25 ルークの運動
「いやー、導入したおやつも人気で、もふもふカフェも順調だなぁ」
『そんなことより、運動に付き合う約束だろう!』
「あ、そうだったな」
ちょうど閉店作業を終えた太一は、ルークと一緒に運動をしに行くことにした。
***
そして夜の森に響く、絶叫。
「うわあああああ、速い、はやあああぁぁぁいっ!!」
いつもは小さく……とはいっても一メートルほどの体長はあるのだが……まあ、そのルークは本来のサイズに戻り、夜の森を駆けていた。
――太一を、その背に乗せて。
『なんだ、これくらいで音を上げるなんて情けないぞ! 付き合うと言ったのだから、ちゃんと付き合え!』
「こんなにっ、激しいとは思わなかったんにぃ~~っ!!」
さも当然というようなルークに反論しようとして、舌を噛んで悶絶する。高速移動しているフェンリルの上で喋るの、駄目、絶対。
(すぐにでも下りたい……っ、けど! めちゃくちゃルークが嬉しそう!!)
それを見てしまうと、もう止めようとはどうしても言えない。むしろ、もっとどーぞ! と言ってしまいそうだ。
しかしそれでは自分が辛いので、どうにかスピードを落とせないかお願いしたが……まあ、テンションの高いルークにはお願いしても無理だろう。
『お、あそこに美味しそうなドラゴンがいるぞ。ステーキにしよう』
「はっ!?」
ルークが発見したのは、川で水を飲んでいる青いドラゴンだった。
(ひえっ、でかい!)
その大きさは三メートルほどあり、ルークよりも大きい。太一にはどちらが強いか判断はできないけれど、弱いようにも見えない。
「ま、まてまてまて、ルーク! お前、あれを倒すつもりか?」
『美味そうだろう!』
「そうじゃない!!」
いや、確かにフェンリルであるルークから見たら美味しいご飯なのかもしれないけれど……。
最初に出会ったときもドラゴンを倒していたかもしれないけれど……。
(でもドラゴンは何度見ても怖い……!)
『ちょっと倒してくるから太一はここで待ってろ』
「あ、うん……」
安全そうな太い木の枝の上に降ろされて、太一は頷くことしかできない。
(俺が背中に乗ったままじゃなくてよかったけど)
本当に大丈夫かな? と、やっぱり少し心配になってしまう。いくら強いとはいえ、相手はドラゴン。絶対はない。
太一がそわそわしながら見守っていると、ルークは大きくジャンプをし、空中で一回転し――くるりと回った風圧で、その尻尾から風の刃を繰り出した。
『受けよ、我が必殺の刃――月光の疾風斬!!』
(とんでもない技名キター!)
一瞬もしやスキルだろうかと思った太一だったが、発動のタイミングを見るとちょっとずれているのでルークが付けた技名だろう。
今や高貴なるフェンリルだと自称するルークらしいなと、太一はなんとも微笑ましい気持ちになる。
「っと、名前に気を取られてたけど……威力は――」
(はい?)
見た光景に、思わずぽかんとしてしまう。
青のドラゴンはスパッと首が落とされ、もうすでに息絶えていたからだ。まさか、こんなあっけなく勝負がついてしまうとは。
前のドラゴンのときといい、本当にルークは強かった。
(そんなルークをテイムした俺って、やっぱりやばいやつなんじゃ……)
しかし今更ルークとバイバイすることなんて考えられないので、太一は首を振って今のことは考えないようにする。
『タイチ! 降りて来てはやくドラゴンステーキを作ってくれ!』
ぶんぶん尻尾を振り、『早く!』とルークが急かしてくる。ついさっきあれほど格好よくドラゴンを倒したばかりだというのに、今はとても愛らしい。
「わかったわかった!」
慎重に木から下りて、太一はすぐに【ご飯調理】を使う。
魔力草は鞄に入っているので、ドラゴンの肉と一緒に使いあっという間にドラゴンステーキが出来上がった。
ルークの大好物だ。
「ほら、好きなだけ作るから、たくさん食べていいぞ」
『んむ!』
すぐに頬張って、美味しそうにドラゴンステーキを食べてくれる。前回と同じく、とてもいい匂いだ。
(うさぎクッキーは普通に美味しかったし、もしかして俺もドラゴンステーキを食べれるんじゃないか?)
「なあ、ルーク。ドラゴンの肉って、人間が食べても大丈夫か?」
『ん? 特に毒もないし、食べて問題ないと思うぞ。そういえば昔、人間にとってドラゴンの肉は至高の食材とか言う輩もいたらしいぞ』
「へえ……」
それならば、味の方はかなり期待ができそうだ。
毒がないのであれば、安心安全。味はルークを見ていれば美味しいのだというのはよくわかる。
追加でドラゴンステーキをいくつか作り、自分とルークの前に置く。
「よーし、俺もいただきます!」
さっそくかぶりついてみると、表面のカリッとした噛み応えのあと、すぐに溢れ出てくる肉汁が口内いっぱいに広がった。
まるでドラゴンが口の中で暴れているみたいだ。
そして肉はとても柔らかく、噛むとすぐにとろけてしまう。力強いドラゴンの外見から、こんな柔らかな肉をいったい誰が想像できただろうか。
「~~っ、美味い!」
太一がめいっぱい叫ぶと、すぐにルークが頷いた。
『調達したオレを褒めるんだな!』
「いや、本当にすごいよ。やっぱりルークは強いんだな。この世界で初めての相棒がルークで、本当によかったよ。もふもふカフェも付き合ってくれるし。……愛想は悪いけど」
太一がそう言うと、ルークは照れたのか顔を背けた。
そして一言。
『あれはビーズクッションが気持ちいいから、あそこを俺の縄張りにしているだけだ!』
別にお前に付き合っているわけではないと、尻尾を振りながら説得力のない説明をしてくれた。
そんなルークを見て、また運動に付き合ってあげようと思う太一だった。




