3 ルークのドラゴンのついでに……
もふもふカフェの閉店作業をヒメリにお願いして、太一は一人テイマーギルドへとやってきた。
夜にルークの散歩、もといご飯の材料になるドラゴン狩りに行くので、何か一緒に受けれる依頼はないか確認にきたのだ。
(ギルドランクを上げないといけないからな……)
太一は異世界に来た当初、戦いなどとは無縁で生きるつもりだった。もふもふカフェをしながら、のんびりゆっくり暮らしたい――そんな風に考えていた。
しかし、そうもいかなくなってしまったのだ。
その理由は――テイマーギルドで借りている物件が手狭になってしまったせい。もふもふが増えたので広くしたいのだが、ほかにいい物件がなかった。
なので、今の場所と周りの土地を買い取ろうと計画している。……が、これにも問題がある。なんと、太一のギルドレベルが足りなかった――!
太一のギルドランクはF。
物件の購入条件はギルドランクDなので、なんとランクを二つも上げなければいけない。
ということで、ギルドで依頼を受けてランクを上げたいのだ。
(でも、戦うのとか苦手なんだよな……)
基本的にルークとケルベロスに戦闘面の依頼はお願いするが、太一としては従魔のお世話などの楽しそうな依頼がいいなぁ……なんて考えている。
テイマーギルドは、大通りから二本入ったところにある大きな建物だ。
従魔は大きい魔物もいるので、入れるように建てられているのだろう。従魔と一緒に使える宿泊施設もあり、太一も当初はお世話になっていた。
「こんにちは~」
テイマーギルドに入ると、いつも通り閑古鳥が鳴いていた。本当にこの世界、というかこの街はテイマーが少ない。
太一は、もふもふカフェの影響でもふもふ好きやテイマーが増えたらいいとも思っているのだ。
受付にいたシャルティが顔を上げて、こちらを見た。
「いらっしゃいませ! って、太一さん――!」
太一の出現に、驚きキョロキョロするシャルティ。
外はねの水色の髪に、カラフルなヘアピン。白の上着と水色のスカートの制服が可愛らしい、テイマーギルドの受付嬢だ。
いつも太一がすごい魔物や大量の魔物を連れてくるので、太一が顔を見せるとついつい警戒してしまう癖がついてしまった。
シャルティは、「あれ?」と不思議そうに太一の後ろを見た。
「ええと、新しく登録する従魔はどこですか?」
「あはは……今日は従魔の登録じゃないです」
「え?」
太一の言葉に、シャルティは目をぱちくりさせる。じゃあいったい何をしにテイマーギルドに? とでも思われているのだろう。
「依頼を受けに来たんです」
「ああ、依頼を――えっ、タイチさんがついに依頼を受けに!!」
シャルティは感動のあまり、目から大量の涙を流して喜んだ。
「嬉しい、嬉しいです! 物件の購入には依頼を受けてギルドランクを上げないとと言っていたのに、なかなか来てくれないんですもん! 来てくれてよかったぁ~!」
「なかなか来れなくてすみません。何か、従魔のお世話の依頼とか――」
「タイチさん用のすごい依頼、たくさん用意しておいたんですよ!」
太一の言葉を聞き終わる前に、シャルティがどどどんと依頼書の束をカウンターの上へと置いた。
その数は、軽く数十件ほどあるだろうか。
思わず、太一の頬がひきつる。
「いや、ちょっと待って……俺は初心者ですよ」
(いったい何をさせようっていうんですかシャルティさん!)
ひええっと、腰が引けてくる。
いっそこのままUターンをして帰りたい衝動に襲われるが――それだと、もふもふカフェを広くすることができない。
太一はぐっとこらえて、「お手柔らかにお願いします……」と観念した。
シャルティは依頼書を太一が見やすいように並べ、順番に説明をしてくれる。
「なんと言っても、タイチさんにはルークがいますからね。魔物退治をお願いしたいんですよ!」
「ですよねー……」
ルークはとても強く、そこら辺にいる魔物だったら瞬殺だ。なんと言っても、食べたいからという理由でドラゴンを狩ってしまうのだから。
依頼書には、オーク、ゴブリン、ウルフなど比較的お手軽そうな魔物から、ちょっと強いとワイルドミノやプラチナゴーレムなどが書かれている。
(どれもルークが倒したことのある魔物だ)
これだったら、太一がまったく知らない魔物の討伐依頼を受けるよりも安心だと考える。
(さすがにドラゴン討伐の依頼とかはないのか)
ドラゴン討伐があれば一石二鳥かと思ったが、残念ながらそんなものはない。というかそもそも、人間が安易に行ける場所にドラゴンがいることはないのだけれど……。
「それより、従魔や魔物のお世話の依頼とかはないんですか? もふもふしてたらなお嬉しいです!」
「タイチさんらしいチョイスですね。ないわけじゃないですけど、依頼料は討伐依頼ほど高くないですし、ランクアップも討伐依頼をこなしていくより遅くなっちゃいますよ」
「うぅ……」
そう言われてしまったら、確かに討伐依頼の方がいいと頭を抱える。
(今のままだと、従魔を増やす広さもないもんな……)
もし運命の出会いをしてしまったらいったいどうすればいいのか。家が狭いから一緒にいられないんだ、なんて――そんなことは言いたくない。
太一はぐっと堪えながら、頷いた。
「わかりました……討伐依頼を受けます。どうにかギルドランクを二つ上げて、家を大きくして……みんなが不自由なく過ごせるようにします!」
「さすが太一さんです! では、この依頼を順番にこなしていきましょう。大丈夫、ルークよりも弱い魔物ばかりですから!」
まずは手始めに、オーク、コボルト、ウルフの依頼を受けた。一気に三つも!? と太一は焦ったが、シャルティの「タイチさんなら大丈夫!」という謎の信頼により決まってしまった。
「討伐の証明部位を持ってきてもらう必要があるので、それだけ注意してくださいね」
「わかりました。どうにか頑張ってみます……」
討伐部位は、オークの耳、コボルトの爪、ウルフの牙だ。
(えぐい……ルークやってくれるかな……)
そんなことを考えながら、太一はもふもふカフェへ帰った。
感想ありがとうございます!
購入報告やうさぎに肉球がないなど、驚きやありがたさに涙です…!(嬉)
ありがとうございます!!
久しぶりのテイマーギルドでした。




