2 猫について語ってみたら拗ねられた
無事にテイマーギルドで宿をとることができた太一は、部屋につくなりベッドへと寝ころんだ。
横には、魔法のカバンに入れておいたルークのお気に入りのビーズクッションも置く。
「はー疲れたぞ……」
意外なことに、この街のテイマーギルドは賑わいを見せていた。というのも、長距離移動をする商隊が比較的大型の魔物に馬車を引かせていたからだ。
そのため、この街のテイマーギルドは大きく、宿の部屋も広さがあった。
ぐでんとしてしまった太一を見て、ルークはビーズクッションに寝ころんでふんと鼻で笑う。
『まったく、軟弱だな』
「あはは~」
ルークの背中にしがみついているだけで精いっぱいだったのに、ルークはよく自分を背中に乗せて走り回れるなと太一は思う。
こっちの世界に来てから必然的に歩く距離や運動をする機会も増えたが、とてもではないがルークに追いつけるとは思えない。
(とはいえ、もう少し体力は欲しいな)
そうすれば、いくらでも散歩に付き合ってやれるかもしれない。
なんて考えながらうとうとしていると、ルークから『そんなにフォレストキャットがいいのか?』という問いかけが飛んできた。
もちろん、フォレストキャットは――猫は社畜時代の太一の癒しだった。
「俺は猫たちに生かされていると言っても過言ではない……! 疲れ果てて死にそうになっても、猫を撫でられると考えただけで……とりあえずもう少し生きようと頑張ることができたからな」
『いったいどこの戦場にいたんだ』
「会社という戦場ですかね……」
乾いた笑いをあげながら、太一は目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、通っていた猫カフェだ。
(そういえば、みんな元気にしてるかなぁ……)
おやつのニャールをあげて、モテモテになったことはきっと一生忘れないだろう。
猫カフェの猫たちはいつもそっけなくて、猫じゃらしで遊ぼうとしてもなかなか反応してくれないし、普通に横を素通りされる。
あのときの切なさと悔しさも、きっと一生忘れないだろう。
見かねた店員さんに猫じゃらしの扱いを教えてもらい、多少は一緒に遊んでくれるようにはなった……が、おやつをあげるときは別格だ。
ニャールを手にすると、猫たちは一目散に太一の下までやってきてくれる。可愛らしく『みゃぁ』と鳴いて、ニャールをねだる。
そんな猫に――この世界で出会えるとはなんという至高か。
『だらしのない顔だな』
「んべっ」
突然ルークの肉球パンチが飛んできて、目を開く。不機嫌そうな顔には、『猫の話ばかりしやがって』と書いてあるかのようだ。
「ごめんごめん」
――そう思いつつも、ルークの肉球がぷにぷにだった! ということで太一の脳内はいっぱいだ。
(はあ~~肉球気持ちいい……)
もう一回くらい叩いていいよ? と、言ってしまいたい。
(でも、そんなこと言ったらルークめっちゃ怒りそうだ)
『今度は何をにやにやしてるんだ』
「いや、ルークが可愛いからつい……」
『可愛い!? こんなに気高いフェンリルが、可愛いわけがないだろう!』
ベリーラビットと一緒にするんじゃないと、ルークが吠える。
けれど、太一からしたらルークだって十分可愛いし、大切な仲間だ。もふもふも最高だし、ツンツンデレ具合だってたまらない。
『可愛いというのは、あれだ、フォレストキャットもその部類だろう』
だからオレは可愛くないというルークの主張。
「そりゃあ、フォレストキャットも可愛いけどさ。可愛さに順位なんてつけれないよ。俺にとっては、みんな可愛い仲間だし!」
『…………』
太一がそう言うと、ルークが黙ってしまった。
「ルーク?」
どうしたのだろうと太一が首をかしげ、ルークの顔を覗き込んでみる。すると、耳の先っぽが少し赤くなっている。
(え、何それ可愛いんですけど!?)
人間が照れたりしたときに耳が赤くなるということはよくあるが、まさかフェンリルでも同じ状態になるとは思わなかった。
とりあえず言えることは、可愛いの一言につきる。
『ふんっ! 出発は明日の夜だったな……お前はひ弱なんだから、早くそれまで寝てしまえ!』
「いやいや、さすがにそれは寝すぎだぞ?」
『うるさい早く寝ろ!! オレも寝る!!』
「えぇぇぇ」
言ってすぐ、ルークはビーズクッションに顔をうずめるようにして寝てしまった。どうやら、ルークなりの照れ隠しのようだ。
(久しぶりのデレかな……?)
それとも、フォレストキャットの話ばかりをしていたから、やきもちを焼かれたのかもしれない。
太一はベッドから体を乗り出して、ビーズクッションにいるルークを撫でる。
「おやすみ、ルーク。起きたら美味い飯でも食べような」
『…………』
返事こそなかったが、ぴくりとルークの尻尾が揺れた。
それを見た太一は頬を緩め、ベッドへ潜り込んで目を閉じた。
***
「へ~、いろんな食材があるんだなぁ」
『ドラゴンの肉はないのか?』
「それはさすがにないだろ……」
たっぷり休んだ太一とルークは、夜の街に繰り出していた。
やってきたのは、たくさんの屋台が並ぶ広場だ。街の人はもちろんだが、旅人も大勢いるためとても盛り上がっている。
この世界に来てから、まだ見たことのないものも多い。
太一が目をとめたのは、『ワイルドミノのテールスープ』という屋台だ。
(魔物の名前だけど……いい匂いがする)
テールスープといえば、とろとろになるまで煮込まれているものが想像できる。それはとても美味しくて、特に疲れた体には染み渡る。
隣を見ると、気になったのかルークも鼻をふんふんさせている。
「食べてみるか?」
『そうだな、腹が減っていては力が出ないからな!』
ということで、屋台でワイルドミノのテールスープを購入する。
「ふわああああいい匂い」
『これは美味そうだな……』
一人と一匹でごくりと唾を飲み込んで、カップに口をつける。
太一が一口スープを飲むと、ワイルドミノの力強いダシにガツンと殴られたような気がした。
そのまま煮込んだ肉を口に含むと……舌の上で崩れ落ちた。ぎゅっと詰まった濃厚な旨味が、体の中を駆け巡る。
「は~~美味い」
『んむ』
旅をして疲れた体が癒えていく。
ルークは舌を使って肉を食べて、そのまま器用にスープも飲み干した。熱いのはそこまで苦手ではないらしい。
(上手に食べるなぁ……)
『ん、なんだ?』
「いや、まだ食べたりないなと思ってさ」
『そうだな……次はもっとでかい肉がいいな』
フォレストキャットに会いに行く道中で美味しいものまで食べれるなんて、最高だ。
屋台はまだまだあるので、次は何を食べようかルークと相談しながら楽しんだ。
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