5 美味しいおやつに夢中
ジト―っと見つめてくるルークに、太一はたじろぐ。
「いやいやいや、別に独り占めしようとか、そういうわけじゃないぞ? ちょっと味見をしてみようと思っただけで――」
『『『…………』』』
太一が謝罪の言葉を口にすると、ルークを追ってやってきた全員の視線が突き刺さってきた。
これはまずい、そう考えるよりも早く太一は「ごめん!」と謝った。
「ルークが狩ってくれたドラゴンの肉で作ったんだから、俺が味見するより先にルークに声をかけないと駄目だよな」
『……ふん、まあいい! 許してやろう。俺は寛大なフェンリルだからな!』
「さすがは偉大なるフェンリル様だ。すぐにおやつの用意をさせていただきます」
太一はうやうやしく礼をして、ドラゴンジャーキーを一つ取り出す。
それを見て、ほかの従魔たちも太一の足元へわらわら集まってくる。その様子は最高に可愛いけれど、まずはルークからだ。
「はい、ルーク。よく噛んで食べるんだぞ」
『んむ』
差し出すと、ルークがドラゴンジャーキーへかぶりついた。太一は苦戦を強いられた硬さだったけれど、ルークにとっては一噛みだ。
しかし太一が言ったことを聞き、味わうように噛んで食べている。
噛むごとにルークの表情がとろけて、尻尾の揺れが大きくなっていく。こんな姿を見せられてしまったら、いくらでもあげたくなってしまう。
すると、『ボクたちにも~!』とケルベロスが飛びついてきた。
「ちゃんとみんなの分あるから、落ち着いて」
『『『は~い!』』』
ケルベロスが元気に返事をしてくれるが、先にもふもふカフェの先輩のベリーラビットからだ。
ドラゴンジャーキーを食べやすい大きさに切って、ベリーラビット用のお皿へと乗せてあげる。
『みっ!』
『みみ~!』
「ゆっくり味わって食べるんだぞ」
ベリーラビットたちが食べるのを見て、ケルベロスの目が輝いている。ハグハグ必死に食べるのを見て、すごく美味しいと判断したのだろう。
(いや、実際めちゃくちゃ美味い!)
「ほら、ピノ、クロロ。ノール」
『『『わぁ~い!』』』
太一はケルベロスの名前を読んで、それぞれ一つずつ食べさせてあげる。
『ふわああぁぁ、美味しーい!』
『控えめにいって最高』
『お留守番のご褒美だ~!』
想像以上に美味しかったらしく、ケルベロスは必死にドラゴンジャーキーをかじかじしている。
それからフォレストキャットとルビーにあげると、みんな美味しそうに食べてくれた。
『『『にゃ~ん』』』
『ん、美味しいわ!』
『どどどど、ドラゴンの肉を自分が齧っているとは!』
ウメは上品に食べ、ルビーはいろいろなことに驚愕している。けれど美味しかったようで、うっとりしている。
(よかった、みんな気に入ってくれて)
ルーク専用のおやつとしてメニューに加えようと思っていたが、全員用のおやつにして問題なさそうだ。
(むしろ俺が食べたい……)
そこでふと、メニュー名と値段に悩む。
「ドラゴンジャーキーって名前だと、驚かれるんじゃないか……?」
この世界にドラゴンがいるとはいえ、人々に馴染みがあるわけではない。それどころか、ドラゴンが出たらパニックになってしまうだろう。
強い冒険者がいなければ、村や街は滅ぼされてしまう……なんてことも。
「それに、値段もどうしよう?」
苦労して狩ってきたドラゴンの肉を、安い値段で提供するのもルークに申し訳ない。
「うぅ~ん」
これは困った、どうすべきか。
ヒメリに相談してみようかな? と思っていたら、ケルベロスが太一の足をよじ登って太一の肩に乗ってきた。
『美味しかった~!』
『この美味しいやつ、お店に出すの!?』
『お客さんからもらえるの、嬉しい』
「あー……」
ケルベロスは、お客さんからドラゴンジャーキーをもらえるらしいことに気づいたようだ。尻尾を振って、『楽しみ』と太一の頬をペロペロと舐めてきた。
ドラゴンジャーキーがよっぽど気に入ったようだ。
ちらりとルークを見てみると、眉間にしわを寄せて目を細めて難しい顔をしていた。
おそらく、お客さんから食べ物をもらうのは嫌だがドラゴンジャーキーは食べたいと葛藤しているのだろう。
「んー……値段をちょっと高めにして、メニューに載せようか」
『『『わーい』』』
ケルベロスが喜び、ルークはまだ葛藤している。ほかの従魔たちもお客さんからおやつをもらうことに抵抗はないので、嬉しそうだ。
(ルークには俺からあげよう)
こうして、もふもふカフェにおやつメニューが増えることになった。
***
そして、翌日。
「ちょっと、この新メニューのおやつなんなのー!?」
朝から、もふもふカフェにヒメリの驚いた声。
新しいメニューの『ジャーキー』を味見してもらったが、その美味しさに驚いたようだ。
「どう?」
「いや、どうって……いや、いや、でもタイチが作るものだし……」
ヒメリは壁に向かってぶつぶつ言い、ひとしきり「あり得ない美味しい」と呟いて太一を見た。
「……というか、これ、なんのお肉なの?」
食べても味では判断がつかないと、ヒメリが不思議そうにしている。鳥でも、豚でも、牛でも、羊でもない。
「えーっと…………魔物の、ウルフだよ。ルークと一緒に討伐依頼を受けてさ。そのときに狩ったウルフの肉を使ったんだ」
「ウルフ! 確かにウルフは食べたことないけど、ウルフがこんなに美味しかったらもっと有名になってるはずなんだけどなぁ……」
ヒメリが疑いの目で見てきたので、太一は思わず視線を逸らす。そのままにっこり笑って、「そろそろ開店時間だった!」と、逃げるように厨房を出た。
ドアを開けると、並んでくれているお客さんがいた。
「いらっしゃいませ!」
今日も元気にもふもふカフェは営業中です。




