18 もふもふカフェの裏庭
テイマーギルドで登録を終えた太一は、ひとまず店のことをヒメリに頼んでケルベロスと裏庭へやってきた。
もふもふが増え、店内のスペースだけでは遊ぶ際に少し手狭になってしまったからだ。
『わー、お庭の大改造?』
『お花畑とかどう?』
『ちょうちょくるかな?』
「そんなに改造はしないぞ……? 蝶々は、春になったらくる……かな?」
ケルベロスの要望を聞き入れていたら、裏庭がとんでもないことになってしまいそうだと太一は苦笑する。
あまりハデにして変な注目を浴びたくはないので、普通に……普通に……。
「まずは、裏庭をぐるっと囲む柵だな。【創造(物理)】」
太一がスキルを使うと、肉球の模様がデザインされた白い柵が裏庭をくるりと囲む。さらに、裏庭へ入る入り口にはカフェのロゴマークを入れる。
『おぉ~!』
『いい感じ!』
『早く春がこないかな~♪』
ケルベロスは庭を駆け回って、楽しそうにしている。
もっと喜んでもらえるように気合を入れないとと、太一は次に作るものを考える。
とはいえ、ドッグランは犬たちが駆け回って遊ぶので物はおかない。外用のボールと、片づけられる小さな物置があれば十分だ。
「まずは物置【創造(物理)】してっと」
すると、赤い屋根の物置が出来上がった。
オフホワイトに白い壁には肉球のデザインが入っていて、形も犬小屋をイメージして作ってある。
大きめの犬小屋といったところだろうか。
(……あれ? でもこれって、ルークが元の大きさになったらちょうどよかったり……?)
伝説の魔物フェンリルが犬小屋でくつろぐ姿をうっかり想像してしまって、噴き出しそうになる。
番犬ならぬ、番フェンリルだ。
(めっちゃ強そう!)
しかしこんなことを言ったら怒られるのは目に見えているので、そっと太一の中だけにとどめておく。
『可愛いお家だ~!』
『でも、家にしては狭いよ?』
『みんなで入ればくっつけるから楽しいよ』
出来上がった犬小屋物置の前を、ケルベロスがうろちょろして感想を述べる。どうやら生活空間だと思い込んでいるらしい。
(そんなところがめっちゃ可愛いぞ……!!)
「これは物置で、外で使うボールとかをしまっておくんだ」
『『『あ、なるほど~!』』』
勘違いだったと気づき、ケルベロスは『あはは』と笑う。
『なら、遊んだ後はここでお片付けだね!』
「そうだな。それと、隣に足を洗う場所を設置しておきたいな。【創造(物理)】」
スキルを使うと、犬小屋物置の隣に足洗い場が出来上がった。
淡い色合いレンガで作られており、蛇口がついている。捻るとすぐに水が出てくるという、便利な仕上がりになっている。
「……あ、水道だと駄目だ」
自分と従魔、アルバイトをしてくれているヒメリならばいいが……ほかの人に日本の水道を見られるわけにはいかない。
この世界は井戸を使っているので、こんな設備があると知られてしまったら……考えただけでも恐ろしい。
もう一度【創造(物理)】スキルを使い、井戸から水を汲み上げて足を洗うように改造しておく。
「これで問題ないだろう」
ふうと一息つくと、ケルベロスが『お疲れさま~!』と労ってくれる。
『完成?』
『いい感じ!』
『ボール遊びだ!』
「そうだったな。外用のボールも【創造(物理)】」
もう一度スキルを使うと、太一の手の中にボールが現れた。
一つではなく、カラフルなものを複数。しまう箱も用意して、投げて遊ぶ用の三つ以外はしまっておく。
「よーし、行くぞ!」
『『『わーい』』』
太一がボールを三つ、リズミカルにポン、ポン、ポンと山なりに投げる。
ケルベロスは急いで走って行って、ジャンプしてそのボールをぱくりと口でナイスキャッチ! そして着地と同時に大地を蹴って、再び宙へ。
二投目、三投目も口でくわえてキャッチしてみせた。
「おお、すごいぞ~!」
『えへへ、ほめてほめ――あ』
『これくらい簡単にで――あ』
『上手にできたでしょ――あ』
太一に褒められたのが嬉しかったケルベロスは、それぞれ返事をしたのだが――喋ろうと口を開いてくわえていたボールを落としてしまった。
『『『…………』』』
耳をぺたりと折って、ケルベロスがしょんぼりする。どうやら、太一に直接ボールを渡したかったようだ。
しかし不謹慎ながら、太一はその様子が可愛くて可愛くて仕方がない。
「大丈夫、まだまだ投げるから!」
『やったあぁあ』
『約束!』
『もっと遊んで~!』
落ち込んだケルベロスはぱっと表情を明るくして、太一に『早く』とボール投げをせかす。
「ボールも俺も逃げないから、大丈夫! ――それっ!」
太一はかけ声とともに、先ほどと同じようにボールを山なりに投げる。
気合の入っているケルベロスは、ボールが投げられた瞬間に地を蹴った。太一の期待にこたえるかのように、早く、早く――。
ちょうどボールが山なりになって、落ちる直前。ケルベロスは、ぱくりとボールを見事に口でキャッチした。
先ほどより早いタイミングだというのに、とても上手だ。
「すごいなぁ、ケルベロスは。えらいぞ~!」
『えへへぇ~』
『ボクたちはお留守番だってしたんだから、このくらいは当然!』
『上手くできてよかった』
「みんな偉い偉い」
太一はケルベロスをわしゃわしゃなでて、これでもかと褒めちぎる。
そして再びボールを手にして、同じように投げようとして――それじゃあ芸がないと、今度は三つ同時に投げてみた。
『『『――!?』』』
ケルベロスもタイミングが違うということに気づいたようだが、すでに走りだした後。
さて、どうするのかお手並み拝見――と思ったのも束の間。
先ほどよりも高くジャンプしたケルベロスは、一つ目のボールをくわえ、そのまま空中で体を捻って二つ目、三つ目のボールもキャッチしてしまった。
「うわ、すごい……」
さすがにこんな芸当を見せられたら、称賛するしかない。
うちの子はやっぱり最高だ! そう思いながら、もうしばらく太一とケルベロスはボール遊びを楽しんだ。




