18 軽食メニューを考えよう
初日にお客として来てくれたグリーズたちを見ると、この世界では本当にもふもふとの触れ合いがないようだ。
そこで太一は考えた。
「軽食を用意して、もっと長時間のんびりしてもらえばいいんじゃないか……?」
と。
今日ももふもふカフェを開店したが、まだお客さんは来ていない。ということで、太一はキッチンで自分に何ができるだろうかと考えることにした。
以前は食堂をしていた場所なので、設備は十分。
ただ、問題は……太一に料理の腕があまりないということだろうか。
「うーん、仕事が忙しかったせいで、飯はカップラーメンかコンビニだったからなぁ……」
自分で自炊をする時間なんてなかったし、あるなら一分でも長く寝ていたかった。
「あ、TKGならいけるんじゃないか? 最近は専門店だってできたくらいだったし」
しかし、この世界の人たちは米に生卵をかけて食べたりするだろうか? よくよく考えると、太一はこの世界に来てから米を口にしていない。
もしかしたら、この地域は米が主流ではないのかもしれないな……と、考える。
ほかに手軽に作れるものといえば、サンドイッチなどだろうか。
さすがにパンを焼いて野菜を挟むくらいであれば、太一でも問題なく作ることは可能だ。
「あ、それか買い物スキルでレトルトを購入するのもありか」
これは太一が社畜時代にとてもお世話になっていたもので、美味しいパスタやカレーなど、いろいろおすすめしたいものがある。
しかしカフェの軽食といえば、オムライスやナポリタンでは? と、考えてしまう。単に自分が好きということもあるが。
「でも、オムライスは難易度が高すぎるよな……」
とてもではないが、ふわとろ仕上げにできる気がしない。
「とりあえず、何かいい食材がないか明日の朝にでも街に行ってみるか……」
***
そして翌日、太一はルークと一緒に朝の市場へやってきた。ベリーラビットたちは店でいい子にお留守番だ。
市場は街の南西にあり、店から街の南門を抜ければ比較的すぐに行くことができる。
採れたての野菜や卵が多く並び、肉や川魚も並んでいる。焼き立てのパンや食べ物の屋台も出ていて、朝食をとっている人もいるみたいだ。
しかし残念ながら、米を売っている店はない。
(お米はお使いスキルを使って、神様にお願いしよう)
野菜や肉などは、大量に必要という訳でもないので、毎朝ここで仕入れれば問題ないだろう。
『タイチ、腹が減った。あそこで肉焼きを買おう』
「え!? まあ、俺も減ってるし……買うか」
ということで、二本ずつ肉焼きを買ってすぐ横のベンチに座って食べる。
太一が一口かぶりつくと、中からじゅわあっと肉汁が溢れ出た。とても柔らかい肉で、口の中で溶けてしまいそうだ。
「ん~! うまい!」
『こら太一! 俺にも食わせろ』
「もちろん」
太一が肉焼きをルークの前に持って行くと、美味しそうにかぶりついた。上手に肉から串を外し、頬ばっている。
『んむ、まあまあだな!』
「まあまあなのか……」
(普通に美味いと思うけど、ルークは美食家なのか?)
『お前が作った飯の方が上手いからな! またドラゴンステーキも作ってくれ』
「――! わ、わかった」
いつもツンツンしているルークから不意打ちのように褒められて、太一に動揺が走る。
しかしそう言ってもらえたのだから、盛大に料理スキルを使ってフルコースを! と、気合が入る。
(あ、どうせ魔法の鞄があるんだから……食材をいろいろ買ってしまっておけばいいんじゃないか?)
そうすれば、材料を探して四苦八苦することも減るかもしれない。
太一がそんな計画を立てていると、「可愛いわんちゃんね!」と声をかけられた。
「こんにちは! 私はヒメリ。ねえ、この子はあなたの従魔なの?」
そう言って話しかけてきたのは、とても可愛い女の子だった。
(高校生くらいの年齢……かな?)
異世界といわんばかりの、可愛らしいピンクの髪。それを小さなお団子にして、リボンのヘアアクセサリーを付けている。
服装はローブなので、きっと魔法系の冒険者なのだろう。
ぱっちりとした黄色の瞳は、太一とルークのことをじっと見つめている。
「うん。俺はテイマーの太一。こっちは相棒のルークだ」
「そうなんだ! よろしくね、タイチ、ルーク。ねえ、触ってみてもいい?」
「ルーク、いいか?」
『……嫌だ』
(おっと……)
可愛い女の子が触りたいと言っているのに断るとは……! 太一は軽い衝撃を受けつつも、種族が違うせいもあるかもしれないと考える。
(どっちかっていうと、フェンリルの雌にもてた方がルークも嬉しいだろうしな……)
ちなみに、太一はフェンリルの雌にもてたらめちゃくちゃ嬉しい自信がある。もふもふを堪能できて、最高だ。
太一とルークのやり取りを見ていたヒメリが、どこか不安そうな顔をする。
「もしかして、触らない方がよさそう?」
「あー……ルークは人に触られるのが苦手みたいで。ごめん」
「うぅん。従魔は気難しい子もいるって、聞いたことがあるから」
残念だけどあきらめるというヒメリに、太一はそれならばとある提案をする。
「よかったら、俺のやってるもふもふカフェにこない? ルークは無理だけど、ベリーラビットがいるんだ。触れ合えたら、きっと楽しいと思う」
「もふもふカフェ……?」
ヒメリはぱちくりと目を瞬いた。