26 にぎやかなもふもふカフェ
本日はもふもふカフェの定休日。
太一は店内のソファにだらりと横になって、とあることを考えていた。
「もふもふの数に対して、店内せますぎじゃないか?」
『なんだ、今頃その事実に気づいたのか?』
「ルーク!」
ぽそりとつぶやくと、当たり前のことを言うんじゃないとルークから突っ込みが入る。
『だから言っただろう、ここでは狭すぎると』
「いやー、まさかこんな大所帯になるとは思ってなかったからさ」
この物件を借りた際に、ルークから『高貴なオレが住むには狭い』と言われたことを思い出す。
あのときは冗談だと受け流していたが……まさか本当に狭いと感じる日がくるなんて。
最近はもふもふカフェにもお客さんが増えてきて、売り上げも順調にのびている。まだ満席になるほどではないが、その日は近いかもしれない。
そうなると、やはり現実的なのは……カフェを広くすること。
(新しい物件を探してみる?)
しかし、探したとしていい物件があるだろうか? という疑問もある。
「……悩んでても仕方がないし、とりあえずシャルティさんに確認してみるか」
『なんだ、でかけるのか?』
「テイマーギルドに物件のことを聞いてみようと思ってさ。ルークも行くか?」
街中なので、面倒ならばこのままカフェで留守番をしていても構わない。そう伝えるも、ルークはビーズクッションから立ち上がった。
どうやら一緒にきてくれるらしい。
『お前一人だと不安だからな、ついてってやる』
「お母さんか!」
ルークの言葉に思わずツッコむも、ついてきてくれるというのは嬉しいものだ。
ケルベロスたちに留守を任せ、太一とルークはテイマーギルドに向かった。
***
テイマーギルドに行くと、今日も一人として客がいなかった。
アーゼルン王国はもう少し賑やかだったので、レリームにもテイマーが増えてくれたらいいなと太一は思う。
そしてもふもふカフェが増えればいい。
「あ、タイチさん! いらっしゃい」
「こんにちは」
カウンターで事務作業をしていたシャルティが、手を振ってこちらにやってきた。
「今日は……いないみたいですね」
警戒した様子で告げるシャルティに、太一は笑う。
「さすがに、そう頻繁に従魔を増やしたりはしないですよ」
「そうですか? まあ、面倒を見る分には問題ないですからね。でも、そうなると……どういったご用件です?」
シャルティは図鑑を手に取って、『もしや新しいもふもふを?』とも言っている。
「実は大所帯になりすぎてしまったので、もう少し広い物件がいいなーと思って相談にきたんですよ」
「ああ、なるほど~」
太一の理由を聞くと、シャルティが確かに二三匹は多すぎると笑う。
「でも、残念ながらいい感じの物件がないんですよね。街の中はそこまで広い物件はないですし……いっそのこと、買い取って増築します?」
「増築?」
考えていなかった案に、太一は目を瞬かせる。
今の物件は郊外にあって、すぐ隣に別の建物があるわけではない。周辺の土地が売っているのであれば、買い取ってしまうというのも一つの手だろう。
(資金は……ルークが倒した魔物を売れば大丈夫な気がする)
考えると、シャルティの意見が一番いいような気がしてきた。
「ちなみに、周辺の土地は買えますか?」
「どれだけ大きくしたいんですか、太一さん」
シャルティは笑いながらも、書類を持ってきてくれた。
見ると、太一が借りている物件と周囲の土地の管理に関して記載されている。どうやら、土地はテイマーギルドが所有しているようだ。
見ると、物件の買い取り額は二〇〇〇万チェル。そこに周囲の土地が加わると、さらに三〇〇万チェルが必要になってくる。
(……買える)
ほぼルークのおかげだけれど。
太一は隣でつまらなさそうにしているルークを見て、わしゃわしゃと首回りを撫でる。
『なんだ、いきなり!』
「ルークのおかげで今のカフェを買うことができるなーって思ってさ。魔物の素材を売ったお金で買えそうだ」
『せっかくだから、倍以上の大きさにしろよ!』
「さすがにそれはちょっと……」
掃除も大変になってしまうし、必要性はあまり感じない。
しかし――よく考えてみた方がいいかもしれないとは太一も思う。
この短期間で従魔がすでに二三匹もいるのだ。今後増えないという保証があるだろうか? むしろ、増えるという保証しかないような気がする。
太一は肩を落とし、ルークに「善処するよ」と告げる。
裏庭は改造したばかりだし、現状はこのままでいいだろう。
カフェの横に塔みたいなものを設置して、まるごと巨大なキャットタワーにするというのも楽しいかもしれない。
それかいっそ、二階建てを三階建てにしてしまうのもありかもしれない。
(ん~、夢が膨らむなぁ)
考えただけで、楽しくて楽しくて仕方がない。
(あ、地下室っていうのもありかもしれない!)
この前のごろつきの件もあるので、もふもふたちが避難できるスペースなども確保しておきたいところだ。
太一がわくわくしていると、シャルティが眉を下げて申し訳なさそうな顔を作った。
「……? どうしました、シャルティさん」
「問題が一つあります」
「ん?」
お金はあるし、場所も条件も太一としては問題ない。
いったい何が問題なのだろうと、首をかしげる。
「タイチさんすごいから、うっかり頭から失念しちゃってましたよ……」
「え? いったいどういうことです?」
「物件の購入には、ギルドランクD以上が条件なんです」
「――あ」
そういえば最初に賃貸契約を交わした際に、そんな説明があったことを思い出す。
当時は、別に賃貸で問題なかったのでさらりと流していたが……これは由々しき事態だ。
太一のテイマーランクは『F』だ。
これをDランクにするには、階級を二つ上げる必要がある。
(え、階級ってそんなに簡単に上がるもんか?)
やはり別の賃貸物件を借りた方がいいかもしれないと、太一は思う。テイマーランクFの自分が家を買おうなんて、おこがましいことだったんだ。
太一がそう思っていたら、シャルティがカウンターの上にばさっと書類を置いた。
「サポートしますので、頑張ってランクを上げましょう!」
「え、上げるの!?」
「当然ですよ! いい機会なので、ちゃちゃっと上げちゃってください。ルークがいれば、大抵の討伐依頼系は片付くと思いますから」
どうやらもふもふカフェの増築は、もう少し時間がかかりそうです。
これにて2章部分は終了です~!
お付き合いいただきありがとうございました。
ハリネズミはもふもふか?
という微妙なラインは、感想でOKが多かったのでそうだOKだと思いながら書きました。(笑)鉱石にしちゃったけど、気持ちはもふもふです!(気持ちとは)
書籍版ともども応援していただけると嬉しいです~!




