17 またこんなにたくさん!?
もふもふカフェは、レリームの街の郊外にある。
周囲には農場やほかの建物がぽつぽつあるだけで、かなり落ち着いた環境だ。その分、街へ行くのは少し歩くけれど。
門のところまで行くと、太一を見つけた門番が手を上げた。
「お、テイマーじゃないか! 久しぶり……って、なんだその魔物は!!」
「こんにちは。フォレストキャットって言う魔物で――」
「そんなことは知ってる、数の話をしてるんだ!!」
「え」
太一の後ろには、ウメを先頭にしてフォレストキャットが一〇匹。綺麗に二列に並んでついてきてくれている。
(大人しくておりこうさんだ)
その光景を見ただけで、ちょっと……いやかなり、頬が緩んでしまう。
「まったく、本当に規格外だな……。しばらく見かけなかったが、フォレストキャットをテイムしにアーゼルン王国まで行ってたのか?」
「そうです。この国はフォレストキャットがいないって聞いたので、ルークと一緒に」
「ウルフキングとか。なら、道中も安全だろうな」
(魔物に遭遇しても、ルークが一瞬で倒しちゃうもんな)
その点に関しては、かなり安全な旅だった。
「とっても。ルークは頼りになる相棒ですからね」
「違いないな。っと、身分証を確認するぞ」
「はい」
太一は身分証のテイマーカードを取り出して、兵士に見せる。
街に入るときは、見張りの兵士に身分証の提示がいる。
「確かに確認した。通っていいぞ」
「ありがとうございます」
これ以上の立ち話は迷惑になるので、太一は街へ入った。
街は以前と同じ賑わいを見せており、帰ってきたんだという実感がわいてくる。
行きかう人からの視線が多い気がするのは、きっとフォレストキャットを連れているからだろう。
(もしかして、街の人はすでにフォレストキャットにメロメロになってたり?)
愛くるしいこの外見だから、それも不思議ではない。
とはいえ実際は、たくさんの魔物を連れている人がそうそういないため珍しかっただけだ。
「んじゃ、街に入ったからテイマーギルドに行って登録しよう。人が多いから、迷子にならないように気をつけてな?」
『ええ。ほかの子も、あちしが見てるから大丈夫よ』
「それは頼もしいな」
フォレストキャットは数が多いけれど、ウメが群れのボスとしての役割を十分に果たしてくれているので、それほど手はかからない。
しかもみんな遊ぶのが大好きの、素直ないい子と来ている。
街の中を歩いている今も、ちゃんと整列を崩さずについてきてくれる。
(本当に偉いなぁ……)
テイミングした魔物だからだが、普通の猫だったらこうはいかない。
自分の後ろをちょこちょこついてくるフォレストキャットを見ていたら、あっという間にテイマーギルドへと到着した。
テイマーギルドのドアを開けると、「こんにちは」と中から声が聞こえてくる。
「こんにちは、シャルティさん。ちょっと待ってくださいね~」
「ん? ん、ん、んんんっ⁉」
太一は開けたドアを押さえて、フォレストキャット一〇匹を中へと入れる。それを見た受付嬢のシャルティが、大きく目を開けて驚いている。
「またそんなに大量の従魔を……⁉ 嘘でしょ、タイチさんのテイミングレベルっていったいいくつなの? でも、スキルのことを聞くのはよくないし……」
とんだ規格外だと、息をつく。
太一には驚かされてばかり、テイマーギルドの受付嬢シャルティ。
肩下まである水色の外はねの髪は、カラフルなピンで留めている。ピンクの瞳と八重歯の可愛い、一〇代後半の女の子。
もふもふカフェの店舗を探してくれたりと、太一がとてもお世話になっている人物だ。
そして、もふもふの魅力に取りつかれた一人でもある。
「まあ、図鑑でフォレストキャットを見たときのタイチさんは食いつき具合がすごかったですからね。……それでも、テイムしてくるのは数匹かと思ったんですが……私の考えが浅かったみたいです」
頭を抱えるシャルティに、太一は乾いた笑いを返すしかできない。
「ベリーラビット一〇匹という前科がありますけど、まさかもう一度やられるなんて……。まあ、とりあえず登録しちゃいますね」
「あはは……お願いします」
シャルティは手際よく登録をして、「いい子ですね」とフォレストキャットを撫でる。
「カフェにいけば、この子たちとも触れ合えるんですよね?」
「そうです。専用のおもちゃも用意したんで、ぜひ遊びにきてください」
「魔物用のおもちゃ、ですか……。相変わらず、タイチさんは私たちの斜め上をいってくれますね」
何人ものテイマーを見てきたシャルティだが、従魔用におもちゃを作っている人は今までいなかった。
あるとすれば、訓練用の道具を作るくらいだろうか。
「それにしても、大人しくていい子ですね」
シャルティがウメを撫でると、『にゃう』と鳴いた。
「みんなお利巧さんですよ。俺の言うことをよく聞いてくれますし、ここに来る間もちゃんと並んで歩いてくれましたよ」
「へええ、偉いですね」
『そんなの当たり前よ。あちしは、アンタと取引をしたんだから』
「そういえばそんな話もあったな」
太一としてはもう仲間のつもりだが、ウメとしてはテイミングしたからといって一方的によくされるのはどうもむず痒いようだ。
『……でも、人間に襲われないっていうのはなんだか不思議な気分ね』
「あー、そうだな。どうしても、人間と魔物は戦うから……」
むしろ、レベルを上げるために魔物を狩るという冒険者はとても多い。
『アンタの側は安全だから、助かるわ』
「それはよかった。テイムされてれば襲われることもないから、安心してくれ。……あ、でも勝手にカフェから出たり俺の側を離れるのはなしな。もしかしたら、従魔だと気づかず襲われるかもしれないから」
『わかったわ』
太一とウメが会話しているのを見て、シャルティは「何を話してるんですか?」と興味深そうに聞いてくる。
「人間が襲ってこないのが不思議だ、って」
「やっぱり冒険者に遭遇したら……怖いですよね」
『すぐに逃げるわね』
「逃げるそうです」
太一が苦笑しながら、ウメの言葉をシャルティに伝える。
シャルティはうんうんと頷き、しかしこればかりどうにもできないとお手上げのポーズをとった。
「従魔と会話できるスキルは便利ですけど、こういう話を聞くのは少しつらいですね」
「そうですね。……その分、俺が幸せにしてあげられるよう頑張ります」
「タイチさん……」
にこりと微笑んで言う太一に、シャルティはわずかに目を潤ませる。
ここまで魔物のことを考えてくれる人は、テイマーの中にもそうはいない。どうしても、弱い魔物しかテイミングできないから辞めてしまう人が多いのだ。
「私もできる限りのサポートをさせていただきますね!」
「わ、それは心強いですね。今後もよろしくお願いします、シャルティさん」
「お任せくださいっ!」




