきもいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい)


「ひ、ひええええええ」

「それと瀬川さん。顔色がわるいみたいだけど」

「いえ、おなかが空いてて……」

「そうなんだ。それじゃあ打合せも兼ねて一緒にお昼はいかがかな。瀬川さん、いつもお昼の時間はいつですか? よかったら一緒に食べようじゃないか」


「えっと、今日はノルマが2倍だから午後6時くらい……


「は?」

僕は香取の方をにらめつけた

「いやいや、どうぞ言ってきてください。い、いつも定時は17時だからさ、ゆっくり打合せしたら直帰でいいよ!」


「だってさ。じゃあ行こう、瀬川さん!」


「は、はい!」


そして元僕の瀬川と今僕の塚本は昼ご飯に出かけた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あの、ぼくお金なくて……」

「大丈夫、僕がおごるよ」

「あ、ありがとうございます」

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