14 お手伝いコログリス
「ヒメリが店内にいる間に、俺は在庫の整理でもするかな」
もふもふカフェには、従魔たちのおもちゃやお菓子、それから備品など、いろいろなものがある。
日本でしか手に入らないものもあるので、定期的に在庫のチェックなどもしているのだ。
「パスタソースはまだあるからオッケーで、あ……コーヒーメーカーの材料が少なくなってるのか」
これはあとで追加しておこう。
それから、従魔たちにあげているおやつのチェックだ。
カフェでよく出るのは、うさぎクッキー。材料があればスキルで作れてしまうため、かなり楽だが、すごく美味しい。
見ると、残りが一〇個ほどになっている。
「クッキーは作っておくか」
棚にしまっていた材料を取り出して、【おやつ調理】のスキルでうさぎクッキーを作る。あっという間に袋につめられたうさぎクッキーの完成だ。
「よしよしっと」
それからぐるりと部屋を見回して、汚れている個所の掃除を始める。目立つところは毎日しているけれど、棚などは気づいたときに掃除している程度だ。
ハタキで埃を落として棚を拭いていると、コンコンとノックの音が響いた。
「ん?」
しかし太一が店内に続くドアを見ても、何もないし、誰もいない。念のため開けてみたけれど、誰もドアの近くにはいなかった。
気のせいだったろうか。
そう思い掃除に集中しようとすると、またコンコンとノックの音が響いた。
「あれ? ドアの方じゃないな……」
よく見ると、キッチンの窓のところに一匹のコログリスがいた。一生懸命ノックして、『すみませんきゅ~!』とこちらに呼びかけている。
「あ、うさぎクッキーをお腹のポケットにしまってたコログリス!」
コログリ山にいたコログリスの一匹で、最初にうさぎクッキーをあげてからは特に関りのなかった子だ。
(いったいどうしたんだろう?)
太一は窓を開けて、コログリスを招き入れる。
「こんにちは」
『こんにちはきゅぅ!』
コログリスは中に入ると、ぺこりと頭を下げた。
『お願いがあってきたんだきゅぅ』
「うん? 俺にできることだったら、もちろん」
太一が頷くと、コログリスはぱっと表情を輝かせる。どうやら、どうしても頼みたいことがあったようだ。
(もふもふリスさんに頼られた……!!)
コログリス同様、太一も表情を輝かせ――いや、とろけさせた。
『今はお掃除をしていたきゅ? わたしも手伝うので、またうさぎクッキーがほしいのきゅぅ』
「クッキー? 別に、お腹が空いているならあげるよ」
太一は作ったばかりのうさぎクッキーを手に取り、コログリスに渡す。けれど、『駄目きゅぅ』と首を振った。
『お手伝い、するきゅぅ~』
「……とってもいい子なんだね、君は。じゃあ、狭くて俺の手が届きにくいところを拭いてくれるかな?」
『任せてきゅぅ~!』
本当は好きなだけうさぎクッキーをあげたいところだけれど、あんな必死にお願いされては致し方ない。
(偉いなぁ)
コログリスのために、太一は小さい雑巾を用意する。これで、棚の奥などを拭いてもらえれば綺麗になるだろう。
「棚の一番下の奥、俺だと拭きにくいからお願いできるかな……?」
『おまかせきゅぅ~!』
太一に仕事を任され、コログリスは嬉しそうに棚の中を雑巾がけしていく。物同士の隙間が多く、放っておいてどうにも埃がたまってしまった。
タタタタタッと雑巾がけをしていく姿が、なんとも可愛らしい。
(おぉぉ、助かる~!)
コログリスは、あっという間に棚を綺麗にしてしまった。
『どうですきゅぅ?』
「すごく綺麗になったよ、ありがとう」
お礼の気持ちを込めて、お礼にもう一袋うさぎクッキーを渡す。すると、コログリスは嬉しそうに飛び跳ねた。
『ありがとうきゅぅ~! これは食べると元気になれる、とっても素敵な食べ物きゅぅ』
「クッキー、気に入ってもらえて嬉しいな」
『また来てもいいきゅぅ?』
「もちろん」
どうやらまた来てくれるらしい。
(俺が嬉しすぎる……)
太一がコログリスと雑談をしていると、ヒメリがやってきた。
「お疲れ、ヒメリ」
「うん。ちょっと休憩~! 飲み物、飲み物っと」
ヒメリはコーヒーメーカーにコップを設置し、太一を見て、目を瞬かせた。
「コログリスがいる……」
「ああ、うさぎクッキーを気に入ったみたいで訪ねてきてくれたんだ」
「タイチのおやつは美味しいもんね」
コログリスの気持ちもわかると、ヒメリは微笑む。
「そういえば、ここからコログリ山までそこそこあるけど、大丈夫?」
太一たちは馬車で行ったけれど、コログリスの足では大変そうだ。
(しかもこの子、ほかのコログリスよりちょっと小さいかもしれない)
コログリ山で見たコログリスたちはだいたい二〇センチメートルくらいだったが、この子は一回りくらい小さいように見える。
『大丈夫きゅぅ。途中で休憩しながら行くきゅぅ』
「休憩するにしても、心配だなぁ……」
『きゅぅ……』
ルークは無理かもしれないが、ケルベロスあたりに送ってもらうのがいいかもしれない。太一がそんなことを考えてると、ヒメリの「え?」という声が耳に届く。
「待って、待ってタイチ……そのコログリスって、テイムしてない……よね?」
「え? してないけど……」
何か問題があっただろうか。
太一が首を傾げると、ヒメリが言葉を続けた。
「どうして、テイミングしてない魔物と喋れるの……?」
「え……?」
――え?




