6 ランクアップ!
街中、主にギルド周りがざわついていた。
それは、強い魔物討伐の依頼を受けても、翌日にさらっと達成報告をしてくる奴がいる! という噂だ。
その人物は大きなウルフ――ウルフキングを連れていて、並みの冒険者では話しかけることもできないほどの威圧を放っているという――。
テイマーギルドの扉を開けて、太一は「こんにちは」とシャルティのいる受付へいく。
「太一さん! いらっしゃいませ」
「昨日受けたオーク討伐の依頼、終わったので報告に来ました」
「……ええと、昨日の夕方にお願いした依頼ですよね? あれはオーク一〇匹じゃなくて、集落を殲滅するっていう依頼だったんですよ」
上手く説明できてなくてすみませんと、シャルティが謝った。しかし、太一にはその理由がよくわからない。
(ちゃんとオークの集落を殲滅してきたんだけど……)
太一とシャルティの間に、何か勘違いがあるようだ。
「さすがにオークの集落を一晩で……っていうのは無理なので――」
シャルティがそう言うのと同時に、太一は討伐証明部位のオークの耳をカウンターの上へ置いた。ドサドサっといい音がして、その数は軽く一〇〇を超えるだろうか。
「…………」
シャルティは驚きに目を見開いて、大きく息をはいた。
「そうでした……私はタイチさんが何をしても驚かないって決めたんでした……。でも、さすがに一晩でオークの集落はすごいの一言です。普通は、ちょっとずつ見張りのオークを倒したり時間がかかるんですけどね」
まさかそんな、ルークが一〇分程度でやってくれたなんてそんな。言えない。
太一はあははと苦笑しながら、依頼達成の処理をしてもらう。
「あ! 今回の依頼でタイチさんのギルドランクが上がりました!」
「えっ、本当ですか!?」
「はい。タイチさんは、今日からEランクですよ!」
「おおぉ、おおぉぉ~!」
ルークと一緒に依頼を受け始めて、まだ一〇日ほどだ。もっと時間がかかるかと思っていたので、とても嬉しい。
「やった! ありがとうございます!!」
太一はぐっとガッツポーズをして、喜びをあらわにする。
「物件の買い取りができるようになるまで、あと一つですね」
シャルティの言葉に、太一は大きく頷く。
当初は長い道のりだろうと思っていたが、ここまで来てしまえば目前な気がする。窓から庭に出られるようにしようとか、部屋同士の壁に猫ドアをつけようとか、いろいろなことが頭の中に浮かんでくる。
(うおぉ、楽しみだ!)
家に帰ったら、スキルを使って建築やインテリア関係の本を購入して勉強しておくのもいいだろう。
「シャルティさん、次の依頼をお願いします! このまま一気にランクを上げて、もふもふカフェを大きくします!!」
「気合が入ってますね~……」
燃える太一に、しかしシャルティは申し訳なさそうに眉毛を下げた。
「? シャルティさん?」
「……実は、もう依頼がないんですよ」
「えっ!?」
シャルティの言葉に、太一は口を開いて驚く。
依頼をこなさないとギルドランクが上がらないので、そうなるといつまでたっても物件を購入することができない。
「どうして依頼がないんでしょう?」
「うちのギルドは、もともと依頼が少ないんですよ」
「ああ……」
いつ来てもテイマーがいない。
ギルド職員は何人か見たことはあるが、受付にいるのは基本的にシャルティさんだけだ。
(テイマーの数が増えないっていうのも、問題だよなぁ……)
せっかく太一がもふもふ魔物のよさを広めても、そのもふもふ魔物をテイミングしてくれる人が増えなければどうしようもない。
かといって、一般人にテイマーになって魔物をテイミングしろ! とも言うわけにはいかない。
(もっとこう、小さい子が『将来の夢はテイマー!』みたく言ってくれる世の中にしなければいけないのでは……?)
そうすれば、自然ともふもふに関連するお店も増えるはずだ。
「少ない依頼を、タイチさんが全部達成してしまったんですよ。私もこんなに早く達成するとは思わなくて……。明日には新しい依頼が入ると思うので、もうちょっと待ってもらっていいですか?」
「明日ですね、わかりました」
数週間後と言われたら長いと思うけれど、明日であればまったく問題ない。家で従魔たちとのんびり過ごしていればあっという間に明日になる。
「それじゃあ、また明日来ますね」
「はい、お待ちしています」
太一は手を振り、テイマーギルドを後にした。




