24 大将との再会
「おおおぉ~!」
「わあ、速い~!」
馬車を引いて駆け出したスノウは、馬よりも速かった。
フラワーベアは温和な性格だが、力持ちだし頼りになる。魔物という点を除けば、頼りになる相棒だ。
御者席には太一が座り、ヒメリはほかの従魔と一緒に荷台部分に座っている。
太一の隣にはルークが座り、荷台にはハルルがいる。ケルベロスは家でお留守番をしてくれている。
『へへ、役に立てて嬉しい!』
「スノウがこんなにすごいなんて、知らなかったよ。ありがとう!」
『これくらいなら、いつでもお手伝いするよ』
頼もしいスノウの言葉に、太一は頬が緩む。
新しいもふもふカフェが完成したら、引っ越し作業のとき力になってもらえそうだ。
『お、タイチ! 山の向こうあたりにドラゴンがいそうだぞ』
「ちょ! 駄目、だめ~! 今はコログリ山に行くんだから、ご飯を狩ってる時間はないんだ」
『…………』
太一の言葉を聞き、ルークがジト目になる。
(というか、ドラゴンってそんなにいるもんなのか!?)
ルークは簡単に山向こうと言うけれど、どれくらい山の向こうかわからない。うっかりオッケーしてしまったら、はるか遠くまで連れていかれてしまうかもしれない。
それはよくない。
『だったら、おやつにドラゴンジャーキーを……』
「あ、明日の夜だったら一緒に行けそうだ!」
もうドラゴンジャーキーは完食してしまったため、手持ちにないのだ。
ドラゴン一頭から作ったので大量にあったはずなのに、いったい誰のお腹にいってしまったのだろうか。
まあ、大半はルークなのだが、ほかの従魔や太一もいっぱい食べた。
太一の言葉に、ルークは『それで手を打ってやろう』と鼻息を荒くした。
(俺の睡眠時間が~~!)
しばらく、ゆっくり休めなさそうだと太一は肩を落とした。
スノウの引く馬車もとい熊車にゆられて数時間、コログリ山に到着した。
『そんなに離れてたわけじゃないのに、なんだか懐かしいきゅぅ』
『ここにはハルルの仲間がたくさんいるもんね』
『きゅぅ』
懐かしそうにコログリ山を見るハルルとスノウを、太一たちは少し離れたところから見守る。
「何を話してるかはわからないけど、山を懐かしんでるんだね」
いいねと、ヒメリが微笑む。
「うん。ハルルとスノウがゆっくりしてる間に、俺たちはよさそうなドングリの木を見つけておこうか」
「そうだね。あんまり大きすぎても大変だから、成長しきってない小さいのがあるといいんだけど……」
とはいえ、ドングリがなっていなければいけないので、難しい。
周囲にある木はどれも背が高く、持って帰るのは至難の業だ。
「う~ん。俺の背くらいのサイズの木があればちょうどいいんだけどなぁ」
なかなか都合よくはいかないようだ。
太一がキョロキョロしていると、『何してるんだきゅ?』と、大将が顔を出した。
『久しぶりだきゅ!』
「大将! 会えて嬉しいよ。今日は、カフェの庭にドングリの木を植えたくて来たんだ」
ことのあらましを説明すると、大将は頷いた。
『なるほどきゅ。確かに、オレたちコログリスは食べかけのドングリを土に還す習性があるんだきゅ。落ち着くんだきゅ』
だからドングリの木を植えるのはとってもいいことだと、大将が言う。
『小さい木なら、ここからもう少し進んだ先にある川の上流にあったきゅ!』
「おお、教えてくれてありがとう」
『それくらい、お安いごようきゅ!』
大将はドヤ顔で胸を張って、『こっちきゅ!』と尻尾を振る。どうやら、道案内をしてくれるみたいだ。
「みんな、大将がいい感じのドングリの木まで案内してくれるって!」
「さすがはコログリスの大将、頼りになるね!」
『ありがとうきゅぅ』
『運ぶのは任せてよ!』
『それなら、とっとと行くぞ』
全員で、大将が案内してくれる獣道を進んでいく。
(これは、かなり……大変だぞぅ)
調査できたときは、グリーズたちが先頭だったため、ある程度は道を均して歩きやすくしてくれていた。けれど今は、そんなことをしてくれる人はいない。
次第に太一の息があがっていく。
「はぁ、は……っ、川って、まだ遠い?」
『うーん、あと半分くらいきゅ』
「ひえぇ」
あと少しで着くと思っていたのに、まったくそんなことはなかった。
(でも、俺より若いヒメリが頑張ってるんだ……!!)
あまり格好悪いところは見せられない。
どうにかして踏ん張って歩こう、そう思っていたら、隣にやってきたルークにくわえられ、そのままぽいっともふもふの背中に乗せられてしまった。
(天国だ……)
疲れた体にルークのもふもふが染み渡る。
『まったく、だらしがないぞ!』
「いや、歩けた、歩けたよ……!? ありがたいけど!!」
ルークは太一の反論は聞かなかったことにして、さっさと歩きだしてしまった。先ほどより、倍くらいのペースだろうか。
「ちょ、ルーク速いって! もっとゆっくり!」
でなければ、ヒメリがついてこられない。
太一はそんな心配をしていたのだが、ヒメリを見ると涼しい顔でついてきている。どうやら、体力的にはまだまだ余裕のようだ。
(ヒメリすごい……)
もふもふカフェでアルバイトをしてくれているから忘れがちだが、彼女は冒険者だ。きっとこういった獣道を走りながら、魔物と戦うこともあるのだろう。
「うぅ、歩くの遅くてごめん……」
太一がしょんぼりして告げると、後ろを歩いていたヒメリが隣までやってきた。
「ふふっ、大丈夫だよ! 私は山の中も慣れてるから、へっちゃらなだけ。タイチはカフェの経営が上手だから、向き不向きの問題だよ」
体力以上にいいところがたくさんあるよと、ヒメリから温かい言葉をいただいた。天使だろうか。
「そんなこと言ってくれるの、ヒメリくらいだよ。ありがとう」
「大袈裟だよ! ……あ、川が見えてきたよ」
ヒメリの言葉に、太一は視線を巡らせる。すると、水の流れる音と、前方に川が流れているのが見えた。
目指しているドングリの木まで、あと少しだ。




