19 もふもふ仲間
「わあ、こんなところにお店ができてたなんて知らなかった!」
太一がヒメリをもふもふカフェに招待すると、嬉しそうに店内を見回した。さっそく寄ってきたベリーラビットを優しく撫でて、楽しそうにしている。ベリーラビットは基本的に人懐っこい性格のようだ。今のところ、誰に対しても愛想がいい。
ルークは誰に対しても愛想が悪いけれど……まあ、それももふもふカフェの醍醐味だ。
ちなみに、開店まではまだ二時間ほどある。
ルークはすぐビーズクッションに座り、お昼寝を初めてしまった。……昼ではないけれど。
「わあ、すごい……! ベリーラビットが一、二……え、一〇も!? ルークがいるから、一一匹も従魔がいるの!? タイチってすごいのね!」
「あはは」
『み~?』
たったこれだけで褒められるなんて、この世界のテイマーはどれだけレベルが低いんだろうと太一は思う。
いや、そもそもテイマーの人口が少なすぎてあまり知られていないのかもしれない。
「でも、まだ開店前なのに……お邪魔してもよかったんですか?」
「ん? ああ、大丈夫。のんびり経営だから。それにさ、魔物だから、撫でたいって言ってくれる人がほとんどいなくて。だから、もふもふ好きは大歓迎……あ、ごめん、別にやましいこととかを考えてたわけじゃないよ!?」
太一としては、純粋なもふ仲間だと思っていただけで、決して、けっしてやましい気持ちはない。
必死に「違うよ!?」というと、ヒメリが笑う。
(というか、こんな年下は守備範囲外だからな!?)
「あはは、タイチって面白いね。大丈夫だよ、私……これでも強いんだから!」
つまりやましい感情を持っていたら、返り討ちにされていたということだ。太一はひえっと息を呑む。
「ローブを着てるから、魔法使い……?」
「そうよ。まあ、冒険者っていうところね!」
「へえぇ」
確かに言われてみると、強そうだなと思う。
太一はテイマーなので無理だろうけれど、火の魔法なども使ってみたかったな、なんて思う。
「……っと、そういえば突然誘っちゃったけど、時間とか朝ご飯とか、大丈夫だった?」
「実はまだで……」
「じゃあ、簡単なものを用意するよ。ベリーラビットと一緒に待ってて」
「ありがとう!」
***
太一はキッチンにやってくると、さっそくスキルを使う。
本当は市場で食材を買えたらよかったが、肉焼きを食べたりしていたこともあり何も買っていなかった。
「【お買い物】っと!」
こんなときは猫の神様にお願いだ。
出てきたメモに、パスタ、レトルトのミートソース、サラダ二つ、イタリアンドレッシングと書く。
しばらくすれば、買い物したものが手元にくるだろう。
その間にすることは、鍋でお湯をわかし食器を用意しておくことだ。
「もふもふカフェに相応しい食器を【創造(物理)】スキルで作っておいたからね」
バッチリだ!
ヒメリは女の子なので、食器などの感想をもらえるかもしれない。もし使いにくいなどあれば、改善していく予定だ。
お鍋のお湯が沸くと、タイミングよく頼んでいたお使いが終わった。お金を払い材料を手にすると、さっそく調理開始だ。
(って言っても、パスタを茹でてレトルトソースをお湯で温めるだけだけど……)
ひとまず両方鍋に入れて、しばし放置だ。
その間に、一緒に頼んでおいたサラダをお皿に移してドレッシングをかける。
「お~、お洒落な食器にサラダを盛っただけだけど……すごくカフェっぽくていいな」
次に出来上がったパスタとソースを絡めて、お皿に盛れば完成だ。果実水と一緒にトレイに載せて、店内へ続くドアを開ける。
「お待たせ……って、だいぶ満喫してるね」
「あっ」
『みっ』
太一が店内に入ると、もふもふのクッションに寝転がりベリーラビットと遊んでいるヒメリがいた。
「わ! 私ったら。だってこの子たちがすっごくもふもふで、毛色も綺麗で……今まで魔法で倒してたのを申し訳なく思っちゃう」
『み~っ』
今度からは見かけても倒さないからね~と、ヒメリがベリーラビットに話しかけている。
冒険者だからどうしようもないこともあるだろうけれど、世界規模でもふもふ度が上がることはいいことなので太一は黙って頷いた。
「冷めないうちに食べちゃおう。簡単なものしかないけど」
「わ、ありがとう! パスタ大好きなの」
さっそく席について食事を始めると、ヒメリが目を見開いた。
「んんっ! なにこのパスタ、すっごく美味しい!!」
「そう? 普通のやつだけど……」
「全然普通じゃないよ……麺はもっちりしてるし、ソースなんて濃厚だし」
ヒメリの感想を聞いて、確かにこれはすべてが日本製なので……生活水準の低いこの世界の一般人から見ればご馳走の部類にはいるのかもしれない。
(貴族なら、もっと美味しいの食べてたりするかな?)
まあ、貴族と関わるつもりはないので、自分がその味を確かめることはないだろうけれど。
「気に入ってくれたんなら嬉しいよ。実は、軽食メニューにしようかなって思ってたから」
「そうなんだ! 食器もすごく可愛いし、絶対に大人気だよ!」
「よかった。ヒメリの意見を聞けて、ほっとしたよ」
間違いないと言ってくれるヒメリに、太一も軽食を始めても上手くいきそうだと頷く。
(あとで暇な時間にメニュー表を作り直そう)
太一がそんなことを考えていると、足元から『みっ!』とベリーラビットの鳴き声がした。
どうやらお腹が空いているので、ご飯がほしいらしい。
「可愛い、私があげるね~!」
「あー、待って! この子たちにはちゃんと餌があるから、そっちを」
「そうなの?」
いくら魔物といえど、人間と同じ食べ物はよくないかもしれない。ということで、ベリーラビットには餌として苺をあげているのだ。
「用意してくるから、ちょっと待ってて」