21 もふもふたちの会話
深夜、太一が寝静まったころ――もふもふたちは、店内に集結していた。
しばらく一緒に暮らすであろう、鉱石ハリネズミのことが気になったからだ。
ルークは鉱石ハリネズミをじろじろ見て、確かに最近はあまり見かけることはなかったことを思い出す。
ずっと前は、そこそこ数がいたはずなのに。
『自分みたいなのが突然お邪魔しちゃって、すみません』
『えー、気にしなくていいよ!』
『ここは安全だよ』
『みんなで一緒にいた方が、楽しいよ』
鉱石ハリネズミの申し訳なさそうな言葉に、ケルベロスがぶんぶん首を振って反論する。
『でも、ほかに仲間がいないって大変だね。ボクもそうなんだよ』
『『そうそう』』
『ケルベロスは……鉱石ハリネズミと比べたらずっとずっと希少じゃないですか』
こんな強い魔物がうじゃうじゃいたら、世界は終わってしまうのでは……と、鉱石ハリネズミは思わず考えてしまった。
『ええと、みなさんはタイチさんとの付き合いは長いんですか?』
『『『…………』』』
鉱石ハリネズミの質問に、全員が黙る。
太一と一緒にいて充実した毎日を過ごしてはいるが、長いかと問われたらそんなことはない。
フォレストキャットにいたっては、アーゼルン王国からの帰り道を含めても一〇日と少ししか経っていない。
『ええと、聞かない方がよかったですかね?』
おそるおそる問いかける鉱石ハリネズミに、ルークが『別に』と答える。
『なんというか、タイチは特殊なんだ』
『特殊、ですか』
『従魔がこれだけいる時点で、普通のテイマーでないことくらいわかるだろう』
『――!』
ルークの言葉に、鉱石ハリネズミは確かにそうかもしれないと考える。
今までテイマーを見たことはあるが、そのほとんどが数匹、多かったとしても一〇匹は越えない程度の従魔しか連れていなかった。
『ここにいる魔物は……いち、に、さん、よん……全部で、二二匹ですか?』
『そうだ。……事情があってな、タイチがここに来たのはつい最近だ』
『なるほど、そうだったんですか。遠くの、テイマーが盛んな国からきたとかですかね?』
鉱石ハリネズミが首をかしげると、ルークは適当に頷く。
『そんなところだ』
もふもふカフェのメンバーのなかで、太一が日本からこの世界にやってきたことを知っているのはルークだけだ。
とはいえ、日本がどんなところだったのかなど、詳しいことは知らない。
わかっているのは、太一が助けた猫の神様からとんでもない力を授かった――けれど弱い人間ということだけだ。
ルークは太一と出会ったときのことを思い出して、わずかに頬を緩める。
『オレは孤高のフェンリルだったが、タイチはどうにも弱くて危なっかしい。だから一緒にいてやってるんだ』
『気高きフェンリルにそこまで思わせるなんて、タイチさんはすごいんですね!』
『タイチにはオレがいないと駄目だからな!』
鉱石ハリネズミに褒められ、ルークは気分があがる。
その様子を見たケルベロスが、声を合わせて『『『またまた~!』』』と茶々を入れてきた。
『もー、タイチのこと大好きなくせに』
『ルークって素直じゃないよね』
『素直に一緒にいたいって言お?』
『違う、心配だから一緒にいてやってるだけだ!』
『『『心配なら大好きだ』』』
『…………』
墓穴を掘ったようなルークの言葉に、ケルベロスたちがにやにやする。
ルークはツンツンツンツンツンデレくらいなので、自分の気持ちを素直に言うことはほとんどない。
しかしツンとした言葉の中には、こうして優しさが詰まっているのだ。
ケルベロスに図星を突かれてしまったルークは、シュッシュッと犬パンチを繰り出す――が、避けられてしまい当たらない。
『こら、避けるんじゃない!』
『むりー!』
『暴力反対!』
『素直になりなよ~』
ルークとケルベロスの攻防を見て、あわわわわと焦る。
フェンリルとケルベロスが本気で戦ったら、この店は一瞬で倒壊してしまう! ――と。
『落ち着いてください! そ、そうだ! ケルベロスさんは、タイチさんが大好きですよね。どんな出会いだったんですか!?』
『『『ボク!?』』』
鉱石ハリネズミの言葉に、ケルベロスがぱっと表情を輝かせる。話をしたくてたまらない、そんな顔だ。
そしてすぐに、ルークとの犬パンチ対決をやめて太一との思い出を語りだした。
そう、あれはどこへ行っても人間たちから狩りの対象にされてしまっていたときのこと。
ケルベロスが隠れていたところに……太一とルークがやってきて、温かく迎え入れてくれたのだ。
『へえ、いい話ですね』
『いつも怖い思いばっかりしてたから……』
『人間から逃げてたんだよね。変に反撃したらもっと人間が来るし……』
『タイチと一緒にいるの、あったかくて好き』
鉱石ハリネズミとケルベロスの話を聞いて、ルークが『ちょっと待て!』とストップをかける。
『オレと戦って負けたという話が飛んでいるではないか!!』
『えー』
『今戦ったら次はどうかわからないよ!』
『仲良くしようよ~』
ルークは自分が戦闘に勝利したことをないがしろにするんじゃないと吠える。
また犬パンチ対決がはじまったら大変だと、今度はウメが口を開いた。
『あちしたちは、住処とご飯を提供してもらっているのさ。きっかけは、ジャイアントクロウを倒してもらったことかね……』
『倒したのはオレだぞ!』
すかさずルークがウメの説明に補足を入れる。
自分の活躍を忘れられてはたまらないのだろう。
そんなやりとりを見て、鉱石ハリネズミは笑う。
『みなさん、タイチさんと素敵な思い出がたくさんあるんですねぇ!』
鉱石ハリネズミは、もふもふカフェの温かさに……心の隙間が埋まっていくような気がした。




