9 森のもふもふ
「タイチ・アリマ、テイマーです。こっちはルークとピノ、クロロ、ノール。こういった依頼は初めてなんですが、どうぞよろしくお願いします」
「「「よろしく!」」」
冒険者ギルドにて。
ヒメリの後押しもあり、太一は共同依頼を受けることに決めた。今回はルークとケルベロスが一緒にいる。とても心強い。
ほかのメンバーは、グリーズたちのパーティ。それから、アルケミストの女の子が一人。
「よ、よろしくお願いします……。アルケミストのソフィアと申します。ええと、私もパーティは得意ではないのですが、精一杯頑張ります」
おどおどして声が小さい、アルケミストのソフィア。
腰までのびた綺麗なプラチナブロンドに、ハニーグリーンの瞳。黒いフレームの眼鏡には、植物をモチーフにしたチェーンが付けられている。
白衣ローブには大きなポケットがついていて、たくさん物を入れることができそうだ。
年のころは一〇代後半くらいだろうか。
太一はパーティに不慣れそうなソフィアを見て、これは初心者仲間では? と考える。それならば、いくぶんか気が楽になる。
「アルケミストの人に会うのは初めてで、ご一緒できて嬉しいです」
「……私も、テイマーは初めてです」
「なら、初めて仲間ですね」
同じように返事をしてくれるソフィアに、太一は微笑む。
挨拶が一通り済んだところで、グリーズが手を叩いた。
「んじゃ、簡単に説明をするぞ。俺達が行くのは、馬車で半日ほど進んだ『コログリ山』になる。そこで数日間、調査を行う。だいたい三日くらいだな。野宿のときの見張りは俺たちがやるが、いろいろ手伝ってくれると嬉しい」
そう言ったグリーズの視線は、チラチラとルークへ向けられている。どうやら、かなり期待されているようだ。
太一はアハハと笑い、「善処します」と告げる。
(まあ、ルークなら寝てても危険を察知できそうだから大丈夫かな)
そうそう危ないことにはならないだろう。
「んじゃ、出発!」
グリーズの声に返事をして、太一たちは出発した。
***
コログリ山へ行くまでの馬車は、ギルドからの貸し出しでグリーズが御者をしてくれている。
防水布のホロがついた馬車で、太一は荷台部分に乗せてもらっている。ルークは持ってきたお気に入りのビーズクッションで昼寝をし、ケルベロスは楽しそうに景色を眺めている。
「馬車での移動って初めてだ、すごく……揺れる!!」
電車が心の友だった社畜の太一には、なんともいえないガタゴトと揺れる馬車に動揺する。
(道が舗装されてないってのも原因かな?)
とはいえ、砂利道だが一応の舗装はされている。
コンクリートのようにきっちりならされているわけではないので、こればかりは仕方がないだろう。
『あ~! 見て見て、タイチ! スライムがいる~!』
『倒す?』
『あれは雑魚だからほっといて大丈夫』
「山に着くまでは、襲われない限り何もしないよ」
はしゃぐケルベロスたちの頭を撫でて、太一は「のんびりしよう」と告げる。
山についてからが本番なので、ここで体力を使うわけにはいかないのだ。
(とはいっても、ケルベロスの体力は無尽蔵だけど……)
自分がついていけるかが、ちょっぴり不安な太一なのであった。
そして半日後、太一たちはコログリ山に到着した。
「お疲れ! 今日は周囲を警戒しながら進んで、中腹くらいで野宿だな。そこを拠点にして、明日から調査をする」
グリーズが説明をすると、全員が頷く。
今日は基本的に魔物を倒しつつ進むため、太一がテイミングをするのは明日以降になる。ソフィアの薬草採取も、明日だ。
(山の中腹……かぁ)
山を見上げると、なかなか高い。
冬ということもあって、山頂は白くなっている。おそらく、中腹をすぎたあたりから雪が積もっているのだろう。
(とりあえず、足手まといにならないように頑張ろう)
すると、太一の足にもふっとした柔らかな感触が。
なんとルークがもふもふの尻尾を絡ませてきていた。
「るるる、ルーク!?」
(突然のデレ期!?)
太一のテンションが一気に上がり、今なら山頂だって楽勝で登れるような気がする。
『背中に乗っていくか?』
「あ、あー…………いや、今日はみんなもいるし、やめとくよ。気持ちはすごく嬉しいんだけど……」
『そうか』
普段、ルークの背に乗って移動することが多い。
今もとてつもなく乗りたいけれど、それだとルークに元のサイズに戻ってもらわなければならなくなる。
(そしたら、ルークがフェンリルってばれちゃうかもしれないしな……)
後は普通に、男の自分がルークの背中に乗って進むのは絵的にもよくない気がしたからだ。ちょっとは男前に頑張っているところも見せたいところ。
なんてことを考えルークとやり取りをしていると、太一の横にあった木がガサリと揺れた。そして――
『きゅ?』
「はわわわ、可愛いリス!!」
新たなもふもふと出会った。




