13 ビジネスキャット
『あちしからの取引で、こちらの要求は衣食住の保証!』
「それは当然ですね」
『にゃっ!』
ごく当たり前のことを言われてしまい、それは取引でもなんでもないと太一は苦笑する。
『……アンタは、本当にいい人間なんだね』
「普通だと思うけど……みんなのことは大事にしたいし、大好きになる自信がありますね」
というか、もう大好きですが何か?
ボスは腕を組むようにして悩み、『よし!』と結論を出した。
『衣食住を保証してくれるなら、あちしの群れはアンタについていくよ! その、もふもふカフェにも協力してあげる!』
「え、本当に⁉ やったー! ありがとう!!」
太一が万歳をすると、ボスが「大げさ!」と声をあげる。
『それと、ジャイアントクロウを倒してくれてありがとう。ずっと巣穴から出られなくて、食料が尽きるかとおもったのよ。さあ、アンタたちもお礼を言うのよ』
『『『にゃ~』』』
ボスの声を合図にして、残りのフォレストキャット全員でお礼を告げてくれた。にゃとしかわからないけれど、きっと『ありがとう』と言ってくれているのだろう。
『これで群れの子たちに苦労させないで済むわね』
ふうと安堵しているボスの姿を見て、太一は絶対に守らなければ……と、決意を秘めた。
***
さっそくフォレストキャット亭に戻ると、「「えええぇぇぇ~⁉」」と、アーツとサラの声が重なった。
「ちょ、なんですかこの大量のフォレストキャットは!!」
アーツは驚きが隠せないようだ。
「従魔にできる数はテイミングのスキルレベルによるのに、フォレストキャットだけで……一〇匹⁉ タイチさんて、いったい何者なんだ?」
さっぱりわからないと、アーツは頭を抱える。
「すごい数のフォレストキャットね……。名前はもうつけたの?」
サラの質問に、太一は頷く。
「全部で一〇匹で、群れのボスはこちらのウメだよ」
「ウメちゃんっていう名前にしたんだ。可愛いね」
そして二匹目以降は、サクラ、カエデ、モミジ、ヒイラギ、ユーカリ、サツキ、シラカバ、クヌギと続く。
種族名がフォレストキャットで、体のどこかに植物があるので木の名前で統一してみたのだ。太一的には、なかなかいい感じになったと思っている。
「へえ、可愛い。みんな猫じゃらしは好きかな?」
そう言って、サラが猫じゃらしをフォレストキャットたちの前に持っていってふりふりさせる。
すると、フォレストキャットが尻尾をぴくんと動かした。
(やっぱり猫じゃらしが好きなんだなぁ)
これなら、もふもふカフェに来てもお客さんと楽しく遊べそうだ。
『にゃっ!』
『にゃにゃにゃっ!!』
フォレストキャットたちがサラと遊んでいると、ボスのウメが太一の肩に乗っかってきた。
さすがに体長八〇センチなので、なかなかにずっしりとくるものがある。
『あれはなんだい?』
「猫じゃらしっていうおもちゃです。向こうにあるのはボールとトンネルで、壁の板はキャットタワーっていって自由に遊べる設備になってるんです」
『へえ……!』
ウメは初めて見る猫用のおもちゃに、目をキラキラさせている。太一の背中に揺れる尻尾が当たっているので、きっと遊びたいのだろう。
(家に帰ったらいっぱい遊んであげよう)
それこそ、これでもかというほど遊び倒そうと思っている。
この世界の猫たちは、おもちゃ類を初めて見る。そのため、猫カフェの猫とはまったくと言っていいほど食いつきが違う。
なので、太一は遊ぶのが楽しみで仕方がない。
ふいに、チリリリ~ンと鈴の音が聞こえてきた。
アーツがボールを投げているところで、太一がテイミングしたフォレストキャットの一匹、ヒイラギが勢いよく追いかけていた。
それはもうダダダダダッと音が響くほどの猛ダッシュで、食堂の隅から隅まで走り回っている。
(うお、やんちゃっこだなぁ)
だがそこもまた可愛い。
太一がほっこり見つめていると、ウメがほかのフォレストキャットのフォローをしてきた。
『あの子たちは、比較的若いんだよ。だから、あちしと違ってああいったものへの興味も強いんだ』
「へえ、そうなんですね。……ウメは遊びたくないんですか?」
尻尾が揺れてるのは知っているので、聞いてみる。
『……あちしはいい大人だからね。あの子たちの面倒を見るのさ』
「さすがは群れのボス、偉い」
『褒めたって何もでないよ!』
「それは残念」
太一が笑っていると、ボール追いかけっこをしていたヒイラギが、勢いに任せて足元までやってきた。
おっとという顔をしてこちらを見上げてくるのは、なんとも言えない可愛さがある。
『にゃう?』
そしてこのあざとい顔である。
「ヒイラギはボールが好きなんだな。帰ったらカフェ用のボールを作るから、それでもいっぱい遊んでくれよな」
『にゃうっ!』
太一がしゃがみ込んでヒイラギの頭を撫でると、嬉しそうに目を細める。どうやら、なんとなくで言っていることを理解してくれているようだ。
「可愛いなぁ」
もっと撫でると、ヒイラギはころんとお腹を向けて寝ころんだ。
猫がお腹を見せてくれるのは、相手を信頼しているという証でもある。そのことが嬉しくて、太一は思わず口元を押さえる。
(俺の前でお腹ころんしてくれたの、ヒイラギが初めてだ……っ!!)
そのことが嬉しくて嬉しくて、舞い上がってしまいそうだ。
『みんな、アンタには感謝してるのよ。しばらくジャイアントクロウに怯えて暮らしていたから、なおさらね』
「これからは、そんな危険がない場所でのんびり生活してもらいたいな」
『そのつもり! その代わり、そのカフェのお客さんと遊んであげる』
「頼もしいな」
別に無理に相手をしなくてもいいのだが、それが衣食住を与えてもらうウメなりのお礼のようなものなのだろう。
ならば、太一はもふもふカフェでの生活が嫌にならないよう、努力するだけだ。
それから数日滞在したのち、太一たちはレリームの街へと帰った。




