18 ご飯タイム
『タイチ、このまままっすぐでいいのか?』
「うん! 山の上の方に移動してたんだけど、止まったみたいだ」
山の中腹部分になると、雪が降ってきた。
寒いけれど、ルークのもふもふの毛がとても暖かい。膝にはケルベロスがいるし、大将は太一の首に尻尾を巻いてくれている。
(幸せの温もりだ……)
――と、考えている余裕はない。
「急ごう!」
山頂に近づくにつれて、雪の勢いが増してきた。
ルークたちがいなければ、一瞬で凍死していたかもしれない。
『おぉぉっきゅ、これは寒いきゅ!!』
大将が震えながら、太一の首にしがみついてきた。自慢の毛皮があっても、この寒さには勝てないようだ。
「大将、ここに入ってて」
『ありがとうきゅ!』
ジャケットの胸元に大将を入れて、少しでも雪から守れるように太一は前のめりになる。
『あ、洞窟だー!』
『あそこからフラワーベアっぽい匂いがするよ~』
『大丈夫かなぁ?』
ケルベロスが吹雪の先に洞窟を発見したようで、ルークの上から飛び降りていった。様子を見てくれているようだ。
『おーい、誰かいる~?』
『出ておいて~』
『あ、コログリスだ!』
『きゅぅ……!』
どうやら、コログリスがいるようだ。
「大丈夫そうか? ケルベロス」
『うん!』
太一の問いかけに、ピノが返事をしてくれた。
ほっと胸を撫でおろし、太一たちも洞窟へ行く。雪から避けられるだけで、だいぶありがたい。
体にかかった雪を落とし、ゆっくり洞窟の中を歩いていく。深さはだいたい一〇メートルほどで、中に行くほど広くなっている作りのようだ。
コログリスが太一のところまでやってきた。
『ご、ごめんなさいきゅぅ! フラワーベアは、人を襲ったりしないきゅぅ……だから、退治しないできゅぅ』
「ああ、そうか……俺たちがフラワーベアを討伐すると思ったのか。大丈夫、そんなことはしないよ」
安心してと、太一は震えるコログリスへ微笑む。
『きゅぅ……』
コログリスは安心したようで、『こっちきゅぅ』と太一たちを洞窟の奥へ案内してくれた。
洞窟の奥へ行くと、一メートルほどのフラワーベアが丸まって寝ていた。
尻尾の部分に花が咲いている、こげ茶色のクマの魔物だ。まだ子どもだからか、すやすや眠る姿はとても可愛らしい。
たくさんの落ち葉があり、寝床ということがわかる。その近くにはうさぎクッキーが入っていた袋も落ちていて、コログリスがフラワーベアのために太一の手伝いをしたのだということがわかった。
『フラワーベアは、わたしのことを心配して山を下りてきたんだって言ってたきゅぅ……。ハッチみたいに、わたしが死んじゃうと思ったんだきゅぅ』
「ハッチ?」
『フラワーベアの相方だった、ハチきゅぅ』
「あ……」
コログリスの言葉に、太一は俯く。
フラワーベアにとって、ハチは生涯に一匹だけのパートナーだという。そのハチを亡くしただけでも辛いのに、仲の良いコログリスにまで何かあったら……。
「本当に、フラワーベアはコログリスのことが心配だったんだな」
『とっても優しいんだきゅぅ。本当は冬眠だってしないといけないのに、わたしが一人になるのが心配だから……って』
「だから冬眠しなかったのか」
『きゅうぅ』
それに、魔物と戦ったからか怪我もしているようだ。
眠れないことや、冬で食料がいつもより少ないこともあり、衰弱しているように見える。
(うさぎクッキーは栄養満点だから、それで少しは元気になったみたいだ)
そのことに、太一は少しほっとする。
「とりあえず、まずは怪我を治そう。【ヒーリング】っと」
太一がスキルを使うと、一瞬でフラワーベアの傷が癒える。さすがに空腹はどうしようもないが、それは食料を持っているので問題ない。
猫の神様が授けてくれたテイマーのスキル、【ヒーリング】。
テイミングされた魔物を回復することができる。
怪我がよくなったからか、フラワーベアが目を覚ました。
ぱっちりしている水色の瞳が、太一に向けられる。
『だぁれ?』
「俺はタイチ。コログリスの友達だよ」
『友達……』
フラワーベアは起き上がると、笑顔になった。
『怪我を治してくれたのは、お兄ちゃんだよね? ありがとう』
「どういたしまして」
思っていた以上に、フラワーベアは温和な性格をしているようだ。
(凶暴な魔物からコログリスを助けたりしてあげてたもんな)
太一はうんうんと頷いて、そうだったと鞄の中からドラゴンジャーキーを取り出す。とりあえずたくさん食べて、元気になってもらわなければ。
それに真っ先に反応したのは、ルークだ。
『オレの飯だな!』
目をキラキラ輝かせている。
『あ~ずるい!』
『ボクたちも食べた~い!』
『お腹空いたなぁ』
ケルベロスも反応している。
『美味そうだきゅ!』
大将はヨダレを垂らしている。
コログリスとフラワーベアは、じっと見つめてきている。美味しいというのは匂いでわかるようで、持った手を左右に動かすと目が動く。
(可愛い……)
「ちゃんと全員分あるから、みんなで食べよう。俺も食べるし」
ドラゴンジャーキー、めちゃうまなのだ。
全員に渡すと、すぐに食べ始めてくれた。
『んむ、やはりドラゴンの肉は最高だ!』
『『『おいし~~!』』』
『ふおおぉぉ、ドングリの百倍美味しいきゅ!!』
『きゅううぅぅ~!』
『……っ、美味しい』
あっという間に、ドラゴンジャーキーを食べ終わってしまった。
『タイチ、おかわり!』
「これしか持ってきてないんだ。うさぎクッキーで我慢してくれ」
『仕方ない』
ルークのもっとよこせコールに、実はもう食べつくしてしまったと言いにくい。言ったら最後、すぐにドラゴン狩りに連れていかれるからだ。
(このままドラゴンを狩りながら帰ろうと言い出しそうだ)
さすがにそれは勘弁してほしい。




