11 テイミングされたい皆さん
山の中腹までやってきた太一たちは、野宿の準備をして一息ついた。ここを拠点として、山の生態調査などを行うのだ。
道中の魔物はグリーズたちが倒したのだが、元々生息している魔物以外は現れなかったので、別段危険なこともなかった。
(これなら平和に依頼を終わらせることができそうだ)
しかも仕事でもふもふをテイミングできるのだから、最高だ。
今回のような場合は依頼なので、テイミングした魔物を従魔にする必要はない。また、山へ放してあげていいらしいが――そんなそんな、もったいない。
もふもふのリスは正義だ。
カフェは狭いけれど、コログリスは小さいので数匹くらい連れて帰っても問題はないだろう。さすがに一〇匹となったら、ヒメリの雷が落ちるかもしれないけれど……。
「んじゃ、今日はもう休むか。俺たちが順番で見張りをするから、タイチとソフィアはテントで寝ててくれ」
グリーズが焚火に木の枝をくべながら、「しっかり休めよ」と言ってくれる。
「ありがとう」
「あ、あ……すみません、ありがとうございます」
テントは男性&ルーク、女性&ケルベロスでわけている。
というのも、ニーナから「一緒に寝たい!」と切望されたからだ。太一がどうしようか悩んでいたら、ケルベロスが添い寝係を申し出てくれたわけだ。
(まあ、もふもふと寝ることほど最高なことはないしな……)
ニーナの気持ちはよくわかる。
そんな太一だが、実はグリーズがケルベロスなら一緒に寝てくれるかも……という期待をしていたことは、考えもしていなかった。
***
そして翌日。
夜中に魔物が襲ってくるということもなく、よく眠ることができた。加えて、ルークが太一に添い寝してくれたのも大きかっただろう。
(最高のもふもふだった……)
これなら毎日野宿でもいい。
「っと、今日は生態調査だった」
拠点の周囲を見て回ることになっていて、太一の側にはルークとケルベロスがいる。ソフィアの側には、グリーズたちのパーティがいる。
いわゆる護衛みたいなものだ。
見ると、ソフィアが薬草や植物を調べているところだった。
「はあああぁぁっ! こ、これは……!! コログリ草じゃないですか!!」
「山の名前の草なら、珍しくないんじゃないの?」
「何を言っているんですか、ニーナさん! コログリ草は、かなり貴重なんですよ。市場でも、あまり出回ることはないんです。なぜかというと、発芽方法が独特だからなんです。コログリ山のドングリは、コログリスの大好物なんですけど、そのコログリスの食べかけのドングリが地面に放置されると、発芽することがあるんです。基本的にコログリスは食べ物を残したりしないので、とっても貴重なんですよ。ちなみになんでコログリスの食べかけからしか発芽しないかというと、コログリスの魔力がわずかにドングリに移るからと考えられています」
「えっあっはい……」
大人しかったソフィアが目を輝かせながら語る姿に、ニーナが言葉をなくしている。
(ソフィアさん、大好きなものには饒舌になるタイプだったのか……)
自分も猫やもふもふのことになるとついつい喋ってしまうので、その気持ちがよくわかるというものだ。
『ねぇね~! タイチ、コログリスを仲間にするの?』
「そうだよ。山の状況を聞いて、確認するんだ」
太一がピノの言葉に返事をし、「大切な仕事なんだ」と説明する。
『仕事のできる男だね、タイチ!』
「おおぉ、クロロありがとう! 褒めてもらえると嬉しいな」
これだけでめちゃくちゃ頑張れる。クロロのような上司だったら、きっと世の中はハッピーだっただろう。
『山にいる子、み~んな連れて帰っちゃうのはどう?』
「うわ、名案……! でもヒメリに怒られるな……」
ノールの提案に心揺らぐが、さすがにもふもふカフェの面積を考えると山中のコログリスを連れて帰ることはできない。
それこそ生態が壊れてしまい、依頼の意味がなくなってしまう。
「さてと、俺は俺の仕事をしますか! 俺にテイムされてもいいっていうコログリスはいないかな――っとととと!?」
『『『きゅっ!』』』
太一が周囲を見回した途端、たくさんのコログリスがやってきた。
小さな手を一生懸命上げて、自分をテイミングしてくれとアピールしている。必死すぎて、持っていたドングリを落としてしまった子もいる。
(え、俺にテイムされたい子がこんなにたくさん……?)
思わずトゥンクしてしまう。
『ほらー、みんな一列に並んで!』
『みんなをテイムすることは無理なの』
『誰かなんて、選べないよぉ』
ケルベロスがマネージャーよろしく、コログリスを整列させた。見事な列になっており、その最後尾は果てしなく遠い。
(コログリスってこんなにいたのか……)
しかし、ここから数匹を選ぶというのは難しい。なぜなら、みんな可愛いからだ。ああ困った困った……。
そう思いつつも、太一の顔はによによしっぱなしだ。
すると、ルークが一歩前へ出た。
『テイミングするなら、強い者に決まっているだろう! この山で一番強いコログリス、前へ出てこい!』
ルークが吠えると、コログリスたちの中でざわめきが起る。キョロキョロと仲間たちを見て、一番強いのは誰か考えているようだ。
『ボク、木の上を走ったら山で一番きゅ!』
『私は美味しいドングリを見分けるのが上手いわよ!』
『大食いなら負けないっきゅ!』
コログリスたちが、自分の秀でているところを言い合っている。その光景が、とっても微笑ましくてニコニコ笑顔になってしまう。
さてどうしようかと考えていると、ほかのコログリスよりも体が一回りほど大きなコログリスが出てきた。
『この山で一番っていったら、俺しかいないきゅん!』
背中の模様に二つのドングリが入っていて、耳に傷があり少しかけている。
お山の大将――といった感じのコログリスだ。




