12 君の名は――
『正直、この山のことならなんでも知ってるきゅ!』
大きなコログリス――大将コログリスは、仁王立ちで堂々と言い放った。周りにいるコログリスたちも、その言葉を否定はしない。
(なるほど、リーダー的な立ち位置にいるのがこのコログリスなのか)
「それはすごい」
太一は素直に関心し、大将コログリスを褒める。
「みんなの大将だな」
『大将! それは格好いいもきゅ!』
どやっと満足そうな顔をして、大将コログリスは近くにいるコログリスたちの肩を叩く。
『俺が守ってやるきゅ! 大将だからな!!』
『じゃあもう少し優しくするきゅ!』
『わ、わかってるきゅ!』
きゅきゅきゅと笑う大将コログリスだったが、どうやら威張り散らしている一面もあったようだ。女の子のコログリスに怒られて、しゅんとなってる。
(でも、人望? リス望はありそうだ)
それなら、山中のコログリスが、大将コログリスの言うことを聞いてくれるかもしれない。そうなると、とても効率がいい。
「じゃあ、えっと……大将の君。テイミングさせてもらってもいい?」
『もちろんきゅ!』
大将コログリスが、目を輝かせて太一のことをみた。
早く早くと、急かされているような、そんな気がする。
「じゃあ……【テイミング】!」
『もきゅっ!』
太一がスキルを使うと、大将コログリスがパチパチと光に包まれる。テイミングが成功したという証拠だ。
猫の神様が授けてくれたテイマーのスキル、【テイミング】。
魔物に対して使うと、自分の従魔にすることができる。成功率は、スキルレベルに比例する。
無事にテイミングできたので、あとは名前をつけるだけだ。
さて、どんな名前がいいだろうかと考えて、大将がいいのでは? と思う。
(でも、大将は名前じゃないしな……)
「うぅ~ん……」
悩ましい。
太一がどうするべきか悩んでいると、大将コログリスが自分から名前を言ってきた。
『今日から俺は大将きゅ?』
「え? いや、大将は名前じゃ――」
ないんだけど、と言おうとしたが、大将コログリスは気に入っているようで、とても嬉しそうな顔をしている。
(気に入ってるなら、いいのか?)
「それじゃあ、君は今日から正式に『大将』だ!」
『やったきゅ! 大将きゅ!』
大将コログリス――もとい大将は、万歳をして喜んだ。周りのコログリスたちに、『大将きゅ』とアピールをしている。
「よろしくな、大将」
『よろしくっきゅ、タイチ!』
太一と大将は、熱い握手を交わす。
小さなおててがとっても可愛くて、なんともいえない触り心地。痛くならないように、爪は立てないよう配慮してくれているみたいだ。
「「「…………」」」
太一が大将をテイミングし終わったところで、視線を感じた。振り返ると、グリーズたちとソフィアがじっとこちらを見つめていた。
「どうしました?」
「いや、どうしました……じゃ、ないだろ?」
あっけらかんとしている太一は、おそらく事の重大さがわかっていない。
「こんなに大量のコログリスが集まるなんて、前代未聞だ!!」
「――あ」
そういえばたくさんのコログリスが集まってくれていたことを思い出す。
すると、大将が手を叩いて『各自、自分の巣へ帰れ!』と指示をだした。その言葉を聞き、コログリスたちはいっせいに巣へと戻っていく。
「おぉ~、すごいな大将」
『これくらい、余裕だきゅ!』
大将は太一に褒められたのが嬉しくて、ニコニコだ。
太一の足をよじ登り、肩に座って落ち着いた。
その光景を見たグリーズは、「タイチだもんな」と考えることをあきらめたようだ。
「とりあえず、そのコログリス……名前は大将か。に、この山のことを聞いてくれ」
「わかった」
もふもふに囲まれて幸せなひとときを過ごしたあとは、依頼された仕事の時間だ。これをクリアし、ギルドに貢献し、夢の巨大カフェを手に入れるのだ。
太一は事前に用意されていた用紙を見て、その項目をひとつずつ確認していく。
「コログリ山に生息する魔物の種類、か」
『俺たちコログリスと、山の下の方にはスライム、ベリーラビットがいるきゅ。中腹にはウルフとワンワンと、ゴブリンと、コボルトがいるきゅ。上の方に行くと、星夜トナカイと、フラワーベアがいるきゅ』
「へぇ、結構たくさん魔物がいるんだなぁ」
大将に教えてもらった魔物をメモしていき、次の項目を確認する。
「突然変異の魔物などの有無……か」
『そういえば、ウルフの亜種がいたきゅん』
「ウルフの亜種? え、それは大変なん――」
「なんだって!?」
「なんですって!?」
太一が返事をする前に、横で話を聞いていたグリーズとニーナが割って入って来た。
ウルフ自体はそこまで脅威ではないが、亜種――つまり突然変異などをした魔物は、その強さが数倍になることもあるのだ。
これはやばい!
そう思ったのだが、大将があっさり『もういないきゅ』と告げた。
「二人とも落ち着いてくれ、もう倒されたらしい」
「え、そうなのか?」
「よかったぁ」
大将が言うには、亜種のウルフはフラワーベアが倒したのだという。
(なるほど、フラワーベアの方が強いのか。山頂に行くほど魔物が強くなってるのかな?)
とりあえず、今は山に危険がないとのことなので、よかったよかった。
それから薬草の生息に関することや、水場など、いろいろなことを大将に教えてもらって調査を終了した。




