13 商業ギルド
そして翌日、住居分の家具なども創造した。
これで快適に暮らすことができるだろう。細かい雑貨類まで創造するのは大変だったので、そこはお店にいっていろいろ購入をした。
ルークが室内をうろうろし、『ふむ』と唸る。
『まあまあいいんじゃないか? 俺様が暮らすには、少々手狭ではあるが……』
「はは、気に入ってもらってよかったよ。――あ」
『ん? どうしたんだ?』
「大事なものを忘れてたと思って」
太一はルークを連れて、居住スペースの二階から店舗スペースの一階へと下りた。
「ここはもふもふカフェなのに、お店の看板がないだろ?」
『なんだ、そんなことか……』
「いや、大事なことだよ!?」
外に出て、外観を確認する。ドアには何もついていないので、ドアベルもさくっと創造しておく。
(よしよし、いい感じだ)
「疲れを癒せるような、そんなカフェになったらいいから――【創造(物理)】」
脳裏で看板を思い浮かべ、それを形にする。
すぐに、太一の目の前に立て看板ができあがった。せっかくなのでルークをモチーフにした、愛らしい看板だ。
そこに書かれた店名は、『もふもふカフェ』。
一緒に、安らぎと癒しの空間をという一文と、お茶のイラストが添えられている。これならば、ここがカフェだということはわかるだろう。
ちなみに、営業時間は11時~17時だ。
(のんびりカフェだから、長時間営業は絶対しない!)
過労駄目、絶対。
前世と正反対なことをして、ホワイトに尽くす所存だ。
「とはいえ、勝手に営業するのは駄目だよな。商業ギルドがあるから、そこに行ってみるか。ルークはどうする?」
『長ったらしい説明を聞くのか? 俺はビーズクッションで昼寝でもしている』
「わかった。じゃあ、ちょっと行ってくるな」
『ああ』
留守番をしてくれるルークを置いて、太一はさっそく商業ギルドへやって来た。
冒険者ギルドと同じくらい混んでいたが、こちらはカウンターが細分化されているようで比較的スムーズに人が回っている。
太一は『新規の届け出』と書かれているカウンターへ行った。
「いらっしゃいませ。ご用件を承ります」
「こんにちは。テイマーのタイチ・アリマといいます。従魔と触れ合えるカフェをしたいんですが……」
「従魔……魔物と、ということですか?」
受付嬢は太一の言葉を正確に受け取るも、不思議そうに首を傾げた。
(く……誰ももふもふの素晴らしさをわかってくれないのか……!!)
しかし、今はまだ耐えるべきときだ。もふもふカフェを正式にオープンすれば、誰もが虜になってしまうことは間違いない。
「そうです!」
太一が力いっぱい返事をすると、受付嬢はくすりと笑った。
「不思議なことを考えるものですね……。テイマーであるならば、問題はありません。実際、従魔を仕事で使っている人はいますから。重い荷物の運搬などですね」
「あ、そうだったんですね」
一番懸念していた、魔物を使ってカフェを開くという部分をあっさりクリアすることができてほっと胸を撫でおろす。
「ただ、条件があります」
「条件?」
「はい。狩りなど戦闘を行う分には問題ないのですが、人間と関わる仕事に従事する際はテイマーギルドへの登録が必須となります」
テイムしているというのは大前提だが、口ではどうとでも言うことができる。商業ギルドとして管理することを考えると、当然のことだろう。
「問題ありません」
「ご理解いただきありがとうございます。では、税金に関する説明をさせていただきますね。店舗の場所と個人か、商会かでも変わってきますが……」
「個人ですね。店舗は、街の郊外の物件をテイマーギルドで貸してもらいました」
「かしこまりました」
太一の説明を聞き、受付嬢は「準備が順調ですね」と書類を取り出した。それには、個人営業をしている人向けの説明が書かれていた。
個人営業の場合、税金は三パターンある。
街の中心の場合、売上の15%を税金として納める。
街の中心以外の場合、売上の10%を税金として納める。
街の郊外の場合、売上の5%を税金として納める。
太一は街の郊外でカフェをするので、税率は5%だ。
(お~、結構良心的じゃないか?)
サラリーマンだったので自営業のことはわからないが、高くないというのはなんとなくわかる。それに、場所によって税が固定されているというのも計算しやすくていい。
毎月商業ギルドに収めることになるので、それだけ忘れないようにとのことだ。
「もうすぐに開店するんですか?」
「そうですね、もう整って――」
そこまで言って、太一はハッとする。
「?」
「いえ、あの……もう少し準備が必要でした」
「そうでしたか。では、開店日が決まりましたら、またここのカウンターに来てください」
「はい」
受付嬢にお礼を言って、太一は急いでもふもふカフェ――もとい、家へ急いだ。
さすがに街中から郊外だけあって、ダッシュし続け……られなかった。体力がないので、運動もしようと心に誓う。
なんどか歩いて走ってを繰り返し、太一は家へ帰ってきた。
勢いよくドアをあけると、先ほど作ったドアベルがチリリンと鳴る。それを聞き、ビーズクッションで気持ちよく寝ていたルークが目を覚ました。
『孤高のフェンリルの目覚めを人間ごときが行うとは――どうしたんだ、太一』
いつもの中二病のような台詞を言おうとしたルークが、息を切らしてあわあわしている太一を怪訝な顔で見つめる。
何かあったということは、一目瞭然だ。
「大変だ、もふもふカフェを開店するための――もふもふが足りなかった!!」
『……そんなことか』
「いやいや、俺にとっては重要なことなんだぞ!?」
せっかく店舗ができたのに、もふもふがいなければもふもふのよさを人に伝えることができないじゃないか。
太一がそう言うと、ルークがふんっと鼻で笑う。
『それならテイムすればいいだろう、お前はテイマーなんだから』