22 店員(もふもふ)の福利厚生を考える
太一の経営する『もふもふカフェ』は、週休二日制だ。
今日は定休日ということもあり、ルークやベリーラビットたちと遊びつつのんびり過ごしている。
「なあなあ、ルーク」
『ん? なんだ』
「ルークやベリーラビットたちの待遇改善をしようと思ってるんだけど、こうしてほしいとか、そんな要望はあるか?」
『ふむ……。オレたちのために改善しようとする心意気はいいな!』
ルークがぶんぶん尻尾を振り、『重要なのは食事と運動する環境だ』と言った。
『ああ、でも勘違いするなよ』
「うん?」
『一番大事なのはこのビーズクッションだからな』
たとえ場所を移動したとしても、ルークは自分のビーズクッションを決めていてそれを持ち歩いている。
ベリーラビットたちも、それがルーク専用だとわかっているらしく使うことはない。
「環境かぁ……ベリーラビットたちも、外で運動した方がいいかな?」
『み~?』
太一がそう問いかけると、ベリーラビットたちはソファでごろごろ転がったり室内を走り回ってみせた。
ご飯がもらえて雨風のない店内の環境をとても気に入っているのだということが、よくわかった。
(外だと、冒険者に狙われたりとか……そんな怖い経験があったのかもしれないな)
室内を気に入ってくれているならそれでいいと、太一は納得する。
「ルークは裏庭で走るか?」
『高貴なオレ様があんな狭い庭で満足するわけないだろう! たまに狩りに連れていけ』
「ええぇ!? 運動が狩りって……さすがフェンリルだな。でも、体を動かすのは大事だもんな。わかった、時間を作って定期的に付き合えるようにするよ」
『絶対だぞ!!』
ルークの尻尾が大きく揺れるを通り越して、プロペラのようにぐるんぐるん回っている。太一が一緒に狩りに行ってくれると言ったのが、よほど嬉しかったみたいだ。
(このツンツンデレさんめ~! 可愛い~~!!)
「よーし、となると……あとは『食』か」
今は市場で買ってきた果物や野菜、肉類をあげることが多い。本当はスキルで作ったらいいのかもしれないが、なかなか材料が揃わない。
太一はキッチンに行き、食事事情を考える。
ベリーラビットたちは苺とニンジンをあげていて、ルークは肉だ。といいつつ、ルークは割となんでも食べる。
「苺とニンジンで何か作れたらいいかもしれないな。【おやつ調理】」
《調理するには、材料が足りません。苺、ニンジン、月下草、小麦粉、卵があれば『うさぎクッキー』が作れます》
これなんか、作れたらおやつとして販売するのにちょうどいい。
ただ、『月下草』というものが何かわからない。市場などで鑑定を使って歩いたけれど、それらしきものは売っていなかった。
「何か特別なものなのか……うぅむ」
そしてふと、テイマーギルドで聞いてみたらいいのではと閃く。そういえば、なんだかんだでシャルティにカフェを始めたことも伝えていなかった。
(忙しかったから、すっかり忘れてた……)
ということで、善は急げだ。太一は支度をし、ルークを連れてテイマーギルドへ向かった。
***
「あ、タイチさん!! 最近全然来てくれなかったから、心配してたんですよ!」
「すみません……」
いつもながら人のいないテイマーギルドに入ると、カウンターで暇そうにしていたシャルティが頬を膨らませた。
「それで、今日は……いないようですね?」
「うん?」
キョロキョロと太一の周りを見ているシャルティに、首を傾げる。
「ルークならここにいますけど」
『わう』
太一にしかルークの言葉はわからないが、翻訳すれば『高貴なオレが目に入らないのか? これだから人間は!』だ。
「違いますよ、新たにテイムした魔物です! もう、ベリーラビットが一〇匹も一気に来たときは本当にびっくりしたんですからね……」
「あー……」
またあの驚きを味わうのかと、警戒してしまったようだ。太一は苦笑して、シャルティの言葉に首を振る。
「違いますよ。今日は聞きたいことと、カフェをオープンしたことを伝えに来たんです。週休二日なので、明日までお休みですけど」
「それはおめでとうございます! タイチさんの担当受付として、嬉しいです!」
(シャルティさんて俺の担当だったのか……)
「暇なときにでも遊びに来てください」
「はい!」
無事にもふもふカフェの開店を伝えることができたので、ほっとする。次は本題の、月下草についてだ。
「それでも、聞きたいことがあるんですよね?」
「はい。月下草というものがほしいんですけど、どこで手に入るかわからなくて」
「月下草ですね」
どうやら一般的なものだったようで、シャルティはすぐに頷き図鑑を持ってきてくれた。
パラパラとめくり、一枚のページで止まった。そこには、薄緑色で白色の花の絵が描かれていた。
「これが月下草です。採取できるのは、月の出ている真夜中だけです」
「ええ、夜中……ですか」
いくらルークがいるとはいえ、魔物がいる異世界で夜中に出歩くのは怖いものがあるなと考える。
(この世界は街灯もないし)
そもそも森だし。
太一がどうしたものか悩んでいると、シャルティが「購入するなら――」と言葉を続けた。
「あ、売ってるんですか?」
「もちろんです」
(じゃあ、俺の探し方が悪かったのかな? 売っている店は特になかったように思う)
「月下草は、魔法屋に売ってますよ。ここから五分くらい歩いたところにありますよ」
「魔法屋……」
市場ばかり見ていたので、魔法系のものが売られている店は見ていなかった。というか、存在を知らなかった。
(でも、そうだよな……ここはファンタジーな異世界だ)
魔法専門店があったとしても不思議ではない。
真夜中採取に行く羽目にならなくてよかった。それに、もしそうだったら販売値も悩むところだ。
「それにしても、月下草なんて何に使うの? ポーションを作る材料……っていう話は聞くけど」
「魔物のおやつを作ろうと思って」
「ああ、タイチさんは調理スキル持ちでしたもんね。月下草が材料なんて、なかなかにいいものを食べさせていますね……」
ルークに向けられるシャルティの瞳が、なんとなく羨ましそうだ。
(え、そんなに高いの……?)
ちょっと不安に思いつつも、まずは現物を見るに限る。
「ひとまず、その魔法屋に行ってみます」
「はい! いってらっしゃい!」




