27 深夜のもふもふ
孤高のフェンリルである自分が、ケルベロス如きに負けるようなことはない。そう言ったルークは、太一を連れて夜の森へ駆け出してしまった。
太一はルークの背中に乗りながら、声をあげる。
「でも、本当に大丈夫か? ルークが怪我をするのは、嫌だからな!?」
『オレが怪我をするわけないだろう! ケルベロスなんて、ちょちょいのちょいだ!』
大船に乗ったつもりでいればいいと笑うルークは、太一と一緒に散歩……もとい運動できることが楽しいようでご機嫌だ。
ルークの足が速いということもあり、あっという間にケルベロスのいる廃墟がある森へ到着してしまった。
どこか薄暗くて怖いと感じてしまうのは、ケルベロスがいるという前情報があるからだろうか。
鼻をふんふんさせ、ルークが『向こうだな』とケルベロスがいる方角を示す。
「わかるのか?」
『特定できるくらいには強い気配をしているからな! 相手もオレの気配を感じてるんじゃないか?』
「え、それって危険なんじゃないのか?」
ルークの言葉を聞いて、途端に不安になってくる。
もしかしたら、ルークという脅威に気づいたケルベロスが先手をしかけてくるんじゃないか? なんて。
しかしルークはそんなことはまったく気にしていないようで、どんどん森の中を進んで行ってしまう。
(あ、そういえば……)
「確か、冒険者がずっとケルベロスを見張ってるって言ってたぞ」
『ん? ああ、あいつらのことか?』
「え?」
ルークの言葉を聞いて前を見ると、うっすら廃墟が見えていた。そしてその手前、木々に隠れるようにして冒険者パーティが目に入る。
(あれが見張り……ってことか)
太一は気づかれないよう、声のボリュームを落とす。
「見つかったらやばいんじゃないか?」
――しかし、ルークにとってそんなことは些細な問題だったようだ。
『俺が格好良く活躍するのを、ちゃんと見ておくんだぞ!』
「は? えっ?」
ふふんとどや顔になったルークに、太一は木の枝の上に乗せられてしまった。ルークなりの安全地帯だ。
慌ててちょっと待てとストップをかけようとするが、もう遅い。ルークは大きな声で吠え、飛び出してしまった。
(ちょおおおおぉぉっ!)
すると、異変を感じたのか廃墟にいたらしいケルベロスがその姿を現した。とたん、ピリリと空気が震えた。
(うわ……っ)
廃墟から顔を出したのは、フェンリルのルークよりも大きな黒い魔物――ケルベロスだった。
その体長は三メートルほどあるが、それよりも注目すべきなのは顔が三つあるという点だろうか。漫画やゲームでよく見るモンスターが、そこにいた。
「うわああっ」
「くそ、どうなってるんだ!?」
「すぐギルドに報告を!!」
(あ、見張りの冒険者たち……)
そりゃあ、災害級の魔物が突然動き出したら驚きもする。しかも、ルークとの戦闘が始まってしまったのだから。
幸いなことは、まだ太一の存在が気づかれていないということだろうか。しかしそれも、時間の問題かもしれない。
三人いた冒険者のうち、一人がギルドに連絡へ向かったようだ。そして残った二人は――気絶していた。
「え?」
太一が一瞬目を離したすきに、いったい何があったのか。そう思ったが、すぐに理由に辿りつく。
ルークとケルベロスが戦い、その余波で瓦礫や木、石などがすごい勢いで飛んできていたのだ。
どうやらそれに当たって気絶してしまったらしい。
(まあ、災害級の魔物の余波だもんな)
周囲を気にして戦いを見ていなかったが、目の前で繰り広げられている光景はまさにファンタジーだった。
ルークが吠え、それをケルベロスが受け、闇魔法を使い反撃をしていた。
もしかしたらルークの圧勝かもしれないと思っていたが、なかなかにいい勝負をしている……ような気もする。
(でも、決着が付いたらどうなるんだ?)
いつものドラゴンのように、食べてしまうのだろうか。
(同じ犬カテゴリーなのに?)
しかしそれが弱肉強食と言われたら、それまでだけれど。
しかししかし、だ。
「よく見ると、あのケルベロス……もふもふなんだよなぁ」
とても触り心地がよさそうなのだ。
ルークももふもふなのだから、ケルベロスだってもふもふに違いない。
だから、これは太一のちょっとした好奇心。
「……【テイミング】」




