10 森にやってきました
翌日、太一はさっそくフォレストキャットが生息している森へとやってきた。
ここはアーゼルン王国の中心にある森で、上を見上げると太陽がほとんど見えないくらい木々が生い茂っている。
森にちなんだ魔物が多く生息しているという。
『美味そうな獲物がいればいいんだが』
「待て待て、今日は食べ物じゃない。カフェの店員になってくれるフォレストキャットをテイムしに来たんだぞ」
『わかっている! ついでにドラゴンが狩れたらラッキーなくらいだ』
「ついでにドラゴンが出てきてたまるか……」
こっちはルークみたいに強くない。
(でも、ルークは簡単にドラゴンも倒しちゃうんだよな)
その強さは圧倒的で、太一はこれまでに何度も助けられている。
それは戦闘面だけではない。
ルークがいなければこんなに簡単にアーゼルン王国まで来ることはできなかっただろうし、最初に転移した危険な森から街に行くこともできなかったかもしれない。
この出会いは、まるで奇跡のようだったんだと後になり太一は改めて思ったほどだ。
できることなら、また美味しいドラゴンステーキを作ってあげたい。
(でも、俺のいないところで狩ってくれたら嬉しい……)
ドラゴンと対峙するのは、ルークがいて安心だとわかっていても怖いものだ。
『奥に行ってみるか?』
「ん、んー……」
ルークの問いかけに、太一は悩む。
聞いた話だと、フォレストキャットは弱くテイミングがしやすい部類に入る。そう考えると、あまり奥に行かない方が遭遇できそうな気がするからだ。
太一は首を振り、森の浅いところを探してみることにした。
そしてフォレストキャットを探して森の中を歩き――二時間。
「あれぇ、一匹もいないぞ?」
宿を出るときアーツに聞いたけれど、フォレストキャットの数は多く、数十分もすれば一匹目に合うはずだと言っていた。
それが二時間経っても出会えない。
「どうなってんだろ……俺たち、森を間違えた?」
そんなことを思いながら太一がルークを見ると、鼻をぴくぴくさせている。もしかしたら、その嗅覚で何かがわかったのかもしれない。
(そういえば、前もドラゴンの匂いを嗅いでたな……)
最初からルークにフォレストキャットを探してもらえばよかったかもしれないが、自分の足で歩いて猫を見つけたいという太一なりの欲もあった。
とりあえず、ルークの判断を待ってみる。
『何か、強い魔物がいるみたいだな。それに怯えて、弱い魔物は隠れているんだろう』
「なるほど、そういうことか」
言われてみれば、フォレストキャットのような弱い魔物とは全然出会っていない。ルークが倒してくれたので事なきを得たが、遭遇したのは強い部類の魔物ばかりだった。
となると――
「もしかして、その強い魔物を倒さないとフォレストキャットは巣穴から出てこない?」
『その可能性はあるな』
「oh……」
なんてこったい。
さすがにそれは大問題なので、どうにかしたいところだ。
(でも、その強い魔物ってなんだ?)
ルークが強いと言うくらいだから、かなりやばい相手なのかもしれない。それこそ、ルークでもピンチに陥ってしまうような……?
そう考えただけで、背中にぞくりとしたものが走る。ぶんぶん首を振って、悪い考えを頭の中から追い出す。
『とりあえず、倒しに行ってみるか』
「え?」
『なんだ、ぽかんとして』
「いや、強い魔物だって言うから……ルークでも厳しいのかもしれないと思って」
太一が正直に言うと、ルークがため息をついた。
『オレは気高きフェンリルだぞ! 負けるなんて、あるわけないだろう!!』
「普通に心配なんだって! だって、強敵なんだろ?」
『フォレストキャットからしてみれば強敵だ』
「あ、そういう……」
どうやらルークにとっては別になんともない相手のようだ。
(ちょっと安心した)
「なら、そいつを倒してフォレストキャットをテイムしよう」
『それがいいな。匂いを辿って行くから、背中に乗れ』
「……お手柔らかにお願いします」
太一が背中に乗ると、ルークは勢いよく駆け出した。
「だから速すぎるってええぇぇぇぇっ」




