3 アーゼルン王国に到着!
太一とルークの旅は順調に進み、五日でアーゼルン王国との国境へ到着した。国境の警備兵がいて、通行人の確認をしているようだ。
とはいえ、今はまだ早朝なので人は少ない。
「ルーク、国境を超えるから小さくなってもらっていいか?」
『仕方ないな……』
太一がお願いすると、ルークは一メートルほどの大きさになった。これならば、警備兵に警戒されたり、街の人たちに怖がられることもないだろう。
(緊張するなぁ……)
国境を通る列に並びながら、ドキドキする。
別に悪いことをしているわけではないのだが、兵士とは今までも関りがなかったので、落ち着かないだけだろうか。
『通るのに並ばないといけないなんて、人間は不便だな……。山の中でも通っていけばいいじゃないか』
「それは駄目だろ……」
確かに、国境といってもずっと壁が続いているというわけではない。
しかしそれでは、国境が意味をなさなくなってしまう。
「別に悪いことをしてるわけでもないし、まして俺はフォレストキャットをテイムしに行くんだからな。きちんと手続することも大事だぞ」
それに、好き勝手して兵士に目をつけられたらたまったものではない。平和にカフェ経営をして過ごすというのも、大事なことだ。
(うちにはルークやケルベロスがいるからな……)
この二匹が実はすごい魔物だということは、秘密にしている。そのため、太一以外にフェンリルとケルベロスだと知る者はいない。
……ことになっている。
しばらく待っていると、太一の順番がやってきた。
「うお、大きな……これは、ウルフ系の魔物か?」
「いい毛並みをしているな」
警備兵の二人がルークに驚くも、どうやら魔物には慣れているらしい。ルークも毛並みを褒められてうれしそうだ。
「こんにちは。俺はテイマーの太一。こっちは、従魔でウルフキングのルーク。人に危害を加えるようなことはしません」
自己紹介をしつつ、太一は自分の『テイマーカード』を見せる。これが、この世界で太一の身分証明をしてくれる。
名前と、テイマーギルドランクの『F』が記載されている。
「ウルフキングか! 本物は初めてみたぞ」
「すごいなぁ、よくテイムできたもんだ。きちんと登録もされているし、問題はないな」
すぐに通っていいという許可が下り、太一はほっと胸を撫でおろす。
(ルークも大人しくしてくれててよかったぁ)
いつもだったら、『ウルフキングとはなんだ!』と怒ってくるのだけれど……成長したものだと太一は感動を覚える。
……まあ、ルークの顔は不機嫌そうだけれど。
「ありがとうございます」
「ああ、気をつけて」
すんなり国境を越え、太一とルークはアーゼルン王国の大地を踏みしめた。
***
アーゼルン王国に入って二日ほどで、フォレストキャットが生息している森の近く――大森林の街『フォレン』だ。
街の周囲には野生動物や魔物が多く生息し、兵士や冒険者も多い。危険は多いけれど、警備面もしっかりしている。
路面店も多く、木などの自然物を扱ったものが多い。
(見てるだけでも楽しいなぁ……)
木の食器はぬくもりがあって、もふもふカフェでも使いたい。木彫りの置物は、受付に飾ってみてもいいかもしれない。
『なんだ、そんなものがほしいのか?』
「よくできてるだろ?」
太一が手に取っていたのは、魔物をモチーフにした木彫りの置物だ。クマが鮭を銜えているものはないけれど、勇ましいポーズをとっているものはある。
ウルフが子ウルフと昼寝をしているやつなんて、最高に可愛い。
「ほら、これなんかルークに似てないか?」
『そんな弱いやつらと一緒にするな! オレはフェンリルだぞ!!』
「いやいや、外見の話だって!」
『俺の方が強そうだ』
どうやらかたくなにウルフと一緒にされるのが嫌なようだ。太一が肩を落とすと、店主から「従魔には気に入ってもらえなかったかい?」と声をかけられた。
「俺はすごくいいと思うんですけどね……すみません」
「いやいや。これはウルフを見て彫ったからね、その従魔は……もっと強い魔物だろう? そりゃあ、一緒に考えたら失礼だ」
『なんだ、わかっているではないか!』
ルークが『その通りだ!』と鼻息を荒くする。
「しかし大きいね……フォレンには来たばかりかい?」
「そうです、つい今さっき。だから、これから宿も探さないといけなくて」
だからまだ、のんびりお店を見て回る前に拠点を決めなければいけない。
フォレンは大きな街なので、テイマーの数も多いだろう。そうなると、テイマーギルドに早めに行って宿の確保をしたいところだ。
(大きな荷物を従魔に引かせている商隊もあったからなぁ)
そんなことを太一が考えていると、「それなら」と店主が近くの通りを指さした。
「そこの道をしばらく歩いた右手側にある、『フォレストキャット亭』っていう宿がおすすめだよ」
「え、それは素敵な名前……」
ではなく。
ではなくはないのだが。
「従魔がいるので、宿は断られてしまうと思うんですよね。だから、テイマーギルドの宿泊施設を利用しようと思って」
ルークがいるため基本的に断られてしまうことを説明すると、大丈夫だと首を振られてしまった。
「そこは元テイマーが経営している宿でね、従魔もオッケーなんだ」
「おおおおぉぉ、それはありがたいです!」
テイマーギルドの宿泊施設も悪くないのだが、せっかくなので宿に泊まりたい。
なんなら温泉がついていれば最高だけれど……さずがに異世界でそこまで高望みはしない。お風呂文化すらまだあまり浸透していないから。
『オレが泊まれるとは、なかなかわかっている宿じゃないか』
「ルーク」
ふふんと鼻を鳴らすルークに苦笑して、ひとまずその宿に行ってみることに決める。
「ありがとうございます、行ってみます」
「ああ。俺も世話になっているところなんだが、とてもいい子だからよろしく頼むよ」
「はい」
太一はもう一度店主にお礼を告げて、フォレストキャット亭へと向かった。




