7 テイマーギルド
そして事件が発生した。
「そんな大きな犬、うちの宿じゃ無理だよ! ほかを探しておくれ」
「はい……」
おすすめしてもらった宿屋に行ってみるも、ルークが大きすぎるという理由で断られてしまった。
落ち着いた雰囲気の宿だったため、とても残念だ。
「さてと、どうするかな……」
『まったく。俺様の寝床を用意できないなんて、駄目だな!』
太一とルークはほかに宿屋がないか、話しながら街中を歩く。たまにチラチラ見られているのは、きっとルークが大きいからだろう。
(仕事も探さないとだよな)
まずはもふもふカフェの開店資金をためなければいけない。残念ながら、お財布の中身だけではまったくたりない。
(どこかでバイトを探すか、それとも冒険者ギルドで仕事を斡旋してもらうとか?)
どうしたものかと悩んでいると、ルークが『どうした』と太一を見た。
「いや、金銭的な余裕が――あ」
『ん?』
「あそこの看板! 『テイマーギルド』って書いてある!」
宿に行く途中で冒険者ギルドは見つけたけれど、職業のギルドがあるとは知らなかった。まずは、ここで話を聞いた方がいいかもしれない。
(ルークみたいに大きな魔物と泊まれる宿屋も紹介してもらえるかもしれない!)
「ちょっと寄って行こう! いろいろ教えてもらえるかもしれない」
『わかった』
テイマーギルドは小さな建物で、中も受付嬢が一人いるだけでほかは誰もいなかった。
(え、もしかして寂れてる……?)
嫌な汗が背中を流れるも、入ってしまったのだから仕方がない。それに、受付嬢が嬉しそうな顔でこちらを見ている……。
水色の髪とピンクの瞳で、可愛らしい女の子だ。年は一〇代後半といったところで、二八の太一から見ればだいぶ若い。
「いらっしゃいませ! わあ、大きなウルフですね……。初めて見ますが、かなり高ランクの魔物ですよね?」
「こんにちは。こいつはルーク、フェンリルです」
太一が受付に行きつつ言葉を返すと、受付嬢はぽかんと目を見開いて、笑う。
「ふふっ、面白い方ですね。フェンリルの目撃例は数百年前にあったくらいで、今じゃ伝説の魔物じゃないですかっ!」
(おっとー!?)
まさかそんな返しをされるとは想定しておらず、太一の笑顔が引きつる。
(そういえば、門番もルークのことをフェンリルじゃなくてウルフ系の魔物って言ってたな……)
ルークのことを別段隠すつもりはなかったけれど、フェンリルに対する認識が伝説になっているなら変異種のウルフと言った方がいいかもしれない。
いきなりのとんでも情報で、太一の心臓はバクバクだ。
「ここのギルドは初めてですよね?」
「はい。……実は山奥の田舎から出てきたばかりで、身分証とかもないんですよ」
「そうでしたか! でしたら、テイマーギルドへ登録していただくとそれが身分証になりますよ」
受付嬢の言葉に、それはありがたいと頬が緩む。さすがに、ずっと身分証なし……というわけにもいかない。
「お願いします。テイマーのタイチ・アリマです」
「はい! 私は受付のシャルティです。どうぞよろしくお願いしますね!」
シャルティは登録用紙を取り出し、カウンターの上に置いた。
「こちらに記入をお願いします」
見ると、名前、年齢、従魔、スキル、備考と書かれた欄があった。
「名前と年齢……従魔はウルフのルーク一匹。スキルと備考は……」
『こら、ウルフとはなんだ! オレは誇り高きフェンリルだぞ!』
「……しょうがないだろ、今は伝説の生き物になってるんだから」
『ふむ……。まあ、孤高のオレ様が伝説というのもあながち間違ってもいないからな』
ふんと鼻を鳴らすも、ルークは嬉しそうにしっぽをぶんぶん振っている。
(このツンデレさんめ……!!)
こそこそしている太一とルークを微笑ましそうに見ているシャルティが、残りの欄を指さした。
「スキルの記入は任意になります。知られたくないという方もいらっしゃいますから……。備考は、こういった仕事がしたいということや、ギルドに伝えたいことがあった場合に書いてください。基本的に、従魔を駆使して魔物と戦う仕事が多いですね」
「なるほど……」
スキルを記入しておくと、それにあった仕事を割り振ってもらえるようになるらしい。
(俺のスキルには【ご飯調理】とかもあるから、それを書いとくとご飯依頼がきたりするのか……?)
そう考えるも、テイマーなら持っているスキルだろうし、テイマー以外には必要なさそうだから依頼が来るかはわからない。
かといって、固有スキルはあきらかにチートなので記入したくはない。
「あ、これならいいかな」
スキルの欄に、【ヒーリング】と【キュアリング】を記入する。これなら、回復を求めている人がいたときに助けてあげることができるはずだ。
そして、備考にはもふもふカフェを開店する予定とも書いておく。変に冒険の依頼などが来ても断れるようにだ。
「わっ、回復スキルをお持ちなんですね! なかなか持っている人がいないので、とても助かります……! それと、カフェですか?」
「はい! 俺は戦いとか、そういった荒事が苦手なので……カフェを開きたいと思ってるんです。でも、単なるカフェじゃなくて、もふもふした可愛い魔物と触れ合えるカフェです!」
「もふもふ……ですか」
太一が力説してみるものの、シャルティにはいまいち伝わっていないようだ。
(う~ん、こっちの世界には猫カフェ的なものがないみたいだな)
これはもふもふカフェを作っても、すぐ軌道に乗せるのは難しいかもしれない。




