28 にぎやかなもふもふ
太一がスキルを使った瞬間、ケルベロスがパチパチした光に包まれた。ほかの魔物をテイミングしたときと同じだ。
(――成功、した?)
見ると、戦っていたルークが苦虫を噛み潰したような顔で太一のことを見ていた。戦いを邪魔されたことか、それともケルベロスをテイムしたことが不服だったか……。
太一はあははと笑いながら、ルークの下へ行った。
『勝手なことをするんじゃない!!』
「ごめん、思わず……」
『まったく!』
ぷんぷんルークが怒っていると、『うわーん!』という声が。何事!? と太一とルークが振り向くと、ケルベロスがこちらに飛びかかってくるところだった。
「『えっ!?』」
テイムしたはずなのに、襲ってくるのか!? と、身構える。けれど、太一にはあんな巨大なケルベロスから自分の身を護る術なんてない。
ルークもテイム後にケルベロスがそんな行動をとるとは予想していなかったようで、対応が一瞬おくれてしまう。
あ、潰される……。
そう太一が思った瞬間、ケルベロスは――その体を、みるみるうちに縮めてしまった。
三メートルを超すほどの大きな体が、太一へと飛びつこうとしている空中の間で三〇センチほどに縮んでしまった。
「ふぁっ!?」
『きゃー』
『受け止めて~!』
『主さまー!』
ケルベロスの三つの首が、それぞれ喋る。
(言葉がわかる! ってことは、テイムはちゃんと成功してるんだ!!)
太一が咄嗟に腕を広げると、小さくなったケルベロスがその腕へぽすんと飛び込んできた。
そして感じる、柔らかでいて、艶のあるもふもふ。
(はあああぁ、召されてもいい……)
腕の中に飛び込んできたケルベロスを抱きしめ、そのもふもふに感動の涙を流す。ルークもいいが、ケルベロスも最高だ。
『名前なんていうの?』
『僕にも名前ちょうだい!』
『わーい、もう寂しくないぞ!』
「お、おう……。俺は太一だ」
『『『タイチ!!』』』
三つの首がそれぞれ語りかけてくるので、ちょっとだけ混乱する。
(これは名前は一つでいいのか? それとも、頭ごとに必要なのか?)
と、割と本気で悩んでしまう。
しかし、何かあったときにわかりやすい方がいいだろうと、個別に名前を付けることに決める。
「それじゃあ、左の首から……『ピノ』」
『はーい!』
「真ん中の首は、『クロロ』」
『いい名前!』
「右の首は、『ノール』」
『ありがとー!』
三匹とも嬉しそうにニコニコしてくれたので、太一はほっとする。
「それにしても、ケルベロスってこんなに小さくなるんだな! 可愛いなぁ」
『ほめられた! ひゃっほう!』
『強いケルベロスだから、これくらいは余裕なの!』
『こっちのほうがタイチと一緒にいられるから、いい!』
どうやら、ケルベロスはルークと違って太一のことが大好きで仕方がないようだ。いや、もちろんルークもツンツンツンデレしているだけで、太一が好きだということはわかっているのだけれど……。
ルークは太一を取られたように感じたのか、服の裾を口でつかむ。
『そろそろ帰らないと、あの人間たちが起きるぞ』
「え? あ、見張りの冒険者!!」
自分がここにいたら、間違いなく面倒なことになりそうだ。そう思った太一は、冒険者たちを安全な場所へ移動させて店へ戻った。
***
翌日、太一が目を覚ますと――布団の中に温かい温もりを感じた。
「ん……?」
『すやすや……』
布団をめくってみると、ケルベロスが丸まって気持ちよさそうに眠っていた。
「めちゃくちゃ可愛いんだけど……」
ルークはビーズクッションで寝るし、ベリーラビットたちもみんなでくっついて寝ている。
すごい、もふもふとともに朝を迎えるなんて……。ちょっとした感動だ。
「昨日は夜中だったから、帰宅してすぐに寝ちゃったもんな」
ケルベロスが起きたら、廃墟にいた理由を含め、たくさん話がしたいと思う。
ただ、ケルベロスが寂しいと言っていたので、一人で生きていくのが辛くなったのかもしれない……と太一は思っている。
(災害級の魔物認定をされてて、すごく珍しいみたいだしな)
群れで生活ができるならそれが一番かもしれないが、発見されたら大問題になってしまうだろう。
きっと、ケルベロスにとっては生きづらい世の中なのだろう。
太一は手を伸ばし、ケルベロスの背中を撫でる。
安心しきった寝顔は、見ていてとても心が温まるものだ。
『んん~?』
「あ、起こしたか?」
頭一つだけが目を開けて、『くあぁ』とあくびをした。一番右の頭だから、ノールだ。
『うぅん、大丈夫だよ。タイチの手、気持ちいいね』
「それはよかった。ノールの毛ももふもふで、撫でててすごく気持ちいいぞ」
『えへへぇ』
太一が褒めると、嬉しそうに笑う。
「頭一つだけで起きてられるんだな」
『うん! 体は一つだけど、意識は別々なんだ』
「へぇ……」
なんとも興味深い体だなと思う。
「なあ、ノール。廃墟にいたけど、俺と一緒に来て大丈夫だったか? ……って、連れて来てから聞くのもあれだけど」
『大丈夫! 僕たちはどこに行っても人間に狙われるから、いつも隠れて生活してたんだ。あの廃墟に来たのも、つい最近だったから』
だから別に、生活する場所はどこでもいいのだとノールが言う。
『タイチがテイムしてくれて、お家につれてきてくれて、すごく嬉しいよ!』
「……そっか」
(人の温もりが恋しかったんだな、きっと)
そう考えると、じんわりとしたものが込み上げてくる。
ずっと人間に攻撃されながら生きてきたのに、それでもテイムした太一という人間を慕ってくれる。
ずっと大切にして、絶対に守ってやろうと太一は強く思う。
(あ~もう! 年を取ると涙腺が緩む……)
袖で目を擦り、太一はベッドから起きる。
「朝ご飯の用意してくるから、ノールたちはもう少し寝てて」
『うん』
太一がまた背中を撫でると、ノールは再び眠りについた。それだけ疲れてたんだろう。
「とびきりの朝飯を作らないとな!」
ぐっと伸びをして、太一は洗面スペースへと向かった。




