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異世界もふもふカフェ  作者: ぷにちゃん
第一章 テイマー、もふもふフェンリルと出会う
25/90

24 魔物のおやつが大人気

 おやつの調理スキルで作ったクッキーは、うさぎの形をした可愛いものだった。大きさは人間で考えると一口サイズだ。


 さっそくヒメリが袋から取り出し、表情を輝かせている。そして手に取って、ぱくりと一口で食べてしまった。


「うおおおぉい、何食べてるの!?」

「だって、美味しそうだったからつい……」

「いや、その気持ちはわかるけど……」


 そう、うさぎクッキーは従魔用のおやつではあるのだが、人間用ですと売られていたとしても、まったく問題ない出来になっている。


 もぐもぐしているヒメリは、味わいながら頷いて指を立てた。


「美味しい!」

「まじか……」


 魔物ようなので味は控えめだったりするのかと思っていたが、そうでもないらしい。太一も真似してうさぎクッキーを口に入れる。

 さくっとして、香ばしさに思わず頬が緩む。


(これは普通に自分のお菓子でも問題ないぞ……)


 材料だって、月下草を除けば普通に人間が食べれるものだ。その月下草も、ポーションの材料になるのだから体に悪いものではないだろう。


(小腹が空いたときにでも食べようかな)


 そんなことを考えていると、お菓子の匂いに釣られたのかベリーラビットたちが寄ってきた。


『みっ』

『み?』

『みみ~っ!』

「きゃっ、みんな食べたくて仕方ないみたいだね」


 ヒメリがくすくす笑って、ベリーラビットたちの頭を撫でる。すると、気持ちよさそうに目を細めた。

 すると、ビーズクッションで寝ていたルークもこちらへやって来た。


『なんだなんだ、いい匂いだな! もちろんオレの分もとっておきがあるんだろう?』

「あ……」


 しまった! ルークの分は作っていなかった!! と、太一が慌てると、ヒメリがルークにうさぎクッキーを差し出した。


「このクッキーすごく美味しいよ、どう?」


 ルークを警戒させないよう笑顔を見せるヒメリだが、ルークは『ふんっ』と鼻を鳴らして太一のところへやってきた。


『仕方ないから今はそのクッキーで我慢してやる。俺の配下が食べているものも、知っておく必要があるからな』


 といいつつも、ルークの尻尾は今日も絶好調だ。

 そしてふと、太一にもしかしてというワードが浮かび上がる。


(人見知りか……?)


 森の中でずっと一匹だったし、きっとそんなこともあるのだろう。だったら、太一も無理せずルークを見守ってやるだけだ。


「俺がルークにあげるから、ヒメリはベリーラビットたちにあげてもらってもいい?」

「もちろん!」


 ということで、太一はうさぎクッキーを取り出してルークの口元へ持って行く。


「ニンジンと苺と月下草を使ったクッキーだよ」

『なんだ、肉は入っていないのか』

「さすがにクッキーに肉はどうかと思うけど……」


 若干不服そうにしつつも、ルークは素直にうさぎクッキーを口にした。すると、耳がピン! と反応して、ピクピク動いた。


(あ、美味しかったんだ……)


 人間の食べ物を美味しいと食べているルークなので、太一が味見して美味しかったうさぎクッキーが不味いわけがない。


『ふもふも……まあ、なかなかだな!』

「それはよかった」


 ルークが尻尾を振りながら、『もっと食べられるぞ!』と胸を張る。早く早くとつぶらな瞳も向けられて、あげざるをえない。


「でも、あんまり食べ過ぎもよくない……か?」

『そんなもの、運動すれば問題ない。オレは高貴なるフェンリルだぞ、ほかの低俗な魔物と一緒にするんじゃない!』

「はいはい」


 運動に付き合う約束もしたし、本人もこう言っているから仕方がない。太一は追加のうさぎクッキーを袋から取り出した。

 すると、すぐにルークが大口を開けてかぶりついてきた。


「うわっ! ちょ、俺の手まで食べないで!!」


(食いちぎられるかと思った……!)


 そんな太一たちを見つつ、ヒメリもうさぎクッキーを袋から取り出して、ベリーラビットたちに「おいでおいで~」と声をかける。


『み~っ』

『みみっ』


 すぐにわあっと一〇匹全員がヒメリの周りに大集合して、口を開けて待っている。


「うぅ、可愛い……」


 思わず口元を押さえる。悶絶するヒメリのライフはもうゼロだ。


「こんな可愛い子におやつをあげれるなんて、幸せだぁ」


 ヒメリがうさぎクッキーを一つ手に持って差し出すと、我先にとベリーラビットたちが食いついてきた。


『みみみっ!』

『みーっ!!』


 その勢いはすさまじく、先ほどまでの可愛く大人しかった姿が嘘のようだ。まさにこの世が弱肉強食だといわんばかり。


「はわわわわっ!」


 さすがのヒメリもおやつを前にしたベリーラビットたちに驚いたようで、圧倒されてしまっている。

 持っていたうさぎクッキーは、一瞬でなくなってしまった。


『み~』

『みみ~』


 とたん、ベリーラビットたちがしょんぼりした表情を見せる。さすがに、一〇匹でうさぎクッキー一枚は全然足りない。

 食べられなかったベリーラビットが、寂しそうな顔で泣いている。


「あわわ、大丈夫だよ! ちゃんとまだあるから!!」

『みっ!』


 ヒメリの言葉にベリーラビットたちが顔を輝かせ、嬉しそうな声をあげたのだった。



 ***



 そして後日。

 もふもふカフェのメニューに、『おやつのうさぎクッキー』三〇〇チェルが加わった。


「お、なんだこれ?」


 やってきたのは、常連になりつつある三人組の冒険者。グリーズ、アルル、ニーナの三人。

 いつものようにドリンクを頼み、増えたメニューに興味津々の様子だ。


「ふっふー。いいところに注目しましたね!」


 太一がおやつシステムを説明すると、真っ先にニーナが目を光らせた。


「はいはい! 私、おやつも一つ!」

「俺もだ!」

「わたくしはお茶だけで結構だわ」


 ニーナがおやつを注文し、アルルはすまし顔でいつもくつろぐソファへ行ってしまった。それを見て、ニーナが口を尖らせる。


「アルルもおやつをあげたらいいのに」


 触れ合えるいい機会なのにと、ニーナは言う。けれど、アルルは「別に」と一言告げただけだ。

 そんな彼女を見て、グリーズとニーナは苦笑する。


「あんなこと言いつつも、毎回このカフェに来るの反対しないのよね」

「まあ、ここは飲み物も美味いからな」


 仕方がないと言いながら、グリーズとニーナもそれぞれベリーラビットたちとたわむれに行く。

 みんな、この三人は常連ということもあってすぐによってきてくれる。


(急いで飲み物とおやつを用意しないと!)


 とはいっても、お湯を入れるだけというお手軽なドリンクメニューだけれど。


(結局、メニューもそんなに増やしてないしなぁ)


 店員が太一一人ということもあって、やはりこのくらいがちょうどいいのだ。増やして忙しくなったら、疲れてしまう。

 ささっと飲み物とうさぎクッキーを用意していくと、待ってましたと言わんばかりにグリーズとニーナが手を出してきた。


「どうぞ。開けた瞬間、すごい勢いでくるから気を付けてくださいね」

「ん? おう!」


(絶対にわかってないな……)


 太一の忠告も虚しく、グリーズはすぐさま袋を開ける。すると、太一の予想通り、ものすごい勢いでベリーラビットたちが突っ込んできた。


「うわああああっ!」


 さすがのグリーズも驚いたようで、声をあげて後ろに下がった。しかし、ベリーラビットたちにとってはそんなことはどうでもよくて、開いた袋一直線だ。


『みみっ』

『み~っ』


 美味しそうにモグモグうさぎクッキーを頬張って、満足そうにしている。


「うわ、すごい食欲……。でもよかったねグリーズ、人生最初で最後のモテ期だよ!」

「うおーい、なんてこと言うんだ! 最後じゃねえ!!」

「あはは」


 まだまだこれからモテるんだと叫ぶグリーズに、ニーナは笑う。


「私は一枚ずつゆっくりあげようっと」


 こっそりうさぎクッキーを取り出し、ちょいちょいとベリーラビットを釣る。端っこにいたベリーラビット数匹だけがニーナのところへやってきたので、こちらは比較的穏やかなおやつタイムになったようだ。


 そんなニーナを見て、グリーズは「奥が深いぜ、もふもふカフェ……」と呟くのだった。

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