21 テッテレー! 物件と土地をゲット!
「おおおおぉぉ、ここら一帯が全部、俺の土地……!!」
テイマーギルドで無事に物件と土地の購入を終え、太一はもふもふカフェへと戻って来た。購入した土地は、サッカーコート五面分だ。
『わ~、かけっこできるね!』
『川とか作っちゃう!?』
『もっと仲間を増やそう~!』
ケルベロスは浮かれながら、辺りを駆け回っている。広い場所で走れることが、楽しいらしい。
「とはいえ、今すぐにこの土地を使う……っていうわけじゃないぞ? さすがに、俺一人じゃ無理だよ」
手入れをしなければいけないし、建物を建てるにしても、使用用途がない。
(というか……スキルで家を建てたらさすがに驚かれる、よな?)
そうなると、だいたいの骨組みを大工に頼み、細かい部分を太一がスキルを使って作る、というのが一番いいだろう。
となると、もふもふカフェもしばらく休みということにするしかなくなる。それはちょっと嫌だなと思う。
「ん~~。とりあえず、今の店舗部分はそのまま家として使うことにして、新しい店舗を建ててもらおう!」
店舗の裏側は、購入した土地の部分を柵で囲い、動物園のふれあいコーナーみたいにすればいい。
それから、もふもふ舎も作ってもらおう。
(うんうん、いい感じだ)
太一がにやにやしながら土地を見ていると、ルークが太一にジト目を向けた。
『ろくでもないことを考えてそうだな?』
「いやいやいや、超有意義なことを考えてたよ! とりあえず、大工さんを探して新しいもふもふカフェを作ってもらわないと!! ということで、ちょっと街に出かけてくるけど……ルークたちはどうする?」
太一の言葉に、ルークは首を振る。
『どうせ話が長いんだろう? オレはのんびり待ってる』
『『『じゃあボクたちが一緒にいく~!』』』
ルークの代わりに、ケルベロスが手を上げた。一緒に出かけられることが嬉しいようで、尻尾をぶんぶん振っている。
可愛い。
「んじゃ、一緒に行こうか。いい大工がいるといいんだけど」
***
テイマーギルドに戻り、シャルティにお勧めの大工を紹介してもらった。
やってきたのは、街の端にある大工の店。
「なにぃ、もふもふカフェを作る!?」
「あれか……あの、魔物がうじゃうじゃいるとかいうカフェか!!」
「知っていただいたんですね、ありがとうございます」
出てきたのは、大工とその弟子。
「師匠、もふもふカフェ行きたいっす!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! 俺らみたいなもんがいく場所じゃねぇだろう!!」
どうやら、もふもふカフェのことは知ってくれていたらしい。気にはなっていたが、気恥ずかしくて来れなかったようだ。
新しいものに興味があるらしい、弟子。
二〇代で、陽気でハッピーな男だ。
職人気質で厳しそうな、親方。
背は低く、頭に鉢巻を巻いている五〇代の親父さん。
ケルベロスは二人を見ながら『『『わ~』』』と声をあげる。
『この人たちが新しいカフェを作ってくれるの?』
『腕は確かかな?』
『楽しみ~~!』
弟子がケルベロスの視線に気づいて、「うおっ」と飛び上がる。
「なななななんすか、このワンちゃんは!!」
「首が三つたぁ、めずらしいじゃねぇか」
親方も動揺しているようだが、それを表に出すことはしない。しかしチラチラ視線を送っていることはバレバレだ。
かなり気になるのだろう。
親方は咳払いをして、太一を見る。
「それで、もふもふカフェ……だったか。どういうものがいいかっていうのは、決まってるのか? 従魔用の畜舎を作ったことはあるが、カフェだといまいちピンとこねぇな」
「はい! あ、でも……今のカフェを見てもらった方が早いかもしれませんね」
ということで、親方と弟子の二人をもふもふカフェに招待した。
もふもふカフェは本日定休日。
つまり、親方と弟子の貸し切り状態のようなものだ。
入ってすぐに、弟子がテンションをマックスまで上げる。
「うっわぁ~! ここが、噂のもふもふカフェ!! すごいっす!!」
「おい、そんなに騒ぐんじぇねぇ! 恥ずかしいだろ!!」
親方が弟子にゲンコツをし、黙らせる。
「えーっと、お茶を入れてくるのでゆっくりしていてください」
「すまねぇな」
「あざーっす!」
太一が下がっている間、親方は店内をゆっくり歩きまわる。現状がどうなってるか、しっかり自分の目で見て確認するためだ。
中央にあるらせん状のキャットタワーをはじめ、もふもふたちのために用意されているものが多々ある。
フォレストキャットたちがそれを使い、自由に移動している。
「なるほど、従魔たちが通る道ってことか……」
「すごいっすね~! あ、ちょ、親方!!」
「なんでぇ」
「鉱石ハリネズミもいますよ!! すごいっす!!」
『ボク?』
弟子はソファに座ってくつろいでいたルビーとウメのところへ行く。見つめるのは、ルビーの針の鉱石だ。
「うわ、うわあぁぁ、輝いてるっすね!」
『ちょっと、ルビーにちょっかい出したらただじゃおかないわよ!』
近寄ってくる弟子に、ウメが『シャー』っと威嚇する。ルビーは自分の番になったのだから、変な目で見るんじゃない! と。
「わわわっ!」
「この馬鹿、何してるんだ!」
すかさず弟子に親方のゲンコツが飛んできた。
「痛いっす! 俺はちょっと、素敵な鉱石だなーって思っただけっす!」
「ったく、ろくなことをしねぇんだから」
「何もしてないっす……」
親方と弟子でわーわーしているところに、太一が戻って来た。随分賑やかだと、笑いながらコーヒーをテーブルへ置く。
すると、弟子が「なんすかそれ!?」と食いついてきた。
「コーヒーです。苦いので、砂糖とミルクを一緒にどうぞ。ただ、苦手な人も多いので……そのときは遠慮せずに言ってください。ほかのドリンクもありますから」
「了解っす! いただきます! にっがあぁぁ! 苦いっす、これ!」
「馬鹿野郎! 落ち着かねぇか!!」
再び親方のゲンコツが弟子を襲う。
なんともせわしない二人組だと、太一は苦笑する。
弟子は砂糖を三つとミルクを入れて、落ち着いたようだ。親方は渋い顔をしていたので、お茶を出したらそちらを気に入ってくれた。
「気を遣わせちまってすまねぇな」
「いえいえ。うちのドリンクは、ちょっと変わってるものもありますから。人によって、好き嫌いが分かれやすいんですよね」
だから気にしないでくださいと、太一は笑う。
太一は店内を見回して、キャットタワーや窓の必要性など、従魔たちにとって過ごしやすい環境はどんなものかというのを親方に説明する。
もちろん、おもちゃや備品などの収納スペースもしっかり要望を出す。ねこじゃらしなどは長いため、上手くしないとスペースが取れないのだ。
太一の説明を聞き、親方は「なるほど」と頷く。
「従魔たちは、自由に外に出るのか?」
「基本は店内にいますけど、俺と一緒に外へ行くこともありますよ。ああでも、新しいカフェは庭スペースも充実させたいんですよね」
テラス席があるのもいいなと、太一は考える。
駆け回るもふもふたちを見ながらのティータイムは、とても楽しいだろう。むしろ自分がみんなを見守りながらお茶を飲んでのんびりしたい。
「人間、従魔、両方が自由に庭に出れるようにします!」
「わかった。なら、人間用のドアと、従魔用に小さいやつと簡単に開くドアを設置してもいいかもしれないな」
つまり猫扉のようなものか。
太一は親方の手をがしっと握り、「ぜひお願いします!」と熱いまなざしを向ける。
「そんなすごい考えがすぐに浮かぶなんて、天才ですね……!!」
「大袈裟だぞ」
「いいえ……! 俺、まったく考えてなかったです。たしかに、従魔たちだって外に出たい気分のときもあるかもしれません」
従魔たちの出入りが自由で、庭が広い新しいもふもふカフェ。構想がどんどん浮かんできて、あれもこれもと欲張りたくなってしまう。
「壁には従魔たちが歩けるキャットウォークと……あ! お客さんが荷物をしまっておける棚もほしいですね」
「壁に板と、棚か……あとはあるか?」
「あとは……従魔たちが逃げられる場所が必要ですね。天井付近か、もしくは専用のドアで、隣の従魔専用の休憩室と自由に行き来できるようにしてほしいです」
太一のリクエストを聞きながら、親方は天井の壁を見ながらなにやらぶつぶつ呟く。どのような構造にするのが一番いいか考えているのだろう。
「……よし、最高のカフェを建ててやろう!」
「よろしくお願いします!!」




