15 いつもの日常
「よーし、さっそく始めますか!」
『寝なくていいのか?』
太一が気分を出すために腕まくりをすると、ルークが横にやってきた。
ケルベロスたちは、ベリーラビット、フォレストキャットと遊んでいるようで店内を走り回っている。
それを見て、太一は頬を緩める。
「ヒメリが来る前に寝るのも申し訳ないからな。少し頑張って、そのあとに休むよ」
『あまり無理をするなよ』
「ん、ありがとうルーク」
夜の間ずっと移動していたこともあり、ルークは太一を心配してくれているようだ。鼻先をぐりぐりと太一に擦りつけてくる。
「大丈夫だって――って、こっちか?」
ルークの鼻ぐりぐりは愛情表現だと思っていたが、よくよく見ると鼻先は太一――ではなく、腰から下げている魔法の鞄に向けられていた。
なぜここ? そう思い、しかしすぐにピンときた。
魔法の鞄には、ルークお気に入りのビーズクッションが入っているからだ。
「すっかり忘れてた。ほら、ルークのビーズクッション」
『言われる前に出すとは、なかなかやるじゃないか!』
ルークはぶんぶん尻尾を振って、置かれたビーズクッションの上へと座る。そして大きなあくびを一つ。
『さすがに走りっぱなしだったからな。オレは少し休む』
そう言うとすぐ、ルークはビーズクッションで横になって寝息を立て始めてしまった。寝るまでほんの数秒だ。
元気そうに見えたが、さすがに太一とフォレストキャット一〇匹を背負っての移動は疲れたのだろう。
「ありがとうな、ルーク」
太一は眠るルークにブランケットをかけて、猫のおもちゃとキャットタワー作りを開始した。
作るものは、人気だった猫じゃらし、ボール、トンネル、キャットタワーだ。
もふもふカフェにもボールはあるのだが、鈴が入っていないため音が鳴らない。フォレストキャット用には、鈴入りも追加する。もちろん、ほかの従魔が遊んでも問題はない
「まずは猫じゃらしだな。【創造(物理)】っと」
太一がスキルを使うと、一瞬で猫じゃらしができあがる。
これはフォレストキャット亭で一度作ったので、二回目ともなればお手の物だ。その調子で、鈴入りの毛糸ボールとトンネルも作ってしまう。
「猫のおもちゃってすぐに壊れるらしいから、予備もある程度あった方がいいよな」
お店なのだから、壊れたおもちゃを置いておくわけにもいない。
いつでもつくることはできるけれど、人前で【創造(物理)】のスキルを使うわけにもいかない。
(こんなチートスキル、普通は持ってないもんな……)
「とりあえず、一〇個ずつくらい作っておけばいいかな? 予備は店内に一つ置いておくようにして、残りは奥にしまっておこう」
スキルを使って二つ、三つと作り、どうせならと色違いも用意してみる。
「色によって好みがあるかもしれないからな」
そうすれば、きっとお気に入りの猫じゃらしを見つけてくれるはずだ。
太一はたくさんの猫じゃらしを作り、一仕事を終えたような満足感を覚える。が、まだ大仕事が残っている。
問題は、キャットタワーだ。
フォレストキャット亭で作った壁に板をつけるタイプもいいが、どうせなら見た目にもこだわりたいところだ。
テイミングしたフォレストキャットは、小さい子は体長が二〇センチほどしかない。
「それを考えると、小さめのキャットタワーもあった方がいよな?」
逆にウメは群れのボスということもあり、八〇センチで通常の猫よりもサイズは一回りほど大きくなっている。
「大きいやつも必要だよな……」
となると、二か所に設置するというのも手かもしれない。
窓の隣に小さめのキャットタワーを作り、外を眺められるスペースを作る。大きいものは、店内の隅に天井までの高さで作ってしまえばいい。
小さいものは段と段の間はなるべく狭くして、小さかったり足が弱い場合も問題なく使える設計にする。
それを忘れないうちに、スキルを使う。
「【創造(物理)】」
脳内に浮かんだ3Dデータのようなものを動かして、理想の形にしていく。
すると、太一の腰ほどの高さしかないキャットタワーが現れた。低めの階段と、くつろぎスペースがてっぺんに一つついている。
フォレストキャットなので、デザインのイメージは森だ。花や葉をモチーフにしてあり、もふもふカフェの内装ともマッチする。
柱の部分は麻縄できつく巻いてあるので、フォレストキャットたちが爪とぎに使うことができる。
「うんうん、なかなかいいできだ」
毛糸のボールも紐でぶら下げているので、きっと猫パンチをして遊んでくれるはずだ。
「次は大きい方のキャットタワーだな。よし、腕が鳴るぜ!」
太一の妄想すべてを詰め込むつもりで、さっそく二つ目のキャットタワーに取りかかった。




