28 この世界の居場所
カラランとドアベルの音がして、新もふもふカフェにお客さん第一号がやってきた。
グリーズ、ニーナ、アルルの三人だ。両手いっぱいの花束を持ってきてくれて、プレゼントしてくれた。
「新装開店おめでとう!」
「こんにちは~!」
「なかなかいい作りね」
「ありがとう、三人とも!」
新しいもふもふカフェになったといっても、システムなどは今までと変わらない。店内にカウンターがあり、そこで飲み物などを注文するようになっている。
三人はそれぞれカフェラテと紅茶を頼んで、席へついた。
「それにしても、広くなったなぁ」
「これなら、たくさんもふもふを増やせるね。タイチのことだから、あっという間に増えると思うけど……」
キョロキョロしているグリーズに、ワクワクしているニーナ。おそらく、ニーナの言葉はそのうち現実になるのだろうと、アルルは苦笑している。
「あら? あそこの扉は何かしら」
「「ん?」」
アルルが見つけたドアは、カフェの出入り口とは別のものだ。
すぐにグリーズが立ち上がって、ドアを開く。すると、眼前に広がるのは広いもふもふカフェの庭と、カフェテラスだ。
背の低い木々にはハンモックをつるし、のんびりした時間を過ごすことができる。
カフェテラスの中央にはドングリの木があり、枝ではハルルがうとうと昼寝をしている。木の根元では、スノウが丸まって同じように昼寝をしていた。
「うおぉ、こりゃすげぇ!」
グリーズが感嘆の声をあげると、ボールをくわえたケルベロスが走って来た。
『あ~! お客さんだ!』
『いつもの人だ!』
『遊んで遊んで~!』
「うおっ、なんだ、もしかして俺に遊んでほしいのか?」
ボールをくわえて尻尾を振るケルベロスに、グリーズはデレデレだ。「仕方ないな~」なんて鼻の下をのばしながら、ボールを遠くへ投げる。
すると、ケルベロスがぐっと大地を蹴り一瞬でボールの下まで駆けた。
「うおっ! す、すげぇスピードだ!!」
あまりの速さに、グリーズの心臓がバクバクと音を立てる。
もし冒険者として対峙していたら、きっと一瞬でやられていただろう……なんて考えが脳裏をよぎった。
「もふもふカフェ、改めて恐ろしいところだ……」
『『『もう一回~!』』』
しかしすぐにケルベロスがボールをくわえて戻ってきたので、再びボール投げをすることになった。
ニーナは、ハンモックに寝転んだ。
「うわぁ、このハンモックすっごく寝心地いい! 野宿のときに使いたいなぁ」
「確かによさそうだけど、荷物がかさばるわよ?」
「う、そうなんだよね……魔法の鞄でもあったらいいんだけど」
「わたくしたちのパーティじゃ、魔法の鞄を手に入れるのは無理よ……。買ったらいくらするか……」
とてもじゃないが、お金が足りないとアルルは肩をすくめる。
「それはわかってるけど、さっ! 憧れるくらいはいいじゃんね~~! はー、気持ちい……寝れる」
「まったく……」
うとうとし始めたニーナを見て、アルルは苦笑する。まあ、今日は新もふもふカフェオープンのお祝いできたので、この後は何も予定は入れていない。
ケルベロスと遊ぶグリーズと、すやすや寝始めてしまったニーナを横目で見ながら、アルルは店内へ戻って来た。
すると、『みっ』と一匹のベリーラビットがアルルの足にすり寄ってきた。こげ茶色のベリーラビットで、名前はチョコ。アルルのお気に入りの子だ。
「わたくしのこと、覚えてくれたのね」
アルルはチョコの頭をなでなでして、ソファへ腰かける。すると、チョコはアルルの膝にのってきた。
「……っ!」
『み~』
もっと撫でてと言わんばかりに、チョコが頭をアルルの腕にこすりつけてくる。その様子がとても可愛くて、愛しくて、冷静なアルルも頬が緩んでしまう。
「ちょ、ちょっとだけよ……!」
『みう~っ』
アルルがチョコを撫でると、嬉しそうに目を細めた。
「まったく……甘えん坊ね」
仕方がないと、アルルはチョコを撫で続けるのだった。
「さすがに新もふもふカフェオープンっていろんな人に伝えたから、今日はお客さんが多いね」
「だね。ヒメリ、店内は大丈夫?」
「問題なし! みんな、のんびり過ごしてくれてるよ」
従魔も、お客さんも。
グリーズたちもそれぞれ自由な時間を楽しそうに過ごしている。
シャルルやソフィア、親方や弟子、商人などたくさんの人が来てくれている。それぞれお祝いの品を持ってきてくれたので、太一は挨拶しっぱなしだ。
「みんな、楽しそうだなぁ」
「ヒメリ?」
「私ね、もふもふカフェが……みんなが大好き! 一緒に仕事ができて幸せ。お客さんじゃ、みんなをお風呂に入れたり、ご飯を用意したり、そういうことはできないもんね」
最初は大変だったけれど、今はもふもふたちのお世話がとても楽しいのだとヒメリは微笑む。
「そうだな。俺も最初、動物の世話もろくにしたことがなかったから、ちょっと心配だったんだ。でも、俺が想像してた以上に、みんながしっかりしてたんだよな」
世話が大変かと思ったけれど、そんなことはまったくなかった。
トイレも間違えないし、お風呂も入ってくれるし、ご飯も自分の分を食べてくれるし、何より会話ができる。
「みんなといると、楽しいし、幸せだ」
「……うん」
太一の言葉に、ヒメリも頷く。
「きっと、これからもっと忙しくなるんだろうなぁ」
「タイチのことだから、もふもふの魔物がいるって知ったら飛んで行っちゃうんでしょ」
「……否定はできない」
フォレストキャットを見つけたときも、飄々と隣国まで行ってしまったからな……。もし世界の裏側に、新たな猫型の魔物がいると言われたらきっとすぐにでも出発するだろう。
(ここまでくると自分の猫好きが怖い……)
と言いつつも、今は従魔みんなが大好きだ。
特別猫に思い入れはあるけれど、従魔たちの誰かを特別扱いしたりすることはない。はずだ……たぶん。
(でも、ルークは最初の相棒だし、ご飯とか結構いいものをあげてる……?)
いやしかし、ルークのすごい食材は自分で狩ってきているので、特別に用意しているというわけではない。
太一がルークのことでうんうん考え始めると、ちょうどルークが姿を見せた。
『タイチ、ドラゴンジャーキーが食べたいぞ!』
「はいはい」
ついこの前、ルークと一緒に散歩もといドラゴン狩りに行ってきたので、ドラゴンジャーキーはたくさんあるのだ。
ルークに渡すと、嬉しそうにかぶりついた。
「ヒメリも食べる?」
そう言いながら、太一も食べる。
ちょっと硬いけれど、一度食べたらやみつきになってとまらなくなってしまうのだ。
「食べる~! 美味しい~!」
『美味い!』
太一たちがドラゴンジャーキーを食べ始めた匂いにつられて、ほかの従魔たちも顔を出した。
『『『あ、ずるい~!』』
「わ、大丈夫みんなの分もあるから!」
太一は苦笑しつつ、全員にドラゴンジャーキーを渡す。
やっぱり、みんなで食べると美味しい。
もふもふカフェは、今日も楽しく営業中です。
これにて完結です。
お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
もっと書きたい気持ちもあったのですが、ひとまずここで終わりです。楽しみにしてくださった方、すみません! そしてありがとうございます!!
感想など、たくさんいただけて嬉しかったです。とても励みになりました。
もふもふは正義。
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