32 休日の過ごし方
今日は週に二回のもふもふカフェの定休日。久しぶりに朝寝坊をしようかな、なんて思いベッドの中でぬくぬくしていたら――『飯の時間だぞ!』とルークにのしかかられてしまった。
「重い……」
『ふん』
さらに足元を見ると、潜り込んできていたケルベロスがいた。
(うわぁ、俺ってばモテモテもふもふだ……幸せ)
この重みなら、いくらでも耐えられそうだとにんまりする。そんな余韻のようなものに浸っていると、ルークからご飯を催促される。
起きなければいけないようだ。
「わかったわかった、すぐ準備するよ」
換気のために部屋の窓を開けて、太一は店舗のキッチンへと向かった。
***
朝食をすませケルベロスやベリーラビットをもふもふし、さて今日はどうしようかと考える。
店の改善点などを見つけるのもいいかもしれないが、それは休日にすることではない。
ルークを見ると、ビーズクッションで気持ちよさそうに昼寝をしている。その周囲には数匹のベリーラビットも寄り添っており、仲良しだ。
「この世界にきてそこそこ経つけど、まだまだ知らないことが多いんだよな」
家兼カフェでもふもふするのもいいが、街をぶらついてみるのもいいだろう。
「あ、テイマーギルドに顔を出すのもありか?」
この世界のことはもちろんなのだが、太一はテイマーのこともそこまで理解しているわけではない。
魔物をテイムし、自分の従魔にすることができる。というくらいだろうか。
ということで、今日は情報収集することに決定だ。
「あ、タイチさん。いらっしゃい」
「こんにちは」
テイマーギルドへ行くと、シャルティさんが迎えてくれた。今日もほかにテイマーらしき人の姿はなく閑散としている。
(ここまでいないとか、テイマーって大丈夫なのかな……)
心配になりつつ、太一はもっとテイマーのことを知りたくて来たのだとシャルティに説明する。
「タイチさんってあんなに従魔がたくさんいて、すごいのに……なんでこうも知らないことが多いんですかね?」
「あはは……。遠い田舎から来たからね」
太一の言葉にシャルティは笑いながらも、「それなら~」と一冊の本を持ってきてくれた。
「これって……魔物図鑑?」
「そうですよ。現在棲息が確認されている魔物が載っている図鑑ですね。ちなみにそれは一巻です」
「へぇ」
ざっと見たところ、三〇〇ページほどはあるだろうか。見ごたえのありそうな図鑑で、しかも一巻ということは二巻以降もあるということだ。
(全部見るには時間がかかりそうだな……)
そう思いつつも、太一はパラパラと図鑑をめくっていく。
図鑑には丁寧に魔物の絵が描かれていて、特徴も説明がされている。だいたいの体長や強さのランク、どんな攻撃を仕掛けてくるか。
まさに冒険者向けの本だ。
「お、生息地も書いてある」
魔物は特定の場所に棲息するものと、条件が揃っていればどこにでも棲息するものの二種類にわけられる。加えるならば、ケルベロスのように棲息地がまったくわからない魔物もいる。
たとえばベリーラビットなら、棲息地は草原。
アイスウルフなどは、特定の雪山にしか棲息しないのでその場所が書かれている。
新たなもふもふはいないかな~と、魔物のイラストだけを見ていく。
「おー、ウルフ系の魔物は何種類もいるんだな」
これはそれぞれもふもふしてみたいものだと、太一は頷きながら図鑑を見る。すると、シャルティが笑いながら覗き込んできた。
「本当にもふもふが好きですね~」
「あの触り心地は最高ですからね。まさにこの世の楽園はここにあった! っていう感じで」
こればかりは、いくら語っても語りつくせない。
甘えてくる子もいいし、すまして近寄ってこない子も魅力的だ。
「ウルフ系のもふもふを制覇するものよさそ……えっ!?」
すっかりウルフに意識がいっていた太一だったが、あるページに目が釘付けになった。
「こ、これって……」
「ん?」
驚く太一を見て、シャルティはいったいどうしたのかと首を傾げる。図鑑のページは、別になんてことない普通の魔物だったからだ。
「ああ、フォレストキャットですね」
「フォレストキャット!!」
「めちゃくちゃくいつきますね……。強い魔物ではないので、好んでテイムする人はいないんですが……まあ、タイチさんですし」
弱いベリーラビットを一〇匹もテイムしている時点で愚問だろうと、シャルティは苦笑する。
「ここから内陸に行った、隣の国の森の中が生息地なんですよ」
「隣国!!」
(それなら割と簡単に行けそうだ!)
図鑑で見るフォレストキャットは、猫に近い外見だ。
変わっているところは、頭やしっぽなどに葉が付いているということだろうか。簡単に言うと、森猫だ。
「テイムしに行きたいんですけど、ここからだとどれくらいかかりますか?」
「まあ、タイチさんが好きそうな魔物ではありますけど……。ここからだと、乗合馬車を使って片道一ヶ月くらいでしょうか」
「一ヶ月……」
思ったより長旅だなと、太一は悩む。
(飛行機や新幹線でもあればいいんだけど……)
異世界なのでそうもいかない。
(あ、ルークに背中に乗せてもらったらもっと早く着くんじゃないか?)
これは名案だと、太一はぽんと手を叩く。
「その顔は……行くみたいですね」
「あ、わかりました?」
「さすがにわかりますよ。フォレストキャットは見た目も可愛いですし、タイチさんのカフェにはいいかもしれないですね」
シャルティは「それなら~」と言いながら地図を出してくれた。
「もし地図がないようでしたら、これを差し上げますよ。あまり細かいものではないんですが、テイマーギルドで配布しているものです」
「十分です」
地図には村や街、大きな森や湖などが描かれていた。他国との境界も引かれているので、十分だ。
「各地の名称は、街と目立った山や森くらいですね。必要であれば行った先で聞くといいですよ」
「わかりました」
(よーし、とりあえずルークに相談だ!)




