12 店舗作り
テイマーギルドで借りた物件は、掃除などを行ってもらい引き渡しとなった。対応が早く、太一としては大満足だ。
ということで、さっそく新居へやってきた。
「しかし、こんなに早く念願のカフェを手に入れられるとは思わなかった……」
『ふん、俺が狩った魔物のおかげだな!』
ルークが言う通り、資金は魔物の素材を売ったお金だ。太一は大きく頷いて、ルークの首周りをもふもふ撫でる。
「ありがとう、ルーク!」
『こ、こらっ! 気やすく触るんじゃない!!』
といいつつも、ルークの尻尾は嬉しそうにぶんぶん揺れている。
(このツンツンさんめ~~!)
実は嬉しいということがわかっているので、太一は遠慮せずルークを撫でて褒め、ちゃっかり自分もその麗しい毛並みのもふもふを堪能する。
「すーはー、すーはー……」
『匂いを嗅ぐな!!』
「まあまあ」
いつもよりハイテンションになっている太一に、ルークは戸惑っているようだ。ルークが『こら!』と吠えるも、どうにも太一の嬉しそうな表情は変わらない。
太一はひとしきりルークをもふもふして、「よし」と店舗になる部分を見回した。
「まずは生活用品をどうにかしないとだな」
『ああ、買いに行くのか?』
「それなんだけど……スキルを使って作ろうと思ってるんだ」
『何?』
本当に申し訳ないことこの上ないのだが、街の家具屋を見た限り……正直に言って質が物足りない。
アンティークと言えば聞こえはいいかもしれないが、やはりもふもふたちに快適な空間を提供してあげたいのだ。もちろん、自分の生活にも。
「俺には創造(物理)っていうスキルがあるから、それを使う!」
今まで必要がなかったから使っていなかったが、家具などを作れるならどんどん使っていきたい。
『そんな便利なスキルがあるのか? 聞いたことないぞ……』
「俺の固有スキルだからな。よーし、まずは試しにテーブルを【創造(物理)】!」
太一がスキルを使うと、脳内に3Dモデリングのようなポリゴンが浮かんできた。おそらく、それができあがるイメージ映像なのだろう。
(うわ、これで物を作る仕組みになってるのか……)
ひとまず深呼吸をし、太一はお洒落なカフェにあるテーブルを思い浮かべる。
(店の中央に、大きな円テーブル。高さは低めで、脚の部分は猫足のデザイン。木材を使った柔らかいもので、色はナチュラル)
太一が具体的に想像すると、脳内に浮かんでいたモデリングがリアルなものになった。
「よし、これでオーケー!」
太一が閉じていた目を開くのと同時に、室内の中央に大きな円テーブルがドーンと設置された。
「おお、すごい!」
『まさかこんなスキルが本当にあるとは……』
イメージと寸分違わぬテーブルに、太一のテンションはどんどん上がっていく。
「よーし、もふもふカフェに必要不可欠なものといえば、ゆっくりできるスペース! 柔らかいビーズクッションを【創造(物理)】!」
先ほどと同じように脳内でビーズクッションを思い浮かべ、それをスキルで作っていく。
『むっ! これはなかなかいいではないか……!!』
ビーズクッションを見たルークが、ころりと寝転がった。よほど気になったようで、ごろごろしながらそのもちもち感を確認している。
ころころころ……。
(なんだこの可愛い生き物は……)
ツンツンで俺様で若干中二病っぽいところはあるが、こうやってみているとただただ癒しが広がっていく。
寝室にも置いてあげようと決めて、太一はほかの家具の製作も進める。
「あと必要なのは、小さめのテーブルと、椅子と、クッション。あとは棚もあった方がいいよな……【創造(物理)】っと」
はやくも手慣れてきた太一は、どんどん家具を作っていく。もちろん、もふもふたちが休めるお客さんから見えないスペースも設置した。
そして忘れちゃいけないのが、もふもふが遊ぶためのスペースやおもちゃだ。
猫はいないけれど、とりあえず猫じゃらしも作っておく。それからボールに、ぬいぐるみ。音が出るものと出ないものと、二種類。
そして壁にはキャットタワー! さらに中央に置いた大きな円テーブルの中心には小さなもふもふが上れるお洒落可愛いらせん階段を設置!
最後に、窓にレースのカーテンをつけて完成だ。
「ふー、いい仕事した!」
できあがった店舗部分を見て、太一はにやにやを止められない。
まだもふもふはルークしかいないけれど、猫や犬といった種類の魔物が増えることを考えると心が弾む。
そしてふと窓の外を見ると、どっぷりと暗くなっていた。家具の製作に夢中になっていたら、いつの間にか夕方になっていたようだ。
「細部までこだわったからなぁ……」
まあ、その分いいものができたのでよしとしよう。
『……なんだ、帰るのか?』
ルークがくあとあくびをして、ビーズクッションから起き上がる。どうやらすっかり虜になって、太一が作業している間はずっと昼寝をしていたようだ。
「あんまり遅くなると、シャルティさんが心配するかもしれないしね。今日は帰って、明日は居住スペースの家具を作ろう」
『わかった』
早くもふもふカフェを開店したい、そう思いながら太一はテイマーギルドへと帰った。