17 過去の出来事
コログリスが走っていった方を見ている大将に、太一は困惑しながら声をかける。
「何か知ってるみたいだね。……話してくれる?」
『別に、大したことじゃないきゅ』
そう言いながらも、大将はコログリスのことを話してくれた。
***
コログリ山は、比較的平和な山だ。
強い魔物がいないわけではないが、山頂に近づかなければ襲われることもない。ご飯のドングリも豊富で、水も綺麗。
『今日もドングリが美味しいきゅ』
大将が木の上でドングリを食べているときに、異変は起きた。
山がざわつきはじめ、魔物や動物たちが何かを警戒し、巣穴の中へと引っ込んだ。
(この感じ……強い魔物がいるきゅ!)
平和な山にいったい何があったのだと、大将は急いで高い木の上へ登っていく。そして山を見下ろして――見つけた。
赤黒いウルフが、魔物たちを襲っていた。
『あれは、ウルフの亜種きゅ!?』
コログリスでは普通のウルフにも敵わないのに、亜種なんてとてもではないが倒すことができない。
見つかったら殺されるのがオチだ。
何匹かのコログリスは、すでにやられている。
『ウルフの亜種が出たきゅ! みんな、急いで巣穴に逃げるきゅ!!』
『『『もきゅー!』』』
大将の声に、山中のコログリスたちが反応する。
全員素早く巣穴に入った! そう思ったのだが、一匹だけ遅れているコログリスがいた。足が遅く、運動神経もほかのコログリスに比べると、よくはない。
しかも最悪なことに、転んでしまった。
『きゅぅ~』
『弱虫!』
大将が焦って声をあげるが、コログリスは足をくじいてしまったらしく動けないようだ。ウルフの亜種が、襲いかかろうとしている。
『――っ!』
もう間に合わない。
大将がそう思った瞬間、フラワーベアの吠える声が森に響いた。
フラワーベアが駆け、そのままウルフの亜種へ飛びかかる。どうやら、コログリスのことを助けてくれたようだ。
亜種とはいえ、所詮はウルフ。
この山の中で上位の力を持つフラワーベアに、敵うわけがない。
フラワーベアは、ウルフの亜種を倒した。
『た、助かったきゅぅ……ありがとうきゅぅ~!』
『…………ぐるぅ』
コログリスがお礼を言いにフラワーベアのところに行くも、何も喋らずに山を登って行ってしまった。
それを見て、コログリスも動く。
『おい! 弱虫、行くんじゃねぇきゅ!! そっから先の山は危険だきゅ!!』
必死に止める大将の声に耳を貸さず、コログリスはフラワーベアを追いかけていった。
***
『そのときのフラワーベアが、常に一緒にいるはずのハチを連れてない、ハチナシだったんだきゅ!』
それ以来、コログリスはそのフラワーベアのところにいるのだと大将が教えてくれた。きっと、助けてもらった恩返しをしたいのだろう。
「そうだったのか……。今の話を聞くと、コログリスはもちろんだけど、フラワーベアのことも心配だ」
ウルフの亜種に襲われたコログリスを助けてくれたのだから、きっと心優しいフラワーベアなのだろうと太一は思う。
だからこそ、早く見つけなければと気持ちが焦る。
何かのはずみに人を傷つけたら、ほかのも冒険者を呼ばれてしまうだろう。そうしたら、間違いなく討伐されてしまう。
(それより先に、俺が見つけ出して話を聞く)
いつもはルークに頼り切りの太一だが、今回ばかりは自分も頑張らなければと腹をくくる。
それでも、戦うことはできないけれど。
「――【索敵:フラワーベア】!」
猫の神様が授けてくれたテイマーのスキル、【索敵:魔物】。
魔物を指定すると、自分の周囲にいる対象を地図にして表示してくれる。
太一がスキルを使うと、自分の周囲が地図のように可視化される。これで、フラワーベアとコログリスを見つけることができる。
「って、結構フラワーベアの数が多い……あ、一匹だけ山の下の方にいるのがいるから、それがハチナシのフラワーベアか!」
ここからは少し離れているが、ルークの足があればすぐに追いつくだろう。
「よし、すぐに行こう! ルーク、ケルベロス、大将――」
太一がみんなの名前を呼ぶと、大将の周りにほかのコログリスたちが集まっていた。
『フラワーベア、襲ってくるきゅ?』
『大丈夫きゅ?』
『なーに、大丈夫だ! ルーク様は強いから、フラワーベアが襲ってきても楽勝きゅ!』
大将はどっしり構え、怖いことは何もないと説明している。
(さすがはコログリ山の大将、信頼されてるんだな)
『っと、待たせたきゅ! 早くフラワーベアのところに行くきゅ』
「……うん! 行くぞ、ルーク、ケルベロス!」
『ああ』
『『『はーい!』』』
索敵を使いながら、太一はルークの背に乗って駆けだした。




