26 ドングリの木
「はい、スノウとルーク。コログリーフ包みパイだぞ」
『いい匂い!』
『美味そうだな!』
ヒメリの助言通り、最初に作ったコログリーフ包みパイはスノウとルークに食べてもらうことにした。二人とも尻尾が揺れているので、嬉しいのだろう。
まずはスノウが一口食べて、目を見開いた。
『ふわああぁぁっ、美味しい……っ!』
『んむ、美味い! おかわりだ!!』
「ルークもう少し味わって……」
スノウは一口ずつ食べているというのに、ルークは一口で食べてしまった。曰く、あまりにも美味そうだったからすぐにでも食べたかったから……だとか。
(でも、美味しそうに食べてもらえるのは嬉しいな)
『ハルルも食べてみて、すっごく美味しいよ! ハッチの蜂蜜くらい美味しいんだ』
『ありがとう! わあ、美味しいきゅぅ! こんな美味しいドングリ、初めてきゅぅ!』
コログリーフ包みパイを分けてもらったハルルは喜び、太一を見て『すごいきゅぅ~!』と瞳をキラキラさせている。
「喜んでもらえてよかった。さてと、俺たちの分も【ご飯調理】!」
幸い材料はたくさんあったので、一〇個のコログリーフ包みパイができた。
「わーい、いっただっきま~す!」
「俺もいただきます!」
ヒメリと太一もパイにかぶりつき、舌鼓を打つ。
サクッとしたパイ生地に、中はドングリと魚がつまっていて、森の恵みの味がする。いくつでも食べられそうだ。
『んむ、美味いな!』
ルークもさっそくお替りをして、夢中で食べている。
ハルルはスノウと並んで座り、小さな口で一生懸命モグモグさせながら食べているのがまた可愛い。
『すすすごいきゅ、ドングリがこんなに美味しい料理になるなんて感動っきゅ~~!』
大将が高速で口をモグモグモグモグさせて、どんどんコログリーフ包みパイをお腹の中に収めていっている。
(今度はドングリで【おやつ調理】もしてみよう。何か美味しいお菓子ができるかもしれない)
太一たちはコログリーフ包みパイを堪能して、休憩を終えた。
――ということで。
「この木を持って山を下りたいと思いますが……」
さてどうしよう。
というところとで、ルークが前へ出た。
『仕方ないから、オレが運んでやろう』
「おおおぉ、ルーク!! ありがとう、助かった……!!」
ルークが、ドングリの木をひょいっと口でくわえた。軽々と持ち上げていて、やはりフェンリルともなると格が違うのだと思い知らされる。
(ルークがいてくれてよかった……)
「それじゃあ、山を下りよう!」
「おー!」
『です!』
『きゅぅ~!』
『きゅ!』
下りということもあって、気持ち的にはかなり楽だ。太一の疲れていた足取りも、今は比較的軽い。
あっという間に馬車を置いてあるところまで戻って来た。
「んじゃ、荷台にドングリの木を乗せて……あとは帰るだけか。スノウ、疲れはどうだ?」
さすがに街までは距離があるので、休んでからがいいかもしれない。太一はそう考えたのだが、スノウは『大丈夫だよ~』と元気いっぱいのようだ。
『これくらいは、へっちゃらだよ! 美味しいご飯も食べたし、たくさん走れるよ』
「それは頼もしいな」
遅くなると帰りが夜になってしまうので、さっそく出発することにした。
しかし、大将とはここでお別れだ。
太一は鞄からうさぎクッキーを取り出し、大将に渡す。
「もっといいものをあげれたらよかったんだけど、これくらいしかもってなくて」
『これ、美味しくて大好ききゅ! ありがとうきゅ!!』
大将がぱっと表情を輝かせ、太一を見た。そしてお腹のポケットからドングリを取り出して、プレゼントしてくれた。
「おお、ありがとう!」
『また遊びに来てほしいきゅ!』
「もちろん。また遊びに来るから、そのときはよろしくな」
『きゅ!』
太一は大将と熱い握手を交わし、コログリ山を後にした。
***
夕日が落ち始めたころ、太一たちはもふもふカフェへ戻って来た。
『『『おかえりなさ~い!』』』
太一の帰宅に気づいたケルベロスが、まっさきに飛びついてきた。どうやら、裏庭で馬と一緒に遊んだりしていたようだ。
馬も『おかえり』と太一に声をかけてくれた。
「ただいま、みんな。無事にドングリの木を手に入れたよ」
『わ~おっきいね!』
『なかなかいい感じ』
『さっそく植えようよ~!』
荷台に積んであるドングリの木を見て、ケルベロスがテンションを上げる。匂いを嗅いだり、葉に触ってじゃれたりしている。
「タイチ、私は先に馬車を返してきちゃうね」
「あ、そうか……手分けしてやらないと、夜になっちゃうか。申し訳ないけど、お願いしていいかな」
「もちろん。返却したら、すぐ戻ってくるね」
「ありがとう」
返却に向かったヒメリを見送り、太一はどこにドングリの木を植えるのがいいだろうかと考える。
しかし、決めるより先にケルベロスが地面を掘りだしてしまった。
『ここがいいんじゃないかな~!?』
『よっせよっせ、これくらい掘ればいいんじゃないかな!?』
『いい感じかも~!』
あっという間に、ドングリの木を植えるための穴が完成してしまった。
『さすがです……』
『すごいきゅぅ……』
スノウとハルルが、ケルベロスの手際のよさに感動している。
ケルベロスが穴を掘ったのは、新しくもふもふカフェを建てているすぐ近くだ。ちょうどテラス席でも作ろうかと思っていた場所の中央だろうか。
位置が悪いかもと思ったが、テラス席のシンボルになって丁度よさそうだ。
「ルーク、ドングリの木をここに植えられるか?」
『それくらい、オレにかかれば一瞬だ!』
ルークはドヤ顔で告げて、ドングリの木を穴に植えてくれた。口でくわえてさしただけだけれど、器用なものだ。
すぐにケルベロスが土をかけて、もふもふカフェにドングリの木が植わった。
『わあ、わあぁ~! すごいきゅぅ~!』
ハルルがドングリの木に登り、なっているドングリの実をもいだ。そのままお腹のポケットに入れて、降りてくる。
そしてぺこりと頭を下げた。
『素敵なドングリの木を、ありがとうきゅぅ~』
「どういたしまして」
ドングリの木も増え、新しいもふもふカフェはきっと楽しくなるだろうと太一は思った。




