20 物件購入
「こんにちは~」
『くるぅ』
『きゅうぅ~』
翌日、太一はスノウとハルルを連れてテイマーギルドへやってきた。
「いらっしゃいませ~って、タイチさん!? どどどどど、どうしてフラワーベアがここにいるんですか!? 依頼していたフラワーベアですか!?」
「そうですよ。いい子だったので、テイムしたんです。依頼的には、問題ないですよね?」
山から下りてきているというフラワーベアの依頼は、討伐をしろというものではなかった。そのため、テイミングして解決をしてもなんら問題はないのだ。
シャルティは頭を抱えつつも、「もちろんです」と頷いた。
「しかし、この子がフラワーベアですか……。実際に見たのは初めてです。顔立ちは可愛い感じですが、何歳くらいなんでしょう?」
『一歳だよ』
「え、一歳なのか」
「一歳でこんなに大きいんですか、すごいですね」
シャルティの質問にスノウ自身が答え、それに太一が驚きシャルティまで伝わった。
ということは、スノウはまだまだ成長するのだろう。
(急いでカフェを大きくしないとやばいな……!)
先にスノウとハルルの従魔登録をし、次に依頼の話に入る。
報酬を受け取り、「お疲れ様でした」とシャルティから労いの言葉をかけてもらった。
「――さて。タイチさん」
「はい?」
突然真剣みを帯びたシャルティの声に、太一は思わず身構える。もしかしたら、とんでもない依頼を押し付けられるかもしれない……!!
しかし、そんな表情は一瞬だった。
「ランクアップ、おめでとうございます!!」
「えっ!?」
思いもよらなかった宣言に、太一は茫然とする。
だってまさか、もうランクアップするとは思わなかったからだ。もっと依頼の回数をこなして、テイマーギルドに貢献しなければいけないと思っていた。
「えっと、ありがとうございます。でも、いいんですか?」
(いや、俺としてはありがたいけど……!)
太一が驚きながら言うと、シャルティはくすりと笑う。
「もちろんですよ。というかタイチさん、自分がどれだけすごいかまったくわかってないんですから!」
――いいですか。
と、シャルティがびっと指を立てる。
「普通のテイマーは、従魔をなん十匹も持てません。スキルレベルが高かったとしても、せいぜい一〇匹がいいところでしょうか」
「――!」
シャルティの言葉に、家には何匹従魔がいただろうかと考え――数えてはいけないと思い聞かなかったことにする。
「それから、従魔の強さ! ただのウルフだって、テイムの成功率は五分五分です。それなのに、ウルフキングのルークに、今度はフラワーベアまで? 信じられません」
「成功率……」
一〇〇%です、なんてそんな。
「それに、スキルの多さ! 会話やおやつ調理に、回復スキルもありますよね。しかも、どれも高レベルですよね……?」
「確かに、スキルは多いしレベルも高いかも……しれません」
といいつつ、すべてのテイマースキルがある上にレベルは無限だ。もちろんこんなこと、誰にも言えはしないけれど。
太一の顔が引きつった笑顔になる。
シャルティはそれを見逃さず、「ですから」と手を叩く。
「テイマーギルドとしては、タイチさんにどんどんランクを上げていってほしいんですよ。優秀なテイマーなんですから、ぜひ上を目指してください」
「えぇっ! でも俺、出世には興味ないですよ」
もふもふカフェを自由に経営できるだけのランクがあれば、十分だ。
それに、ランクが上がったあとは依頼を受けるつもりはない。そんなことをしていたらカフェをやっていけないし、のんびりすることだってできやしない。
社畜はまっぴらごめんなのだ。
ということで、この話は切り上げることにする。
「ランクが上がったので、物件と周りの土地の購入ができるんですよね?」
「……はい。タイチさんはなかなか手ごわそうですね」
「流されて依頼を受けてランクを上げたりはしませんよ……」
「残念」
シャルティはぺろりと舌を出し、くすりと笑った。
「それじゃあ、物件の手続きをしちゃいましょうか。周囲の土地もですけど、どのくらいの広さがほしいですか? あそこら辺は、かなりの広さをテイマーギルドが所有してるんです」
なので、ある程度の融通は利くとシャルティが教えてくれる。
「う~~ん……」
どれくらい土地がほしいかと言われても、いまいち実感がわかない。というか、今後どれくらいの広さが必要になるのかがわからないのだ。
(もし大きなもふもふに出会ったら……たぶんテイムする)
けれど、懸念すべきはそれだけではない。
(小さくて可愛いもふもふの大群に出会ったら……たぶんテイムする)
つまり――どれだけ広くても安心できる広さは手に入れることができないのだ。だって、どんどんもふもふが増えるのだから。
現に今だって、スノウとハルルが増えている。
シャルティは正直、コログリスが一〇匹くらい増えるのではないかと戦々恐々していたくらいだ。
そこでふと、太一の脳裏に『全部買ってしまえばいのでは?』という悪魔の囁きが聞こえてきた。
ルークのおかげもあってお金はたんまりあるので、郊外の土地を買うことくらいはできるだろう。
別に土地を購入したからといって、家を建てたり、何かをしなければいけないわけではない。太一の土地になったのなら、そのまま放置しておいても問題はないのだ。
太一はむむむと悩み――シャルティを見た。
「周囲の土地、全部買います!」




