2 幸せの重み
もふもふカフェの営業時間は、一一時~一七時。
太一もテイミングした従魔たちも、無理はしないスタイルだ。ただ、ルークのお散歩と称した狩りに付き合わされると一気に疲れてしまうけれど。
太一が店を開けると、すでに何人かのお客さんが並んでいた。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは! 楽しみにしてたんです」
「サクラちゃん元気ですか?」
「私は今日こそルーク君を撫でたい……!」
最近は、もふもふの魅力に気づいてくれた人が増えてきた。太一が異世界に来た当初は、魔物を愛でる? といった具合に、あまり理解されなかったのだ。
しかし、百聞は一見に如かず。
実際もふもふカフェに来た人たちは、もふもふの可愛さにメロメロだ。
開店前から並んでくれていた人たちは、何度か来てくれているお客さんだ。それぞれお気に入りの子たちがいて、会うのを楽しみにしてくれている。
(ルークを撫でるっていうのはハードルが高すぎるかもしれないけど……)
太一と接しているとわからないが、ルークは人に触れられることをあまりよしとしない。とはいえ、希望を持つなとは言わない。
(いつかはルークも落ち着いて、撫でられるのが好きになるかもしれないし)
まあ、現状それはとても低い可能性に思えるけれど。
「おはようございます、いらっしゃいませ! ご注文伺います~!」
もふもふカフェの店内から、元気な女の子の声が響いた。
アルバイトとして、もふもふカフェで働いてくれているヒメリ。
ピンクの淡く可愛い色合いの髪を、低い位置で赤色のリボンでお団子に。黄色の瞳はパッチリしている。
水色のワンピースに、白色のローブ。その上に、もふもふカフェのエプロンをつけている。
太一には魔法使いの冒険者――と伝えているけれど、その正体は実は冒険者ギルドのギルドマスターだ。
ただ、自分から好んでこの地位にいるわけではない。強い冒険者が上に立っていた方が何かと都合がいいので、どちらかというと頼まれて仕方なしに就いている。
「実は、今日からコーヒーが新しくなったんですよ! 前より美味しくなったので、おすすめです」
「え、そうなんですか?」
並んでいたのは、三人の女性客だ。
いつものように紅茶を頼もうとしていたらしいが、ヒメリの言葉で悩む素振りを見せた。
「どうしよう?」
「うーん、でも……苦いのってあんまり得意じゃないんだよね」
どうやら、女性たちはコーヒーよりも紅茶派のようだ。
しかしヒメリは、「チッチッチ!」と指を振る。
「コーヒーはコーヒーですけど、新しい種類の『カフェラテ』っていうのが苦みも少なくておすすめです!」
「「「カフェラテ?」」」
「ミルクを使っているから、クリーミーでまろやかなの。私のおすすめ!」
実は、もふもふカフェのドリンクメニューがちょっとだけ変わった。なぜかって? それは、太一がコーヒーメーカーを導入したからだ。
当初は粉のインスタントだったが、この世界にも慣れ、余裕がでてきたのが理由。美味しいコーヒーを飲んで、ゆっくりしてもらいたい。
(とはいえ、本格的な業務用ではないけど……)
いわゆる、一般家庭用の小さいものだ。
コーヒーメーカーでは、コーヒーとカフェラテのホットとアイスを作ることができる。
太一は朝食後にコーヒーを飲むのがお気に入り。
もふもふカフェメニュー
・食事
ミートソースパスタセット 一〇〇〇チェル
・飲み物 七〇〇チェル
お茶 HOT/ICE
コーヒー HOT/ICE
カフェラテ HOT/ICE
紅茶 HOT/ICE
・お菓子 三〇〇チェル
クッキー
チョコレート
・おやつ(魔物用) 三〇〇チェル
うさぎクッキー
本当にちょっとずつではあるが、充実してきている。次は、おやつの種類を増やすのもいいかなと考えている。
いろいろな食材を購入して、スキルを使っておやつを作ってみたい。
太一がヒメリとお客さんたちのやり取りを見ていると、注文はカフェラテに決まったようだ。
「はーい! カフェラテとうさぎクッキー、それぞれ三つずつですね。できあがったらカウンターから呼ぶので、ゆっくりしていてください」
「「「はーい」」」
ヒメリが飲み物の用意のため厨房に行くと、常連の商人もやってきた。
白と黒のブチのベリーラビットのモナカと、丸みをおびた葉が足首から生えているフォレストキャットのユーカリがお気に入り。
元々はモナカがお気に入りだったのだが、モナカと仲良くなったユーカリのことも自然と大好きになったのだ。
「こんにちは! あああっ、今日もモナカちゃんとユーカリちゃんは仲良しですね。見てるだけで癒されます……」
そう言った商人は、手を胸の前で組んで感動している。
何度も来てくれているのに、毎回すごく喜んでもらえるため、太一も嬉しい。
「二匹とも今日も元気いっぱいですよ」
「そのようですね。私はお茶――じゃなくてコーヒーとパスタセット、うさぎクッキーをお願いします。いやぁ、ここのコーヒーは美味しすぎてくせになりますね」
「ありがとうございます」
商人はいつも、お茶とパスタセットを注文してくれていた。けれど、リニューアルしたコーヒーを飲んだところ、大好きになってしまったのだ。
(恐るべし、コーヒーメーカー!!)
「できたらお持ちしますので、店内でゆっくりしていてください」
「はい! さて、今日はどのおもちゃで遊びまちゅか~?」
太一が商人を促すと、すぐに頬を緩めてモナカの下へ向かっていった。手には数種類のおもちゃを持っているので、遊び倒す気満々だ。
「あはは、ごゆっくり」
注文の品を作るために厨房へ行くと、ヒメリがコーヒーメーカーをキラキラした目で見つめていた。
その肩には、いつのまにかウメが乗っている。
(なにそれ俺の肩にも乗ってほしいんですけど!!)
でも、気軽に俺の肩にも乗らない? と言っていいのだろうかと、太一は悩む。ウメは女の子だし、ルビーの番だ。
(言ったら最後、これはセクハラ……か?)
もし愛想をつかされて出て行ってしまったら……そう考えると背筋が凍る。太一がヒメリになんとも言えない表情を向けていると、『注文ですか?』と、ルビーが太一の肩に乗ってきた。
「ルビー!!」
神か。
ほどよい重さが肩にあり、幸せに包まれる。太一はにやける表情を押さえられずに、「そうだよ」と頷く。
『あの不思議な道具で淹れる飲み物?』
「そうそう。あれ使うと、みんな興味津々だよな。ヒメリもくぎ付けだし」
太一が笑いながら言うと、ヒメリがこちらを見て頬をふくらめた。
「仕方ないじゃない! この道具、謎だらけで気になっちゃうんだもん。いったいどうなってるの……?」
なぜこんなに美味しい飲み物が出てくるのかと、ヒメリはじーっと見つめている。その様子は、とても微笑ましい。
コーヒーメーカーの台にコップをセットしてボタンを押すと、ブシュウウゥゥと音を立ててコーヒーが出てくる。
その光景が、どうにも気になってしかたがないようだ。
太一はそれを横目で見つつ、パスタセットを用意する。
レトルトのミートソース、新鮮なサラダ。かなりお手軽ではあるのだが、これがまた美味しくて……会社員時代はとてもお世話になった思い出の味だ。
(俺が手作りするより間違いないだろうしな)
苦笑しつつ、料理とコーヒーを用意する。
ヒメリも女性客の分を用意し終わったので、一緒に店内へと戻る。見ると、みんな楽しそうに遊んでいる。
ただ、店内の片隅――ルークににじり寄ってるお客さんの姿には少し笑ってしまったけれど。残念ながら、撫でられる距離へ近づく前にルークが離れてしまった。
太一は心の中でファイトと応援しつつ、もしやルーク専用のおやつを作ればいいのでは? と、閃いた。
うおぉぉ、嬉しい感想ありがとうございます。
更新再開待っていただけていて、とても嬉しいです。
誤字脱字多すぎてごめんなさいこの病は治りません……。誤字脱字報告に感謝しながら更新しています……。
感想は個別にお返事できず申し訳ないです。
ちゃんと読ませていただいております!




