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異世界もふもふカフェ  作者: ぷにちゃん
第二章 テイマー、もふもふ猫を求めて隣国へ
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7 ルークとフリスビー

 街の門を出て、ルークの背中に乗って一時間ほど。

 小高い丘の上にある草原へとやってきた。柔らかな草花が咲き、心地よい風が太一の頬を撫でる。

 大地に体を預けて昼寝をしたら、きっと気持ちがいいだろう。


『それで、そのフリスビーとやらはどうやって使うんだ?』


 ルークは初めて見るフリスビーに興味津々のようで、じいぃぃと見つめてくる。今まで、こんなにルークの視線を集めたことがあっただろうか。

 太一は笑いながら、口で説明するより実際にやって見せた方がいいだろうと考える。


「やってみるから、ちょっと見ててくれ」

『ふむ?』


 フリスビーを構えてシュッと前に向けて投げる。ちょうどいい風が吹いていることもあって、その飛距離は七〇メートルほどだろうか。


「おお、すごい飛んだな~!」


 フリスビーなんてほとんどやる機会がなかったので、太一は思わず自分の腕に感動する。

 走ってフリスビーをとってきたら、今度はルークに遊び方を説明する番だ。


「今みたいに俺がフリスビーを投げるから、ルークはそれをキャッチするんだ」

『は?』

「えっ……」


 思わず真顔になったルークに、太一は思わずうっとなる。


(まあ、この世界じゃこんな遊びはないんだろうけど……)


 そこまで意味不明だという顔をしなくても……と、太一は口を尖らせる。


「とりあえず、一回やってみよう! そうすれば楽しさがわかるかもしれないし!」

『まあ、タイチがそこまで言うなら付き合ってやってもいいぞ!』

「ああ、よろしく。いくぞ――それっ!」


 太一は先ほどよりも大きく腕を振り上げて、フリスビーを飛ばす。今度はもっと遠くまで飛ばせるかもしれない! そんな期待に胸を膨らませた瞬間――


 パクッ!


 ――っと、ルークがほんの数メートルのところでフリスビーをキャッチしてしまった。


「そうじゃない……!!」


 いや、そうかもしれないけれど……確かにルークは簡単にキャッチできてしまうかもしれないけど……!!


『簡単じゃないか』


 あっけらかんと言うルークに、さすがにフリスビーを考えた人も、フェンリルがやってみることの想定まではしていなかっただろう。


(こうなったら作戦変更だ)


 ちゃんと説明しよう。


「いいか、ルーク。このフリスビーという遊びは、落ちる直前でキャッチするゲームなんだ」

『落ちる直前?』

「そうそう。地面すれすれでキャッチした方がすごいゲームなんだ」

『変わったゲームだな』


 ルークは鼻を鳴らして、『もう一度だ』と言う。

 どうやら、今の説明で理解してくれたらしい。これなら、フリスビーを遠い位置でキャッチしてもらえるだろう。

 太一はほっとしながら、「もう一回だ!」と声をあげる。


『ああ、いいぞ。地面ギリギリでキャッチした方が美しいんだろう?』

「美しいかはわからないけど、その方が楽しい!」


 ということで、太一は再びフリスビーを投げる。


「それっ!」


 今度はもっと腕を大きく振って、できるだけ遠くへ飛ばすように意識する。

 ルークは飛んでいくフリスビーをじっと見て――しかし、動かない。


「え、ルーク? キャッチするんだぞ?」


 心配になって太一が「わかってるか?」と問いかけると、ふんっと鼻息で笑われた。


『オレの足ならば、あれに追いつくくらい造作もない』


 そう宣言したルークは、フリスビーが六〇メートルほどの距離が出て、落ち始めてから大地を蹴った。

 そしてものすごい速さで、フリスビーへ追いついた。

 気を抜いていたら、太一は目線でルークのことを追うこともできなかっただろう。それほどまでの瞬発力だった。


 ルークはたった数秒でフリスビーの元へ行き、地面スレスレでキャッチしてみせた。


「は~、すごいな」


 改めてルークの速さを目の当たりにして、いつも自分を乗せて走ってくれているときは、本当に気を遣ってくれていることもわかった。


(口ではいろいろ言ってくるのに、行動は優しいんだよな)


 ルークがフリスビーをくわえて戻ってきたので、太一はよしよしと首回りを撫でてもふもふしてあげる。


「さすがルーク! 一発でここまで上手くできるとは!!」

『当たり前だ! オレは気高いフェンリルだからな、こんなことは朝飯前だ』


 太一に褒められたことが嬉しかったようで、ルークはぶんぶん尻尾を振る。


『ほら、早くもう一回投げろ! 今度はもっと遠くまで飛ばしてもいいぞ』

「ん? よーし、いくぞ!」


 もっと遠くまで飛ばすのは難しいかもしれないが、まだ投げるのは問題ない。

 今度は少し助走をつけて、勢いをのせフリスビーを投げる。


「いっけええぇぇぇっ!」


 ――が、逆に力が入りすぎたようで、今度は三〇メートルほどのところで落ちてしまった。

 ルークはあっさりとキャッチし、『これがお前の全力なのか?』といった顔で太一のことを見てくる。


 運動不足の元社畜に、そんなハイスペックなフリスビーを求めないでもらいたい。


「ごめん、なかなか上手く投げれないな……」

『投げるのは難しいのか?』

「うーん、投げるのは簡単だけど、遠くまで飛ばすのが難しいんだ」

『なるほど』


 ルークは口にくわえたフリスビーをぶんぶん振り回し、ぽいと投げた。その距離は一〇メートルほどで、確かに遠くへ飛ばすのが難しいことがわかったようだ。


『……むう』

「難しいだろ?」


 まあ、もう一回投げるからフリスビーを貸して――と太一がいいかけると、コツをつかんだのか……ルークがもう一度フリスビーを投げた。

 しかも、今度はその飛距離がゆうに一〇〇メートル――いや、もっと遠くまで飛んでいる。


『なんだ、簡単ではないか!』

「うっそん」


 どや顔のルークに、太一は開いた口が塞がらない。


(でも、そうだよな……ルークの方が百倍以上運動神経がいいもんな)


『ほら、オレが投げたんだから取ってくる役はタイチだぞ』

「いや俺の体力なんだと思ってるんだ?」


 無理です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 役が入れ替わる所までは予想出来なかった(笑)周りから見るときっと憐れ
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