1 もふもふカフェの朝のひととき
更新再開。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
穏やかな気持ちいい風が太一の頬を撫で、今日も楽しい一日が始まることを告げる。
「いい天気だなぁ~」
ぐぐっと伸びをして、大きく深呼吸。体の中に入ってくる新鮮な空気に満足して、後ろを振り返る。
そこにあるのは、『もふもふカフェ』兼太一の住居だ。
中ではテイミングした仲間のもふもふたちがのんびり過ごしている。
自動車に轢かれそうになっていた猫の神様を助け、異世界へとやってきた有馬太一。
黒目黒髪の典型的な日本人顔の、元サラリーマンだ。
会社のために身を粉にして働いており、唯一の癒しは猫カフェに行くことだった。そんな疲れ果てた人生だったが、今は毎日が新鮮で、楽しい。
猫の神様からは、『もふもふに愛されし者』という固有ジョブを授けてもらった。そのおかげで、もふもふたちから愛されまくっている。
さらには、猫の神様が便利なスキルをレベル無制限でいくつも与えてくれた。
太一のカフェは、テイマーギルドから借りている。
場所は、『シュルクク王国』にある『レリームの街』の郊外。のどかな場所でとても気に入っているのだが、ちょっとだけ手狭になってきた。
その理由は――もふもふたちが増えすぎてしまったからだ。仕方ない、仕方なかったのだ。可愛い子がいたら、テイミングしてお持ち帰りしたくなってしまうのだから。
そこで、太一はこの物件を買い取ることに決めたのだ。さらに周りの土地も買い取って、増築したいと思っている。
(ルークのおかげで、買えちゃうだけのお金があるんだよな……)
はははと乾いた笑いを浮かべながらカフェを見ていると、ルークが器用にドアを開けて外へ出てきた。
『タイチ、早く朝飯にしてくれ!』
どうやらご飯の催促にきたようだ。
尻尾をぶんぶん揺らし、早く早くとアピールしてくる。ルークは太一が作るご飯が大好きで、いつも楽しみにしているのだ。
まあ、ツンツンツンツンデレな性格なので、素直に甘えるようなことはほとんどないけれど。
お腹を空かせて出てきたのは、相棒のルーク。
白金色の美しく力強い毛並みと、威圧のある瞳。その正体は、誰もがもう存在しないと思っている伝説級の魔物――フェンリルだ。
ツンツンツンツンデレだが、太一のことが大好き。その次に好きなのは、ドラゴンの肉とビーズクッション。
「ごめんごめん、すぐに準備するよ」
『んむ!』
太一が店内に入ると、わっともふもふたちが駆け寄ってきた。太一が大好きなことと、ほかのみんなもご飯がほしいのだろう。
足に頭をすりつけてくる。
もふもふカフェにいる魔物は、全部で五種類。
フェンリル、ベリーラビット一〇匹、ケルベロス、フォレストキャット一〇匹、鉱石ハリネズミの総勢二三匹だ。
(あ、でもケルベロスは首が三つでそれぞれ意思があるから三匹?)
なんとも判断に困るところだ。
「っと、ご飯だったな。用意するから、もうちょっと待っててくれ」
『手伝うわ』
「おお、助かる」
太一が厨房へ行くと、ウメがついてきた。
引き出しを器用に開けて、ご飯のお皿を口でくわえて取り出してくれる。
「ありがとう」
陶器の重いお皿を軽々くわえてきたのは、フォレストキャットのウメ。
左耳と、首回りにネックレスのように可愛らしい花が咲いている猫型の魔物だ。フォレストキャット一〇匹をまとめるボスで、ウメだけ喋ることができる。
鉱石ハリネズミのルビーとは恋人同士になり、仲良く過ごしているので見ていてとても微笑ましい。
太一は棚から三種類のカリカリを取り出して、量りながらお皿に盛っていく。
「ウメはこのカリカリで、サクラがこっちのカリカリで……」
『あ、あちしはこっちよ!』
「そうだった! ごめんごめん」
うっかり間違えてしまい、太一は急いで移し替える。
ウメに手伝ってもらいながら、フォレストキャットたち全員分のカリカリが用意できた。
(猫は好き嫌いが多いみたいに聞いたことがあったけど、本当だったんだなぁ)
最初はカリカリを食べてくれていたのだが、慣れもあってかあまり食べない子たちが出てきたのだ。
どうしたものかとウメに相談したところ、あまり好きな味ではなかったということが判明した。ウメは言い聞かせて食べさせると言ってくれたのだが、それは太一が首を振った。
(好きなものを美味しく食べてほしいからな)
気に入らないご飯を無理やり食べさせるつもりはない。カリカリの種類はたくさんあるので、美味しく食べれるのを見つければいいだけだ。
(まあ、見つけるまでが結構大変だったけどな……)
ウメに協力してもらって、それぞれの好みをなんとなく把握していき……あとは食べてもらって様子をみた。
フォレストキャット全員と喋ることができたらいいのだが、知能的に群れのボス以外は会話ができないのだ。
(人間でいうところの、二歳前後っていうところかな?)
「さてと、次はルークたちのご飯だな」
ルークのご飯は、言わずもがなの肉だ。ケルベロスは果物が好きで、ベリーラビットはニンジンや苺が好き。鉱石ハリネズミは好き嫌いがなく、なんでも美味しく食べてくれる。
すると、ルークが様子を見にやってきた。
『タイチ、ドラゴンの肉が食べたいぞ!』
「こないだ食べた分で最後だったから、もうないよ」
『なんだと!?』
ガガーン! と、ルークがショックを受けた顔になる。大好物を食べたくてリクエストしたのに、なかったのだからその絶望は計り知れないだろう。
『また狩りにいくか……』
「待ってドラゴンをそう簡単に狩りにいかないでくれ」
普通の人がドラゴンと遭遇したら、死を覚悟する。しかしルークは強すぎるため、いとも簡単に倒してしまうのだ。
(ちょっとご飯を買ってくる……狩ってくるか? って、スケールがでかすぎる)
ただ問題は――それに、太一も同行しなければいけないということだ。
ルークが一匹で行っても、ドラゴンを持って帰ってくることができない。いや、厳密にいえば口でくわえてもって帰ってくることは可能だ。
(そんなことしたら、街中で大騒ぎだ)
太一は平和に過ごしたいので、そういったことはご遠慮したい。
けれど太一が一緒に行けば、猫の神様からもらった魔法の鞄にドラゴンの死体を入れて帰ってこられるので楽なのだ。
太一はやれやれと肩をすくめながら、ルークを見る。
「昼間だと目立つから、夜にな」
『仕方ない、そこまで言うなら夜まで待ってやろう!』
――なんて口では言っているルークだが、尻尾はちぎれそうになるほどぶんぶん振っている。
(嬉しいんだな……このツンデレさんめ)
その姿を見ただけで、可愛いので許せてしまえる。
太一はその愛らしさにによによしながら、全員分のご飯を用意し終える。
「みんな、ご飯だぞ~!」
すると、わっと全員集まってきた。
『わーい、ご飯だ~!』
『そろそろお腹が空いてきたところだった』
『早く食べよう~』
一目散にやってきたのは、ケルベロスのピノ、クロロ、ノールだ。
真っ黒で艶やかな毛並で、ルークとはまた違う美しさが垣間見える。本来は体長三メートルほどの大きさなのだが、今は三〇センチくらいになってもらっている。
『ウメ、自分も手伝います』
『ありがとう。じゃあ、これをお願いするわ』
『はいっ!』
次にやってきたのは、鉱石ハリネズミのルビー。
背中の針の部分が、鉱石や宝石でできている、珍しい魔物だ。まじっている赤色がルビーのように美しく、名前もそこからつけている。
番を捜して世界を旅していたらしいのだが、うっかりお腹が空きすぎてもふもふカフェの前で行き倒れてしまっていたところを太一が保護した。
その後、ウメに告白し、無事に番になることができたのだ。
ウメとルビーがみんなにご飯を配ってくれたので、食事は快適に行われた。
ベリーラビットも美味しそうに苺を食べて、フォレストキャットたちもそれぞれカリカリを食べている。
(よしよし、今日もみんな元気だ)
健康面などを軽くチェックし、太一は自分のご飯の準備をして朝を過ごした。
なんだか今回はもふもふの紹介みたいになってしまいました。(笑)
いっぱいいると幸せですね。
うちも猫が一匹増えて二匹になったのですが、まだ仲良くなるには時間がかかりそうです……;w;
書籍版は下記のタイトルで2巻まで発売中です。
『異世界もふもふカフェ1 ~テイマー、もふもふフェンリルと出会う~』
『異世界もふもふカフェ2 ~テイマー、もふもふ猫を求めて隣国へ~』
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