10 幸せまみれ
ひょっこり現れたリスに、太一は目をキラキラさせる。くるんとなっているもっふもふの尻尾はとても力強く、幸せの象徴だ。
リスはひょこひょこっと木々の合間から顔を出して、太一の下へ集まってきた。
「おお、こいつは『コログリス』だ。確かこの山に生息するリスで、腹にドングリを溜めるって聞いた気がする……ぞ?」
グリーズが眉間に皺を寄せつつ、どうにか思い出して教えてくれた。
「お腹にドングリを?」
食べたものを溜めてるんだろうか? 太一は首を傾げつつ、肩に乗ってきたコログリスの頭を撫でて、そっとお腹に触れてみる。
(ドングリでぱんぱんになってるとか?)
そう思ったのだが、お腹にポケットがあってそこにドングリを詰め込んでいるようだ。
「へえ、便利だなぁ」
太一が感心していると、コログリスがお腹のポケットに手を入れて、ドングリを一つ取り出し差し出してきた。
『あげるきゅ!』
「えっ!?」
思いがけないプレゼントに、太一は震える。
手のひらサイズの小さなリスの名前は、コログリス。
コログリ山にしか生息していない種類で、お腹のポケットに食べ物などを入れておくことができる。
背中の模様はしましまとドングリになっていて、とても可愛らしい。
太一は手を出して、コログリスからドングリをもらう。帽子がついた丸いドングリは想像より重く、よくお腹に入っていたものだ。
すると、コログリスたちが次々とお腹のポケットからドングリを出して太一に渡してきた。
『あげるきゅ!』
『これは栄養満点きゅ!』
『美味しいきゅぅ~~!』
「わ、わわっ! みんなの大事なご飯なのに、こんなにたくさんもらっていいのか……?」
『『『もちろんきゅ!』』』
「ありがとう~~!」
山に来て早々、こんな歓迎を受けるとは思ってもみなかった。
コログリスたちの温かさに、目頭が熱くなる。
(年を取るとどうにも涙もろくなってしまい、困るな……。温かい、暖かい……)
太一が感動に打ちひしがれていると、ニーナが「ねぇ」と声をかけてきた。
見ると、ニーナだけではなく、全員の視線が太一に注がれている。その表情は、信じられないものを見たような、あきらめたような……。
「あっ、あ……タイチさんが埋もれて見えなくなってしまいましたっ」
「――わお」
コログリスのプレゼントに夢中になっていたのだが、その間ずっと、コログリスたちは太一の周りに集まり、肩や頭に乗り……最終的に太一の体全部がリスまみれになっていた。
顔も見えない。
ただのもふもふの塊だ。
さすがにこれは大変だ、コログリスたちを離さなければ――と思うのだが、別にこのままでもいいのでは? と、考えてしまう。
(今は冬でとっても寒いけど……コログリスたちのもふもふで暖かさマックスだ)
と思いつつも、ここには仕事で来ているのだったと我に返る。
「ごめん、離れてくれるかな?」
『『『きゅ!』』』
太一がお願いをすると、コログリスたちはすぐに離れてくれた。聞き分けがよすぎて、野生とは? と、思わず首を傾げたくなるほどだ。
その様子を見ていたアルルが、口元をひきつらせた。
「テイマーが従わせられる魔物は、テイミングした従魔だけではなかったかしら」
アルルの言葉に、その場にいる全員が頷く。
「でも、タイチだからな……」
「タイチだから……」
「ええと、えと、すごいテイマーだったんですね」
――が、なぜか納得されてしまった。
「あーあはは……。あ、ドングリのお礼にうさぎクッキーをあげるよ」
太一は鞄からうさぎクッキーを取り出して、コログリスたちへプレゼントする。受け取ると、すぐに口いっぱいに頬張ってくれた。
『きゅ~! 美味しいきゅ!!』
『おいちぃ!』
『ドングリとはなんだったきゅ~!?』
どうやらいたく気に入ってくれたようだ。
「よかったよかった――と、あれ?」
ふと、一匹のコログリスだけは、食べずにお腹のポケットに入れていることに気づく。みんな夢中で食べてくれたのだが、好みの匂いではなかっただろうか。
(それとも、お腹いっぱいだったのかな?)
そのコログリスは木の枝を登り、どこかへ行ってしまった。太一は行ってしまったことをちょっと残念に思いつつ、そうだ依頼で来ていたんだったと気を引きしめる。
「すみません、コログリスに夢中になってしまって……」
「いいさいいさ、あいつらが元気にしてるってことは、山も落ち着いているっていうことだろうしな」
グリーズは「大丈夫だ」と言って笑う。
「でも、可愛いもふもふちゃんを見れたのは嬉しいな! こんなこと、初めてだもん。タイチが一緒で役得だ~♪」
ニーナがるんるん気分で歩き始めたので、太一たちもその後に続いた。




