11 フォレストキャットの天敵
ルークの背中に乗って森の中を進むこと、一〇分。
木々の上からバサッと翼を打つ音がした。
『あいつだな』
「んん……? あれは……カラス、か?」
体長は大体一メートルほどはあるだろうか。
全身真っ黒の羽と、黒い瞳。
鋭いくちばしは、つつかれたら風穴が開いてしまいそうだ。
『確か、ジャイアントクロウだな。あいつは卑怯者だから、自分より圧倒的に弱いやつしか捕食しないんだ』
「だからフォレストキャットが狙われたのか」
『だろうな』
確かにこれでは、たまったものではない。
(そういえば、カラスは猫の天敵って何かで見たことがあるな)
特に野良猫の場合は、縄張り争いが勃発する。それから、餌を奪われたり――最悪の場合、子猫を連れ去られることもあるとか。
隠れて出てこなくなるのも当然の話だ。
「ルーク、ジャイアントクロウを倒せるか?」
『当たり前のことを聞くんじゃない』
太一の返事にすぐ頷いて、ルークは太一を背に乗せたまま大きく飛び上がった。
『落ちるなよ』
「ちょっ⁉」
戦ってくれるのは大変助かるが、せめて自分を安全な場所に下ろしてからにしてほしかった!!
そう思いながらも、もう戦闘態勢に入ってしまったので仕方がない。太一にできることは、落ちないように必死にルークの背中にしがみついていることだけだ。
『カアアアアアァッ!』
『ふん、ただの鳥風情がオレに勝てると思うなよ!』
ジャイアントクロウはその大きな体を宙に浮かせ、羽を飛ばして攻撃をしかけてきた。ルークは、それを木の枝を渡り歩きながら避けていく。
大地から攻撃を仕掛けるルークVS空のジャイアントクロウ。
この戦いは長引く――太一はそう予想したのだが、勝負は実にあっけなかった。ルークが高くジャンプをし、その鋭い爪でジャイアントクロウの羽を切り裂いた!
『クアアアァッ!』
『ふんっ、弱いものばかり捕食して、己の強さに磨きをかけないのがいけないんだ』
ルークがあまりにもあっさりジャイアントクロウを倒してしまったので、太一は目を見開く。
(一瞬の戦いだった……)
いや、長引いてハラハラするよりはずっといいけれど。
『ジャイアントクロウの素材は売れるだろうから、持って帰るんだぞ』
「あ、うん」
簡単に倒してしまったが、決してジャイアントクロウが弱いというわけではない。単純に、ルークが規格外なだけなのだ。
魔法の鞄にジャイアントクロウをしまって、さあフォレストキャット探しの開始――というところで、後ろの草がガサリと音を立てた。
「またカラスっ⁉」
突然のことで太一はびっくりして飛び上がり、急いでルークの後ろへと隠れる。
『別に隠れなくともお前を守ることくらい造作もないぞ?』
「わかってる、わかってるよイケメン! でも魔物がいる森の中なんだから、これくらいは大目に見てくれ!!」
この世界の人と違って、太一はまだまだ魔物には慣れていないのだ。
警戒心を解かずにじっと音の下草を見ていると、ぴょこりと……耳が見えた。
「……ん?」
(あれ? あの耳はもしや……?)
もしかしてもしかするのではないだろうかと、太一の期待が高まる。
そして次に見えたのは、長い尻尾だ。
(ふおおおぉぉっ⁉)
「も、もっふもふの……猫……ちゃん」
『みゃぁ』
小さな鳴き声がして、草のところから一匹のフォレストキャットが顔を覗かせた。
「か、かわいい……」
『にゃ……』
姿を見せたフォレストキャットは、体長が二〇センチほどととても小さい。弱々しくて覇気もなく、衰弱しているということがわかる。
ふわふわのセピアの毛と、お尻のところはピンク色の毛が少し生えている。
頭にはまるで花冠をつけているように植物が生えている、とても可愛いフォレストキャットだ。
『みゃうぅ……』
『だいぶ弱っているな。ジャイアントクロウがうろついていて、長期間巣穴から出れなかったんじゃないか?』
餌や水が足りなくなって、衰弱しているのだろうとルークが言う。
「それなら、餌が必要か! どうしよう、ミルク? それとも……あーもう、お買い物スキルを使って大量にニャールを買っとくんだった! 俺のバカバカ!!」
『カフェで出してるおやつのクッキーでも与えればいいんじゃないか?』
「あ、なるほど!!」
てんぱる太一に、ルークがすかさずアドバイスをくれる。
「それなら鞄に入ってる!」
太一が魔法の鞄から取り出したのは、おやつの『うさぎクッキー』だ。
テイマースキルで作ったおやつで、従魔はもちろんだが、人間もとっても美味しくいただけるお菓子だ。
袋からうさぎクッキーを一枚取り出してフォレストキャットの前に差し出すと、鼻を近づけて匂いを嗅いだ。
そしてすぐ、その美味しそうな香りにあらがえなかったからか……モグモグと食べ始めてくれた。




