15 開店準備
無事にもふもふカフェの店員であるベリーラビットをテイムし終え、太一たちは街へ戻った。
ベリーラビットが一列になり、『みっ』『みっ』『みっ』と鳴きながら太一の後ろをついてくるのはとても可愛い。
今回はテイマーギルドカードがあるので、街にもスムーズに入れる……はずだった。
「な、なんだその大量のベリーラビットは!!」
門番の兵士にめちゃくちゃ驚かれたうえに止められてしまった。
テイマーという職業がある世界なのだから、そこまで驚かなくても……と内心思いつつ、太一はギルドカードを見せる。
「テイマーで、一緒にいるウルフとベリーラビット一〇匹は従魔です。従魔なら、街へ入れても問題ないですよね?」
それは前回ルークと一緒に街に入ったのでわかっている。しかも今回は、ルークより圧倒的に弱いベリーラビットだからなおのこと。
しかし、門番は口元をひくつかせている。
「もちろん従魔であればいいが、テイムできる数はスキルレベルに依存するんじゃないのか……?」
「えっ……」
門番の言葉に、太一は一瞬固まる。
(俺のスキルレベル、全部レベル∞なんだけど……)
確かにレベルがあるのだから、レベルによって何かしらの違いがあるとは思っていた。
(スキルの成功率か何かだと思ってたけど……)
どうやらテイムできる魔物の数がスキルレベルに比例していたようだ。
「えーっと、弱い魔物だから、そこまですごいことじゃないですよ?」
――と、とりあえず苦し紛れの言い訳をしてみた。
「そ、そうか……? でもまあ、俺も何レベルで何匹テイムできるとか知らないからな……こんなもんなのか?」
「そんなもんですよ。小動物をテイムして、いつの間にかレベルが上がってたのかもしれませんし」
「まあ、一理あるか」
太一の苦しい説明にも関わらず、門番は納得するように頷いた。そのことにほっと胸を撫でおろし、太一はテイマーギルドへと向かった。
そして同じようにシャルティに驚かれつつも従魔として登録をし、商業ギルドでカフェを始める旨を伝えてカフェへ帰ってきた。
***
『いいか、新入り。このビーズクッションは俺のだからな』
『みっ』
『み!』
カフェに戻るとすぐ、ルークがビーズクッションに寝転んだ。よほどお気に入りだったみたいだ。
「すっかりルーク専用になってるな……。いいけど」
『これは最高だからな!』
ふふんと鼻を鳴らすルークに、太一は笑う。
「気に入ってもらえたなら、嬉しいよ」
ベリーラビットもテイムしているからか、カフェスペースでのんびりくつろいでくれている。
ルークと同じようにクッションで寝ているのもいれば、元気に走り回っている子もいた。
(うんうん、みんな可愛いぞ)
これならいつカフェを開店しても問題はない! ――と言いたいところなのだが、あと一つ足りないものがある。
それは、カフェで提供するメニューだ。
ただ、問題が一つ。
この世界のお茶の種類が少ないということ。いや、少ないというよりは、高級品に含まれていると言った方がいいだろう。
安価なものもあるが、味が……まあ、残念なのだ。
なので、この世界では水と果実水、もしくは酒類がメインになっている。
「癒しのカフェの飲み物が不味いのは、俺が許せない……! ということで、とっておきのスキルを発動する……!!」
いくつかある固有スキルで、まだ使っていないものがある。
「よーし、スキル【お買い物】!!」
このスキルは太一が助けた猫の神様に、日本でお使いをお願いすることができるというとんでもないもの。
すると、太一の目の前に一枚のメモ用紙とペンが現れた。そこには『お使いリスト』と書かれていて、丸印が五個あった。
どうやら、五個までお使いを頼めるようだ。
「えーっと、粉を溶かすだけの煎茶、アールグレイのティーバッグ、インスタントコーヒー、クッキー、チョコレートっと」
ひとまず最初のメニュー作りとしては、これくらいあれば十分だろう。余裕ができたら、コーラやオレンジジュースなど増やしていきたいところだ。
「最終的にはドリンクバー? さすがに難しいか」
なんて言って笑っていると、持っていたメモ用紙とペンが消えた。
(猫の神様のところにいったのかな?)
初めて使ったので、いまいち使い勝手はわからない。一分ほど待ってみるも、何も変化は起こらない。
待っているだけではあれなので、メニューを作ることにした。
「メニューを【創造(物理)】っと」
テーブルの上に置く個別のメニューだと、もふもふたちのおもちゃにされてしまうことがある。そのため、壁掛けを一つだけ作る。
レジにする予定のカウンターの横の壁に、動物の形の看板が設置される。
メニュー
お茶 HOT/ICE
コーヒー HOT/ICE
紅茶 HOT/ICE
クッキー
チョコレート
メニューはとてもシンプルになってしまったが、太一が一人で経営するのだからこれくらいがちょうどいい。
すると、タイミングよく太一の目の前に買い物袋が現れた。中を見ると、さっきのお買い物メモに書いておいたものが入っている。
レシートも一緒に入っており、日本円の会計二八〇〇円の横に二八〇〇チェルと書かれていた。
「どうやって渡せばいいんだ?」
そう思いつつ財布からお金を取り出すと、すっと消えてしまった。どうやら、猫の神様が回収してくれたようだ。
「えーっと、ありがとうございます! 神様!」
太一がそう言うと、どこからか『にゃー』と聞こえた気がした。
――さあ、開店準備が整いました。